1. トップページ
  2. カラトムライ。

滝沢朱音さん

キノブックスさんのサイトでショートショート連載中です。 https://twitter.com/akanesus4

性別 女性
将来の夢 作家として在りたいです。
座右の銘 作品一覧 https://fc2.to/vzFOUZ

投稿済みの作品

3

カラトムライ。

15/01/21 コンテスト(テーマ):第七十四回 時空モノガタリ文学賞 【 空港 】 コメント:4件 滝沢朱音 閲覧数:1495

この作品を評価する

 沈む陽を追うように、ゆっくりと山に墜ちてゆく幾筋もの光。
「あ、あれってUFO? いや、隕石かも!」
 興奮した僕が指し示す方角を眺めた少女は、助手席でククッと笑った。
「あれ、ただの飛行機雲だよー」
「飛行機雲……?」
「夕陽に照らされて、あんなふうに光るの。知らないと確かに驚くかもね、近くに空港もないし」
 そう、僕は今日、遠方から車を飛ばしてきたのだ。空港のないこの地へと。
「西の空港に向かう飛行機が、ここからだとちょうど、山に沈んでくっぽく見えるんだ」
 夕映えに染まる幼い横顔は、写真で見ていたよりもはるかに美しい。髪を耳にかけるその仕草ごと描き留めたい。僕はそう思った。

 美少女のきわどいイラストを描く絵師としてネットで名の知れた僕に、ファンですと初めは遠慮がちにリプライしてきた茜。いつしかそれは、熱烈なダイレクトメッセージへと変わっていった。
『早く私を描いて。女になっちゃう前に』
『まだJS(女子小学生)の間に、モデルにして』
『父親が旅行中の今なら、一晩中描き放題だよ』
 彼女が孤独な環境で育っていることは日々のやり取りから明白で、何より少女の肢体というものをリアルで見たことのない僕は、甘い罠と警戒しつつも絵師としての欲望を抑え難くなり、とにかく会いにいくことにしたのだった。

 山麓にぽつんと建つ洋風の家に着く頃には、陽はすっかり沈んでいた。
「この山全体、父親のものなの」
 窓からの月明かりを頼りに、彼女は最小限の灯りだけ点けて僕を奥へといざなう。別荘風の古いその家は、饐えた臭いに満ちていた。
「資産家なんだね。お母さんは?」
「……顔も知らない。空葬い″マみって聞いた」
「カラトムライ?」
 耳慣れない言葉に聞き返すと、少女は大きなソファに寝転びながら説明する。
「空(から)の葬(とむら)い。行方不明のまま、仮のお葬式をあげるっていう意味みたい」
 その大人びた言葉遣いは、彼女の凄絶な幼少時代を容易に想像させた。
「空葬い、か。空葬≠ニは違うんだね」
「クウソウ?」
 聡い目で尋ねる少女に、今度は僕が聞きかじりの知識を披露する。
「亡くなった人をそのまま、自然の中で葬ること。風葬とか、鳥葬とも言うね」
「……それなら、知ってる」
 少女は含み笑いをした。
「いいね、空葬。鳥とかに食べられて消えるの。魂と一緒に、体ごと空に飛び立ってく感じ」
 茜はそう言い、ソファの上に立った。そして鳥の羽ばたきのように大きく両腕を上げたあと、衣服を脱ぎ始めた。月の光に照らし出されんとする躰は予想以上にいたいけで、僕は動揺した。
「さ、描いて。キレイでしょ」
「待って、やっぱりヤバいよ……」
「だめ。しっかり見て。ほら、ここの……三つ星のほくろも描いてね。お気に入りなの」
「……」
「今だけだよ、私がこの世に存在してるのは」
 はたしてこれが小学生の言葉だろうか。凛とした彼女に圧倒され、僕は慌てて鞄からペンタブを取り出した。

