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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

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帰る場所

15/01/22 コンテスト(テーマ):第七十四回 時空モノガタリ文学賞 【 空港 】 コメント:3件 霜月秋介 閲覧数:1386

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 帰るべき場所が在るというのが、どれ程幸福なことであるか、あの頃はまだ知らなかった。失ってみて初めて、身に染みてわかるんだ。在って当たり前だったことが、かけがえのない大切なものだったことを。

 私の両親は、私が幼い頃に事故で他界した。天涯孤独となった私は施設に入り、施設で知り合った女性と結婚し、子供もできた。しかし一週間前、家の火事で逃げ遅れ、私ひとりだけが助かった。

 住む家も貯金も愛するひとも、全てが灰となったんだ。放心状態となった私はふらふらと町を歩き、気がつくと公園でブランコに座っていた。

 ギシギシとブランコが軋む。どこからかカラスの鳴く声が聞こえた。小学生くらいの子供が数人、今日の夕御飯の予想を言い合って公園の前を通り過ぎた。空が茜色に染まっていく。もうすぐ、陽が沈む。

 公園の砂場に目をやると、白い紙飛行機が落ちていた。さっき通った小学生が飛ばしたのだろうか。私はブランコを降り、それを拾った。その紙飛行機を広げてみると、小学生のものと思われる、採点済みのテスト用紙だった。『白井かみひこ』と名前が書かれており、点数は八点。赤点である。

「ったく…紙飛行機に恥かかせてんじゃねえよ」

 私はその恥ずかしい紙をまた折って、紙飛行機を作り直して飛ばした。しかし二メートルも飛ばずに墜落した。

「やっぱ飛ばねえか。あんな点数じゃ恥ずかしくて飛べねえよなあ」

 この紙飛行機も私と同じだ。帰るべき場所、空港が無いのだ。人間という空港から飛び立ったのはいいが、飛び立った地点で役目は終わり。百点のテストだったら紙飛行機にならず、持ち主と共に家へ帰っただろう。

 私はその紙飛行機を再び飛ばした。落ちては拾い、また飛ばしては落ちて、また拾って飛ばして、それを繰り返しているうちに辺りは暗くなった。

「さ、帰ろうか」

 私は紙飛行機を、近所の小学校の校門の前に、重石をつけて置いた。明日の朝には誰かが拾ってくれるだろう。あの恥ずかしい紙飛行機を。

 私にはこれ以上、失なうものなどない。乗客のいない飛行機だ。背負うものは無い。

 探そう。これから向かうべき空港を。生きている限り、自分の帰る場所も自分で見つけられる。きっと…


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このストーリーに関するコメント

15/01/25 泡沫恋歌

霜月 秋介 様、拝読しました。

家族を喪って分かる、家庭が自分の返るべき場所で、飛んでも、戻って来れる空港だったんですね。

主人公がもう一度、自分の【 空港 】を見つけるまで諦めずに頑張って欲しいものです。

15/01/27 光石七

拝読しました。
淡々とした語り口だけに、主人公の孤独が一層際立っていると思います。
向かうべき空港がみつかりますように。

15/02/01 霜月秋介

恋歌さま、コメントありがとうございます
人も飛行機も、目指す場所があるからこそ進むことが出来るんだと思うんです。しかし紙飛行機にはそれがない。何のために今、自分は頑張っているのか?どこへ向かっているのか?それがわからなければ、真っ直ぐ進むことは困難なのではないでしょうか。
光石七さま、コメントありがとうございます
生きている限り、いくらでもチャンスはあるはずです。ないと思えばないんです。孤独は時として人を絶望へと追い込みますが、目指す光さえ見失わなければ、それに向かって頑張れると私は思います。

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