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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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娘ちゃんのクラシック!

15/01/23 コンテスト(テーマ):第七十五回 時空モノガタリ文学賞 【クラシック音楽 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:1166

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 俺が晩酌をしていると、娘ちゃんを寝かしつけ終えた嫁さんがこちらへ向かってくる。
 昨日、嫁さんが娘ちゃんにピアノを習わせたいと言い始めて、近頃小さいピンクのおもちゃピアノに娘ちゃんが熱心に向かってたなというのを思い出して、つい口を滑らせる。
「でも娘ちゃんさ、俺たちのお子ちゃまなのに、ピアノなんてやる柄なのかな」
「どういう意味?」嫁さんがむっとした顔で椅子に座る。
「別に嫌みじゃないよ。ただ、俺たちってクラシック聞かないじゃん」
「娘ちゃんがお腹にいた頃聞いてたよ」「胎教音楽としてでしょ? じっくり耳を澄ませて聞いてたわけではないじゃない」俺は言葉の選択を間違えないよう心がける。
「でもお腹の中にいた娘ちゃんには響いてたのかも。親である私たちが子どもの可能性を潰すようなことはしたくないじゃない?」
「そりゃあ勿論さ。なんとなく、俺なんかベートベンとゴッホくらいしか知らないのに......不思議だな〜と思って」「夫さんが言いたいのはバッハだと思うんだ、ゴッホって画家だし」「あれ、そうだっけ。間違えちゃったなー、バッハッハ!」「つまんね」苦笑いの嫁さん。
「......なんか冷たくないっすか」
「最初に突っかかってきたのはそっちでしょー」
「いや、そんなつもりじゃ」やっぱり地雷踏んでたみたいだ。

 よし、と手を叩いて嫁さん。「じゃあ、知る努力をしよう!」
「え?」俺の間抜けな顔も見ずに嫁さんは立ち上がり、ノートパソコンと携帯型音楽プレイヤーとCDを持ってくる。
「はい、どうぞ。この中に確か、曲入れてるはずだから」
「あ、うん」言われるがままに俺は音楽プレイヤーを受け取る。嫁さんもノートパソコンで各々が鑑賞タイム突入。

 まさかこんな流れになるとは思ってもみなかった。俺は曲の善し悪しに拘らず、楽曲を聴き終えた後に「良いね! 娘ちゃんに習わせよう!」と笑顔で言う、と心の中で決める。
 海外のハードコアバンドばかり聞いている俺がクラシックなんて、お行儀良すぎだろとも思う。

 ーーでも、予想に反して俺はこの曲聞いたことあるなと思ったり、すげー迫力で格好良いなと感じたり、心が癒される感触を覚える。食わず嫌いというかまともに食べようともしていなかった俺はイヤホンを外し、嫁さんに
「すげー良いじゃん!」と思わず笑顔で言う。

「夫さんが褒めるなんて予想外なんだけど」
「え、じゃあ嫁さんはどう思ったの?」俺は嫁さんもてっきり意見を合わせてくると思ってたけど。
「私はまぁ、普通かな」俺をピアノの習いごと賛成派へ寝返らせる為に策を講じたくせに、正直な奴め。
「あ、そうなの。でも俺は、本気で良いなって思ったよ」
「え! じゃあ、娘ちゃんにピアノ習わせていいの?」「ていうか、俺は最初から駄目とは言ってないんだけど」

 それから俺は通勤の車の中でクラシック音楽を聴くようになるし、娘ちゃんもピアノを習い始める。今のところ楽しいみたいなんで、それはなによりだと思う。まずはなんでも齧ってみないとその味の片鱗さえわからんもんだよな、うん、と信号待ちの車の中で指揮者になりきったつもりで手をぶんぶん振りかざす。隣りの車に乗った綺麗なお姉さんに二度見されてちょっと恥ずかしい。でも、これがストレス発散で、俺は癒されているのだ!

 その内、嫁さんが「娘ちゃん、曲弾けるようになったって!」と会社から帰ってすぐの俺に報告があり、娘ちゃんが俺に聴かせたくてうずうずしてる様子なので、晩飯そっちのけでピンクの小さなおもちゃピアノの前に集合。俺と嫁さんはピアノコンサートの観客。
 果たして娘ちゃんはどんな曲を弾くのだろうか、まさかいきなり高度な曲をとか思っていると、どこか懐かしいフレーズが鼓膜を震わせる。

 タララ、チャッチャン! タララ、チャッチャン! これはもしかして、
 “ねこふんじゃった”じゃないですか!
 俺は娘ちゃんの楽しそうな顔を見て思わず笑顔になる。娘ちゃんのおかげで俺も楽しいよ、本当。
 
 ん、でもちょっと待てよ......。

 ーー娘ちゃんが寝静まった後、ネットでちょっとした疑問を解消しようと試みる。
 すると、ねこふんじゃったは“民謡”であって“クラシック”ではないなんて掲示板で議論が交わされていた。予感的中。
 そうかー、クラシックじゃないよな〜なんて流されそうになる。けど、すぐに思い直す。

 みんな、馬鹿なことを言うのはやめよう! 娘ちゃんの“ねこふんじゃった“は紛れもないクラシックなんだ。だって、俺はこんなにも楽しんだんだから! こんなにも癒されたんだから!!なんて書き込んでやろうと一瞬思ったけど、当然そんなことはしない。バッハッハ! こんなにも楽しい娘ちゃんのクラシック、俺は意地悪だから少しだって他の奴らに味わわせてやらないのだ。


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このストーリーに関するコメント

15/02/09 光石七

拝読しました。
なんとも微笑ましい家族の姿、ほっこりします。
いいんです、子供が何を弾こうと親にとっては芸術ですもの。
笑顔になれるお話をありがとうございます。

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