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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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夢を叶える空港

15/01/23 コンテスト(テーマ):第七十四回 時空モノガタリ文学賞 【 空港 】 コメント:12件 草愛やし美 閲覧数:2498

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「じいちゃんは日本の田舎で米作ってます」
 そう言おうと思ったが強張った口から声が出てこない。頭の中が真っ白で、Grandpaしか出てきやしない。とにかく、気持ちをわかってもらわなくては。ここしかないんです──I do my best here!

 つい数日前の僕はニートだった。地方とはいえ、国立大学を卒業したのに何度目かの公務員試験に失敗。そこから悶々とするニートの日々が始まった。なぜ、公務員に拘ってしまったのだろう。親の手前、意地になっていたのかもしれない。小学生の頃は飛行機が好きでパイロットに憧れていたのを思い出していた。空を飛びたい、自分はもしかして、鳥の生まれ変わりじゃないかと馬鹿みたいなことを考えた幼い頃が懐かしい。だけど、今更パイロットになれるわけないと翼は諦めた。それは、夢なんて持たない方が良いと悟った時だった。
 ニート歴が二年も過ぎた頃、何気なく開いたSNSの一枚の画像に釘付けになった。それは、青空のもと、どこまでも広がる緑の農地を写したもので、海外農業研修募集の広告だった。田舎のじいちゃんの言葉が蘇る──「拓馬、空も良いが大地もえぇぞ。米作りは夢を育てることだ」 
 居場所を求め、僕はアメリカ行きの飛行機に乗ることになった。生まれて初めて、飛行機に乗れる、それだけで意欲がわいた。
 成田空港はでかい。田舎者の僕は慣れない都会に戸惑いながら、何度も人に尋ねたり、案内表示を見て飛行機会社のカウンターまで辿り着いた。先が思いやられたが飛行機に乗りたかった。搭乗できた時は、正直、ほっとした。必死で窓にしがみ付き外を見る。空港が遠ざかり、やがて海ばかりになり、次は空ばかりになった。窓から外を見ていたのに、しばらくすると締められてしまった。乗客のほとんどが就寝するようだ、寝ておけば時差で苦しむことが軽減されると説明書にあったが、興奮して一睡もできない。やがて、大海原の向こうに大地が開けたかと思ったらあっという間に、サンフランシスコ空港に着いていた。もっと乗っていたかったのにと思った。空港に僕の名前のプラカードを持った案内人が立っていた。この人は、人材会社が手配した在米日本人で、日本語が話せると安心したのも束の間、すぐに、目的の農場に運ばれ、僕一人降ろされた。

 だだっ広いこの農園で、カリフォルニア米を作るのが仕事だ。新しい自分に何とか出会えるように頑張ろうと意気込んだが、訛った体はいうことを聞いてくれず、三日目に体調を悪くした。体調が回復しても仕事はきつく、思うような自分に出会えていなかった。そんな頃、農場主のポールさんに着いて来いと言われ車に乗り込んだ。農村から車で一時間も行った先に滑走路と建物が見え、そこに小さな空港があることを知らされた。セスナが二機並んでいる。僕は珍しさにキョロキョロ見渡しながら、ポールさんに言われるまま、車から荷物を運び出した。荷物は昨日まで、僕も含め農場のスタッフ全員で、車に積んだ稲籾だ。これをどうするのだろう。
「小さいけれどこの空港は、私たち村人にとって、とても大事なんだよ。ここから、私たちの夢が叶うのだからね」
 夢を叶える空港? 聞こうとしたが、ポールさんは笑いながら、空港の人と一緒にセスナに向かっていく、慌てて後を追いかけ一緒にセスナに乗り込むと、すぐにブルブルと大きな爆音を轟かせ、セスナは青空に吸い込まれるように一直線に駆け上った。たった今まで自分が佇んでいた空港がみるみる小さくなり、僕の住む農場が箱庭のように見える。作業小屋の前に仕事仲間たちの歩く姿が見えたが、何もかも黒いフィギアのようにしか見えない。
「凄い!」
 あとは言葉にならない。真っ青な空とどこまでも伸びる緑の大地のコントラストが美しい。水が張られた田には、鳥たちが群れているだけで、人っこ一人いない。ただただ、どこまでも地平線が続くだけだ。大昔、人々は地平線の彼方に、地の果てがあり海水が滝のように流れ落ちていると考えたとか──天動説の地の果てのイラストが脳裏に浮かぶ。だけど、セスナから見える地平線の彼方は美しい光に包まれていて、未来の国が開けているのではないかと僕には思えた。やがて、水の張られた田んぼの上空に出ると、セスナから種籾を撒いた。バラバラと青空の中を落ちて行く種籾は圧巻だ。
「これが、水を張った田に種籾を撒く湿式法という夢の農法なんだよ。私たちの村では空港と協定を結び、空港も含めた農法をしているんだ」
 ポールさんの自信に満ちた言葉がひたひたと心に沁みて行く。夢を叶える空港は、大地で夢を育てると言ったじいちゃんの言葉に通じるものがあると僕には思えた。この地で生涯を生き抜きたい、大地で稲を育てそれを上空から見守る──どれほど幸せな時を刻めることだろう。

 Take off to the future!


