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W・アーム・スープレックスさん

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将来の夢
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足軽平六の夢

15/02/01 コンテスト(テーマ):第七十六回 時空モノガタリ文学賞 【 戦国武将 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1141

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 足軽の平六が、戦場の中心から離れた雑木林のなかで、その鎧兜に身をおおわれた屍をみつけたのは、夜明け前からはじまったいくさも、膠着状態のまま午後となり、日も大きくかたむきはじめたころのことだった。
 屍はどうやら、敵の武将のひとりらしく、見事な甲冑からみて、相当なランクにあることぐらいは、平六といえども用意に理解できた。
 おそらく、配下の兵にさきんじて、みずから敵陣に斬りこんだ勇猛果敢な武将なのだろう、みれば鎧のすきまから血がながれおちている。鉄砲によるものか、長槍によるものか、あるいはその両方の武器でやられたのかもしれない。
 そばに彼の愛馬か、やがて主が立ち上がるのを信じて、その場にじっとたたずんでいる。馬上で動かなくなった主をけなげにもこの人気のない安全な場所までつれてきたのにちがいない。
 平六の場合は、まるで逆で、なるべく鉄砲玉のとんでこないところへと、安全地帯をもとめてやってきたところが、この雑木林というわけだった。
 安い手当で、こきつかわれて、ただただその他大勢、頭数だけの、くたばってなんぼの足軽だ、いくさがおわるまでどこかに身をひそめているぐらいの料簡は、いつの間にか平六も身につけるようになっていた。
 死んでもなお、威厳がただよう鎧武者だった。
 農民から身をおこし、いつかは出世してこのような武将になる夢を胸に、ひたすら足軽稼業をつづけてきた平六だった。
 だが、まわりの同輩たちが次々に出世していくそばで、平六だけはいつまでたっても、しがない雑兵にあまんじていた。
 確かに、戦国時代に生まれた男として、チャンスはたくさんあっただろう。しかしその機会をものにするだけの、度量も、才覚も、知能もあいにくと彼はもちあわせていなかった。平六はいつまでたっても、危険、きたない、きついの3Kの足軽身分から、ぬけだすことができずにいた。
 一度でいいから、こんな兜をかぶり、鎧をまとって、いくさにでてみたかったな。
 そのおもいは、平六のなかで熱くたぎりだし、その目はくいいるように倒れた鎧武者のうえにそそがれていた。
 と、いきなり重たげな音がして、平六の足もとで死んだとばかりおもっていた鎧武者がわずかにうごいた。
 恐怖のあまり平六は、頭がまっしろになってしまい、なにを血迷ったか、両手でにぎりしめた手槍を、相手の鎧のすきまからむちゃくちゃに、なんども突き刺していた。
 もう相手がぴくりともうごきだしそうにないのを確認してから、ようやく彼は、じぶんのとった行為にたいして、愕然となった。
 この武将の首級をとって、味方の陣地にもどれば、おれはたちまちヒーローに祭り上げられるのでは………。
 一瞬、そんな考えがちらと頭をかすめたが、さすがに平六は、そんなむしのいいことが、まかりとおるなどまず、ありえないとかぶりをふった。
 どうやって討ち取ったと問われたら、いったいなんとこたえればいいのだ。真っ向勝負などとおれがいったところで、だれが真に受けてくれるというのだ。
 傷つき、ほとんど虫の息の相手の首級をとったことが露見すれば、かりに戦場において同じ目にあったらと考える連中によって、その卑劣な根性をなじられ、それこそ首をはねられかねなかった。
 30分後平六は、屍からはがしとった兜と鎧をまとって立っていた。
 首級をとるなどという、だいそれたことはやめにして、こんな甲冑をきてみたかったという最初の願望を、せめてかなえるべく、このいでたちとなったしだいだった。
 ふかぶかとかぶった兜の下の、面具のなかから目だけをのぞかせて彼は、じぶんの全身をおおいつくす重たく威厳にみちた鎧を、ほれぼれとしてみおろした。
 こうしているだけでほんとうに、じぶんが名だたる戦国武将になったような勇壮な気持ちになってくる。
 大勢の兵卒たちをおもいのままにうごかして、敵陣にせめいるじぶんの勇姿を、平六はうっとりしながら頭のなかでおもいえがいた。
 もしこの時代にデジカメがあったら、セルカ棒を駆使して彼は自分を撮りまくったことだろう。
 平六はふと、まだ同じ場所にうごかずにいる馬に目をとめた。馬もまた、こちらをみかえしたのをみた彼は、きっと自分を主とおもいこんでいるのだと判断し、鼻づらでもなでてやるかと、ゆっくりと馬のほうに歩み寄って行った。
 馬は、平六がまぢかにくるのをまって、いきなり鼻息もあらく前足で蹴りつけた。
 たまらず平六が尻もちをついたとき、あたりがにわかにざわついて、味方の足軽たちがどっとおしよせてきた。
 足軽たちは、平六のまとっている、敵軍の紋章のついた武将クラスがまとう鎧兜をみて、てんでに敵将だと叫びながら、さきをあらそうようにして手槍を、刀をふりかざして襲いかかってきた。


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