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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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ゆるキャラの告白

15/01/19 コンテスト(テーマ):第四十九回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1356

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 みかけないゆるキャラだった。
 いや、どこにでもいそうな、ゆるキャラだった。
 子供たちがかけよってくる。
 その親たちがまたあとから集まってくる。
 たちまち商店街の通りは人でいっぱいになってみんな、歓声をあげながらゆるキャラのまわりをとりかこんだ。
 いつもは他人に対して警戒心いっぱいの連中も、ゆるキャラをまえにすると、とたんに表情はなごんで、子供たちなんかはまったくの無防備で先を争ってゆるキャラに抱きついたり、握手をもとめたりした。
 知らない人に、ついていっちゃだめよ。
 ひごろからくどいぐらい子供にいいふくめている親たちも、自分たちのこどもがゆるキャラに、くっつき虫のようにべったり貼りついてついているのをみても、だれもなにもいわずに、底なしの笑顔で見守るばかりだった。
 ゆるキャラのなかにはもちろん、その表面のかわいらしいキャラクターとは無縁の顔をしただれかが入っていて、親たちもそのことは知っているはずなのに、かれらの目には、その表面のかわいらしさしか、どうやら見えないらしかった。
 ゆるキャラは、どこにいっても人気の的だった。
 出会う人間、出会う人間ことごとくが、ゆるキャラに描かれた顔とおなじ、円満な笑顔をうかべてむかえてくれる。だれもが例外なく、もてるすべての愛情を一滴余さず絞るようにして、ゆるキャラにそそぎかけるのも、このときだ。
 おれは園部静雄という、どこにでもいるようなめずらしくもない男だ。
 みんなはおれを口をそろえて、、まあなんてかわいいのというが、おれの素顔を一目みたら、そんなことは口が裂けてもいいはしまい。
 べつにスポンサーがいるわけではなかった。
 この着ぐるみは自家製だし、おれがこれをまとってまちをうろつくのはきまって土日の、会社がやすみのときときまっていた。
 いったいなんのゆるキャラなのか、そんなことはおれにとっても、人々にとっても、どうでもいいことだった。
 子供はもとより親たちも、ただそれがゆるめのキャラをしているというその事実にすっかり心をゆるしてしまうらしかった。
 それにしても不可解なのは、どうして子供は、こんなに無邪気に笑えるのだろう。
 一歩まちにでれば、おまえたちの母親がいつも、おまえたちの胸にとりつけた防犯ベルのスィッチの入れ方を、なんども実演してみせながら、くどいぐらいいってきかせている、要注意の見知らぬ男や女でみちあふれているというのに。
 しらない人がちかづいてきたら、いそいで離れなさい。
 声をかけてきたも、こたえちゃだめよ。
 駅にはどうしていけばいい? 
 キャンディ、食べる? 
 車に乗せてあげようか。
 そういってちかづいてきたら、ためらわずに大声をはりあげて、たすけを呼ぶのよ。
 もしも有無を言わせずつかみかかってきたら、相手が男だったら、股間をおもいきり蹴りあげなさい。それでひるまない相手なら、それは男に身をやつした女とおもいなさい。
 そばにお店があれば、なにはともあれ、とびこみなさい。
 そんな毎日のように、口を酸っぱくしながら子供たちにいいきかせている親も、ことゆるキャラにたいしてはおもしろいぐらいみんな、、Noproblemなのだ。
 ふだんの日、おれが素顔でまちをあるくと、まず人から敬遠されないことはなかった。
 緊張と、不快感をあらわにして、距離をあけるものもめずらしくなかった。
 不審者面というものかあるとすれば、おそらくおれはそんな面をしているにちがいない。
 子供づれの親にいたっては、いそいで子供を抱き寄せるなり、まるで熊でもそばにあらわれたかのように、身をこわばらせておれがそばを通り過ぎていくのを、さすがに死んだふりこそしないものの、息をひそめて待っているのだ。そのうち、子供が泣き出しでもすれば、演出効果満点というものだ。
 若い女たちは十中八九、おれの姿をみると、ハッとまなじりをつりあげ、それがどこであれ、スマホをとりだし、警察に電話するわよといった目で、きびしくおれをみすえるのだった。
 おれがいったい、あんたたちに、なにをしたというのだ。
 誓っていうが、なんにもしていない。
 たしかに見かけはDangerousかもしれないが、いたって人畜無害、子供に興味はなくても、こっそり部屋で童話なんかを書いている、自分でもはっきり断言するが、善良そのものの人間なのだ。
 あんたたちは、人がもってうまれた外見という、ごく皮相な一面でしか、人間を判断できないのか。
 だが、そんなことをいくら声高に訴えてみたところで、現実に人々がおれを、不審者扱いすることは、動かぬ事実だった。
 おれがこのゆるキャラを、何か月分もの給料をはたいてつくりあげたのは、相手が外見で判断するのなら、こちらも外見で勝負してやろうと思ったからにほかならない。
 そしてそれは、見事に的を射当てた。
 いま、おれの周囲を十重二十重にとりかこみ、明るい声をあげながら、むきだしの好意を顔一面にあふれさせている親と、その子供たちが答えだ。
 おれはいま、善意と、歓びと、祝福をひとりじめにしている。
 親愛にみちた親たちと、疑うことをしらない子供たちの屈託のない笑い声に、たえまなくとりかこまれて。


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