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このストーリーに関するコメント

15/01/23 草愛やし美

補足説明させていただきます。

アメリカ、カリフォルニア州の二十万ヘクタール以上の広大な田んぼは、水鳥などの野生生物の生息の場になっています。その恩恵を得る動物は、絶滅が危惧される三十種を含め、二百三十種にも及んでいるそうです。
春の稲の成育期には餌場となり、冬季は稲藁を埋めた田んぼの湿地で渡り鳥が羽を休めるなど、四季を通して野生生物に生活の場を与えています。野生生物が田んぼを踏み歩くことで、稲藁の分解を助け、豊かな土壌づくりの手助けになり、カリフォルニア米の生産が進むのです。野生生物たちは自然の恵みをともに分かち合い、サステイナブルな農業が実現しています。
自然に、環境に、そして未来にとってやさしい夢の農法によって、アメリカの米は栽培されています、翼を持った米といえるかもしれません。所変われば米作りも変わるものだと思います。

十年前、私が在米中の頃、カリフォルニア米は、とても美味しく安かったです。現在も同じかと思います。20lb(約9.07キロ)で、千円前後でした。カリフォルニア米を使ってあちらでは、清酒も作られています。これにより、在米の日本人の人々はお米やお酒を安く食べることができています。近年、日本食ブームで、アメリカ各地に日本食レストランができています。もちろん、カリフォルニアのお米で賄われています。

15/01/24 石蕗亮

イメージがでかくて、でも空港や飛行機のシーンも想像できました。
酒呑みの私としては補足のカリフォルニア米の清酒が気になりました。

15/01/24 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

そういう米作りのやり方があるなんて知りませんでした。
広大な土地の広がるアメリカならではのダイナミックな農法ですね。
食が成り立たなければ、人類の未来はありません。
農業に携わるそういった人たちにこれからも頑張ってほしいと思いました。

15/01/24 夏日 純希

思いもよらぬ空港できましたね。
昔、社会科の先生が、あんな農法をやっているところに、
どうやったって日本の農業は太刀打ちできませんね、
と少し悲しそうに言っていたことを思い出しました。

発想がアメリカですよね。シンプルで豪快です。
夢を叶える空港。いい、空港でした。

15/01/25 鮎風 遊

やっぱりアメリカはデカイ。米作にtake offですね。
日本の場合は、時々薬散布のため、ラジコン飛行機がtake off。

夢もアメリカの方がでっかくなる。
大陸的な物語で、心もでっかくなりました。

15/01/25 霜月秋介

草藍さん、拝読しました。
自然の美しさを感じとれる、素晴らしい掌編でした。
青い空と緑色の大地!ニートの主人公さんにはさぞ、刺激的でしたでしょうね。

15/01/25 泡沫恋歌

草藍 様、拝読しました。

さすが、アメリカはスケールが大きいですね。
セスナで種籾を撒くんですか? 日本の田植えしかしらない、自称「鎖国民」の私は
飛行機に乗らなければ観れない世界に憧れていますが・・・飛行機怖くて、小さな世界で
生きています[岩陰]・ω・` ) チロッ

ニート君には、希望のある良いお話ですね。
草藍さんの見識の高さにはいつも脱帽してます。

15/01/27 滝沢朱音

草藍さん、十年前にアメリカにいらしたのですね。
いろいろな幅広く深い体験が、今の草藍さんの作品の一つ一つにつながっているのだなぁ〜と、改めて…
青い空と緑の大地、水が張られた田、セスナからまかれていく種籾。
のどかで壮大で、未来につながる、そんな美しい光景が見えた気がしました。

15/01/27 光石七

拝読しました。
アメリカは農業もスケールが大きいのですね。
自分の居場所を見つけた主人公に、心からエールを送ります。
読後感が爽やかで、読む者も元気づけられるお話だと思いました。

