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W・アーム・スープレックスさん

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決定的瞬間

12/07/10 コンテスト(テーマ):第十回 時空モノガタリ文学賞【 自転車 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2694

時空モノガタリからの選評

最終選考

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超ド級宇宙船ミナモト号のコントロール室には、多くの搭乗員が集まっていた。かれらの目は一様に、巨大モニターの画面に映し出された2S惑星に釘づけになっていた。
さきほどこの惑星から、コンタクトを楽しみに待つとの連絡がはいった。
ヘイケ船長は、自信ありげに胸前で腕をくんだ。
これから二つの、おそらくこの宇宙においても一二を争う高度な文明をもった世界が遭遇するのだ。
補佐役のシキブが船長のまえに歩み寄ってきた。
「ミナモト号は6時間後に2S惑星の上空に到達します」
彼女が感慨深げな口調になるのもむりはなかった。
文明を築いた世界をもとめてこれまで、気の遠くなるような距離を飛行し、可能性のある星々をしらみつぶしにたずねまわってはそのつど、苦々しい失望をなめてきた我々だった。小惑星一個分の大きさと、無尽蔵なエネルギーをもつミナモト号の、都市なみの生活空間があればこそ、数千人の乗り組員もめげずにやってこれた。
超文明世界が確認された2S惑星の発見が、そんなかれらを欣喜雀躍させたのはいうまでもなかった。
これから二つの文明がたがいの、豊かな知識と情報を交換しあって、さらなる宇宙の発展に寄与するというわけだった。
モニターにはいま、2S惑星の特徴的な建造物でおおわれた大地が映っている。その洗練されたむだのない幾何学様式ひとつみても、かれらの優れた科学力が容易に推し量られた。乗り物はみな空中にあって、その推進力はどうやら半重力を利用しているようだった。都市中央にぽかりと空間が認められ、いまそこから次々と種類の異なる宇宙船が出入りしている。
「あの空間はたぶん、多次元世界の出入り口だと思われます。かれらは宇宙を飛行することなく他の天体に移動する方法をみつけたようです」
ヘイケ船長は、その科学者の説明をきくなり、自慢の超ド級宇宙船がとたんに、ウドの大木の思えだすのを、あわてて首をふって振り払った。
「なに、我らのミナモト号にだって、相手方をあっと驚かせる科学の粋が満載されているのだ」
「その意気ですわ、船長」
励ますように、シキブがいった。

6時間は、あっというまにすぎていった。
ミナモト号はいま、2S惑星の50キロ上空に停止していた。
ヘイケ船長とシキブ、そして10名の代表者が、着陸用小艇に乗ってこれから、地上に向かおうとしていたそのとき、地上から緊急連絡が届いた。
「ローデンという、電気を食う生命体が多次元世界から侵入したため、地上の電気設備のいっさいがオフ状態に陥ったそうです」
通信係が青ざめて伝えた。
なるほど、モニターをみると、乗り物類のすべてが地上にへばりつくように停止しているのがわかった。突然、そのモニターの画面が真っ暗になった。
「どうやらローデンは、この小艇にも侵入したらしい」
ヘイケ船長はただちに撤退を命じたが、とき遅くみんなを乗せた小艇は、緊急用の翼を使ってゆっくり地上に降下してゆきやがて、着陸した。
「ローデンは、電気で腹がみたされると、立ち去るそうです。しかしそれにはかなりの時間がかかるといっています」
と通信係は、相手方から届いた最後の連絡を船長に伝えた。
「それまでになにか、相手方とコンタクトする方法はないだろうか?」
ヘイケ船長は、みんなにたずねた。代表の10人はみな、権威とよばれる優秀な頭脳の持ち主ばかりだった。
最初に、考古学者が口を開いた。
「数千年前、人間は、電気を使用しないで地上を移動できる、自転車という乗り物を日常的に使用していました。原理は簡単です」
と考古学者は口で、自転車の構造を説明した。
すると機械工学の権威が、
「それなら、この小艇にある道具と工具で、簡単につくれますよ」
さすがに権威だけあって、本当にわずかの時間で一台の、自転車を完成させていた。
「これ、どうやってうごかすの?」
シキブのみならず、みんなも首を傾げるものだから、作った手前、機械工学の権威が自転車にまたがった。が、ペダルをひとこぎするまもなく、権威は自転車もろともひっくりかえった。
かわるがわる、他の権威たちが乗りこなそうとしたが、かれらはみな頭が重くて、ことごとく失敗した。
「わたし、運動神経ゼロです」
いやがるシキブをむりやり乗せて、みんなが後ろから押し出したとき、前方からこちらにちかづいてくるものがあった。
あきらかに、この惑星の者とおもわれる、ひょろながい背丈の人間が、二輪車にまだかって、おぼつかなげに前進してくるのがみえた。
その自転車にむかって、勢いがとまらないまま、シキブの乗った自転車が、まるで運命の糸にみちびかれるように、しゃにむに突進していった。
どちらも止め方をしらないのはあきらかだった。その証拠に、一瞬後には二台の自転車は音をたててぶつかっていた。
これが、超文明世界同士の遭遇の、決定的瞬間だった。


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このストーリーに関するコメント

12/07/11 汐月夜空

超文明同士なのに、自転車で邂逅するというのが面白いですね。
しかみ、ぶつかりあうっていうところが。
どれだけ賢くなっても、昔の技術が使いこなせるわけじゃないんだなあ、と当たり前なのに忘れてしまうことを思いました。
独特の世界観が面白かったです。

12/07/13 W・アーム・スープレックス

汐月夜空さん ありがとうございます。
恒星間飛行が実現する未来に、自転車が残っているかどうかはわかりませんが、算盤同様、コンピューターに頼らないアイテムというものも、未来に残していきたいものです。

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