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坂井Kさん

今年(2014年)は思い付きと勢いだけで書いてきましたが、来年(2015年)は、状況設定をもう少し固めてから書こうかな、と思っています。スティーヴン・キングによると、「状況設定をシッカリとすれば、プロットは無用の長物」らしいですから。

性別 男性
将来の夢 夢というより目標として、来年(2015年)こそ長編小説を書き上げたい。
座右の銘 明日はきっと、いい日になる。

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祖母ちゃんと飛行機

15/01/26 コンテスト(テーマ):第七十四回 時空モノガタリ文学賞 【 空港 】 コメント:2件 坂井K 閲覧数:1323

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「ウチはなあ、飛行機いうもんが嫌いやねん」それが、5年前に死んだ父方の祖母の口癖だった。子供の頃、僕はその理由を何度も訊ねたけれど、祖母ちゃんからは「嫌いなもんは嫌いやねん。特に理由なんてない」――そういう答えしか返ってこなかった。子供ながらに(戦争中に何かあったんやろなあ……)と薄々感付いてはいたが、結局、聞くことはできなかった。

 父さんにも訊ねたのだが、詳しいことは何一つ聞いていなかった。祖父ちゃんが生きていれば答えてくれたかも知れないけれど、僕の生まれる前にとっくに亡くなっている。だから、祖母ちゃんの飛行機嫌いの理由は、ずっと分からないままだった。――祖母ちゃんが亡くなった後、一人のお爺さんが訪ねてくるまでは。

 その日出張中だった父さんに代わって、僕がその人の応対をした。――その人はお爺さんと言っても、享年87歳の祖母ちゃんと比べると、10歳以上若い感じだった。最初、彼は「古い知り合いなんや」と言うだけで詳しい間柄を話してくれなかったが、僕がしつこく食い下がると、根負けして、重い口を開き始めた。

「私はねえ、あなたのお祖母さんの元婚約者の、弟なんです」――婚約者がいたこと自体はそれほど意外でもない。戦争で夫が亡くなり戦後別の人と再婚した、なんて話はいくらでもある(現に母方の祖母がそうだった)。戸籍上の祖母ちゃんは初婚だったから、元婚約者は、籍を入れる前に徴兵されて戦地で亡くなったのだろう。

――と思ったのだが、違った。「兄はねえ、戦争の翌年には生きて帰って来ました。せやけどねえ」――大きな怪我を負っていたとか、記憶を失くしていたとか。「いいえ、幸いにも大した怪我もなく帰って来られました。栄養不足でガリガリにはなってましたけどねえ……」

「問題があったんは身体の方やのうて、心の方なんです」――そうなんですか。「ええ、同じ部隊の、ついさっきまで生きとった仲間が、ふと見ると隣で死んでいる。そんな経験をしたら、誰でも、多少なりともそうなりますやろ」――でしょうね。「それでも半年ほど経つと、昔と変わらへん受け答えが出来るようになりました」

「――あくまで昼の間に限っては、ですけど」――と言いますと?「兄のいた部隊はねえ、夜間爆撃に遭って、兄を含む数人以外は、全滅してしもうたんです。それ以来、夜が怖あなってしもうて、灯りを消して布団に入ると、ブルブル震えるんです。近くで寝ていた私にも伝わってくるぐらい激しゅうね……」

――僕は何も言えなかった。今の時代は知らないけれど、僕の小学生時代には、年に一度戦時中のことを知っている人が学校に来て、色々語ってくれていた。防空壕に逃げ込んだ話。空襲に遭って家を焼かれた話。食糧の配給が少なくてひもじい思いをした話。一度だけ広島か長崎で被爆した人の話も聞いた。

 だけど、戦場での話は聞いたことがなかった。戦争を扱った映画を観たり漫画を読んだりしたことはあるけれど、二十歳をとうに超えた大の男(終戦当時二十五歳)が毎晩震えるぐらいの経験をした、本当の戦場での様子など、想像することすら難しい。――祖父ちゃんが生きていたなら、話してくれていただろうか?

「それでねえ、兄はチーちゃん―あなたのお祖母さん―に、会いに行く決心が、なかなかつかんかったんです」――そういうときこそ、恋人が必要だったのでは?「今の人は当然そう思いますやろな。当時の私ですらそう思たんですから。せやけど、兄は『こんな情けない姿をチーちゃんには絶対に見せられへん』言うて、結局、会いに行かんかったんです」

――祖母は、お兄さんが生きて帰って来てはったこと、知っていたんですか?「いいえ。知らへんかったと思います――と言うより、私が嘘を教えたんです。『兄さんは米軍の飛行機に撃たれて死んだんです』って」――そうか、せやから……。「どうかしはりましたか?」――いいえ。それで、お兄さんは今もお元気なんですか?

 数秒間、その人は沈黙した。――それから、言った。「兄はねえ、その後、すぐに自殺してしもうたんです」――すいません……。「いいえ、ええんですよ」その人は優しげな―そして悲しげな―笑顔を見せた。僕はいつしか泣いていた。涙はなかなか止まらなかった。

 僕には戦争の真実など分からない。けど、それでもやっぱり叫びたくなる。――戦争なんてクソ食らえや! って。

――あれから5年。僕は毎年、祖母ちゃんの命日になると空港に行き、飛行機に乗る。行き先は毎回違っている。去年は祖母ちゃんの生まれ故郷の鹿児島県。今年は祖母ちゃんが行きたがっていた北海道だ。上着の内ポケットには、祖母ちゃんの骨のかけらと、元婚約者の骨のかけらを、ハンカチで包んで入れてある。

 祖母ちゃん、二人いっしょやったらさ、飛行機いうのも、そんなに悪くはないやろう?


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このストーリーに関するコメント

15/01/27 光石七

拝読しました。
これも戦争の悲劇ですね……。本当に「戦争なんてクソ食らえ!」です。
主人公の粋な供養、おばあちゃんも喜んでおられるのではないでしょうか。
平和の大切さを改めて感じるお話でした。

15/01/28 坂井K

>>光石七さん、コメントありがとうございます。

数年前に亡くなった祖父からは、戦時中の話は一切聞いたことはありませんでした。ですが、祖父は戦時中の回顧録を残していました。パラパラとめくってみたのですが、生々しくて、未だにキチンと読めないでいます。

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