15/01/28 草愛やし美

>OHIMEさん、お読みいただき嬉しいです。温かいコメントに笑顔いただきました。ありがとうございます。

相方がアメリカに単身赴任の頃、米国やその周辺国を旅して楽しむ機会に恵まれました。この話は、サンフランシスコに行った折に、見聞きしたものを参考に書かせていただきました。日本人向けのヨセミテツアーに参加した観光バス内で、カリフォルニア米に関するPR映像が流れ、そこで初めて、こういう農法があることを知りました。美しくも衝撃的な画像でした、青空と緑の広大な田んぼ、セスナから撒かれていたのは、当時は田植え用の稲苗でした。
今回これを書くにあたって調べましたが、苗の事項はなく種籾でした、農法が変わっているかもと、種籾にして書いています。

>石蕗亮さん、お立ち寄り感謝いたします。コメントありがとうございます。
カリフォルニア米で作ったお酒はなかなかのお味らしいです。でも、日系スーパーの酒屋ではもっぱら、日本から輸入された日本酒や焼酎が売られています。輸送代のぶん、お高いのですが、英字ラベルの米国発のお酒より、購入者には良いようで、あきらかに、日本産の高価なものが売れていました。品数も日本のものが多く、酒造りの奥深さを見る感がありました。やはり、米国ではカリフォルニアのワインが主流かもです。

>そらの珊瑚さん、お読みくださって嬉しいです。

食は人類の未来を残すために必要不可欠なもの、どこの地でも様々な農業が試されるのは良いことだと思います。日本の米農家にとっては、脅威だと思うと複雑な思いもありますが……。関税などで守られているとはいえ、問題は大きいと思います。アメリカのあの広い大地と闘うなんて土台無理だとは思います。でも、日本の魚沼のような名産品は健在です。お互い切磋琢磨して、より良いものを生産できていくのが理想でしょうか。

>夏日純希さん、お読みいただき感謝。先生のおっしゃること、書き手として心痛みます。日本では、狭い土地を精一杯工夫して、段々畑や棚田など作られています。それでも、量的には太刀打ちできず、価格競争になれば負けると思います。でも、数年前に米が不作の年があって、その折に、緊急対策と銘打ち、カリフォルニア米やタイ米など輸入された記憶があります。
八方塞がりのように感じる時にも、違った方に目を向ければ、救いがあるかもしれな──そんなことを考え、日本でうまく生きられなかったニート君が他国で道が開ければ良いなと思い書いてみました。

>鮎風游さん、いつもお立ち寄りくださって嬉しいです。コメント感謝しています。

アメリカという国も含め、海外に住む場合、相性みたいなものがるようですね。生活して3日でここは嫌だと帰国する人を知っています。英語が話せず、運転もできない私でしたが、良い思い出を持って帰国できたのは、きっと相性が良かったのだろうと思っています。

>霜月秋介さん、お読みいただき、コメントありがとうございます、嬉しいです。

ニートの彼が、何か変われるきっかけになったとすれば、米国であろうとその他の場所であっても良かったのではないかと思います。夢を持てるって素敵なことだと考えます。

>泡沫恋歌さん、鎖国民ですか、高所さんかな? 飛行機は安全な乗り物ですから、案外乗ってみればOKかもですよ。怖いもの見たさにはなりませんか? ぜひ、一度、体験してみてください。私は遊園地の乗り物は駄目ですが、安定した飛行機は大丈夫だと思っています。コメントありがとうございました。

>滝沢朱音さん、アメリカは相方が9年ほど単身赴任した折に、行ったり来たりした国です。運転も英語も駄目な私ですが、旅行好きだったので、休暇の間に近隣を旅行できるという誘惑だけで、出かけてました。あの頃、こんな風に創作するとは、微塵も思っていなかったので、日記どころかメモなどの記録ひとつ残していません。今では思い出せないことが多く、後悔しています。あちこち行ったけど、いつだったかしら、どこ行ったのかしらなんてほんと情けないです。コメントありがとうございました。

>光石七さん、お褒めの言葉に舞い上がってしまいました。コメントありがとうございます。

アメリカの記憶はまばらですが、この飛行機を使って農業をしているという知識はよく覚えています。知った時の衝撃が凄かったからでしょうね。狭い日本では到底考えつかない農法でしたから。創作を初めて5年ちょっとになりますが、在米していた10年以上前には創作するなんて考えもしなかったです。今になって、アメリカでの貴重な体験をちゃんと記録しておかなかったことを、後悔しています。苦笑

15/10/16 kotonoha

真っ青な空、雄大なカリフォルニアの土地を想像しています。
広々とした田園の種蒔きは違いますね。

「夢を叶える空港」タイトルがいいですね。^^
「空も良いが大地もえぇぞ」おじいちゃんの言葉は生きていますね。
何だか私の心が穏やかのなりました。

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