 いろんなポーズを取り続けてくれた彼女は、いつの間にか寝息を立てていた。
(男への危機感がないのかな)
 どうやら僕は、生身の少女そのものを実際にどうこうできる性癖ではなかったらしい。その事実にどこかホッとしつつ、傍にあったブランケットを掛けてやると、彼女は目を覚ました。
「描けた?」
「うん。いいのがたくさん。ありがとう」
「そう、よかった」
「家に帰って、きちんと仕上げるよ」
 茜は画面を覗き込む。
「このほくろのある一枚だけ、今すぐ公開して。記念に」
「え?」
 へちっ、と不発のくしゃみ。ブランケットをまとい直した彼女は、僕に即時の仕上げとアップロード作業を強いた。
「今この瞬間、全国のファンが新作キターって喜んで、一斉に私の姿を保存してるね」
「嬉しそうだな」
「うん。だって……過去の私を、たくさんの人に空葬いしてもらえた気分だから」
「?」
 ソファから降りた茜は、なぜか奥の部屋の扉の前に行き、鍵を開けた。訝しむ僕の鼻腔に、あの饐えた臭いがさらに強烈になって一気に広がった。
「父親を、山に連れて行って。空の旅への見送り、手伝って」
「……」
「逃げても無駄よ。さっきの絵が証拠。嫌とは言わせない」

――いつか用済みになれば、女の子を産まされたあと、私も山で葬られてたはず。母親と同じように。だからその前に――

 父親の空葬に背を向け、彼女は呟いた。
「あなたは、私に触りもしなかったね。わざと寝たふりしてあげたのに」
 僕は答えない。今、彼女にしてあげられることはただ一つだけだ。
「茜」
 今呼んだ名前ごと、彼女を忘れること。
「ちゃんと飛び立てよ、この場所から。生き抜けよ……」
 少女は笑ってまた両腕を高く上げ、鳥のように羽ばたかせてみせた。

 東の空が白み始めた。長い夜が明ける。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/01/22 夏日 純希

>今だけだよ、私がこの世に存在してるのは

この台詞の意味を少し長い間考えてしまいました。
「今の私は今しか描けない」というのは勿論あると思うのですが、
では、“今の私”は何が特別なのかな、と。
まさに新しい世界に飛び立つ寸前の最後の姿なんですね。
それを残しておきたいと思うということは、やはり
父親を殺害すること自体をどこか悲しんでいたんじゃないかなと思いました。
悲しいですね、これって。

カラトムライですかぁ、滝沢さんは、やはり目の付け所がひと味違いますね。

15/01/23 草愛やし美

滝沢朱音さん、拝読しました。

かなり、際どいというか幼気な少女の生い立ちも含め、現状の深い内容に、息を呑みました。絵師の描いたものを見て見たい欲望にかられます。その絵は、茜の過去の葬になったのでしょう。一歩踏み出し、飛び立つ茜が、この世にちゃんと存在していって欲しいと祈ります。

カラトムライ──何だろうと思いましたが、こういうの思いつくのが凄い。朱音さんの才能、素晴らしいですね、感服しました。

15/01/24 そらの珊瑚

滝沢 朱音さん、拝読しました。

読者に、カラトムライってなんだろうという疑問を抱かせつつ、
ひとつ、またひとつと扉を開けるようにして答えを提示してみせる、
実に読ませる作品だなあと感心しました。

カラトムライ、読み終わってみれば、
哀しく、魅力的な、呪文のようであってキャッチーな言葉だなあと思いました。

15/02/08 滝沢朱音

★★★
>夏日さん
深くまで読み取ってくださってうれしいです。ありがとうございます。
すごい!まさにその通りです。というか、私の想像以上の言葉で示してくださいました。
愛された自分を誇りに思いつつ、だけど人としてここから飛び立たねばならない、
そんな悲しい自立の姿を書きたかったんだと思います。

>草藍さん
読んでくださって、おほめの言葉もありがとうございます!
空から思いつく言葉を辞書で探しながら、これに決めました。
幼い少女の際どいイラストって、倫理的にいろいろ問題がありますが
ネットにあふれているのも事実で、中には美しいと思えるものもあったり。
そんな絵を描く人を想像しながら書いてみました。

>そらのさん
お読みいただき、うれしいコメントもありがとうございます!
カラトムライ、私も初めて知った言葉で、空葬との対比にしたら面白いかも、
そう思って書き始めてみました。
たしかに呪文みたいかも。書きながらトロイメライとか連想してました。笑
なんとなく謎解きっぽいお話として仕上がっていたらうれしいです。
★★★

ログイン