1. トップページ
  2. 隣のトイレのギリザギ

クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

性別
将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

投稿済みの作品

6

隣のトイレのギリザギ

15/01/11 コンテスト(テーマ):第七十三回 時空モノガタリ文学賞【 隣室 】 コメント:8件 クナリ 閲覧数:1380

この作品を評価する

便所飯、をご存知だろうか。
クラスに友達もいなければ居場所もない孤独な奴が、誰の視線にも犯されず、誰とも何の影響も与え合わないで済む空間としてトイレを選び、その個室にこもってゆっくりと昼食を摂ることを言う。
僕は中学二年生にして既に、便所飯のプロだった。
隣でどんな音が響こうが、どんな匂いがしようが、全くたじろぐこともなくおいしく昼食を摂ることができる。
とにかく、友達がいなかった。恐ろしいほどにいなかった。
人間とはここまで一人になれるものかと、自分自身の才能におののいた。
僕が人と話すのは、いじめっ子グループの四人とだけだった。
交わす言葉は、大半が彼らの哄笑か僕の泣き声で占められていたので、それを“人と話す”と表現しても良いのかどうか分からないが。
痛めつけられ、恥をかかされ、笑いものにされ、僕のフラストレイションは常に限界まで高まっていた。
しかしその限界を決して敗れないのが僕であり、それを見透かした四人は、安心安全ないじめを飽きもせずに毎日敢行していた。

ある日、いつも通り完璧な便所飯を遂行していると、右手の壁が外からノックされた。隣の個室から、ということだ。
僕は勇気を持って沈黙した。
ここで隣の人とコミュニケイトできるくらいなら、最初からトイレになど逃げ込まない。
もしかしたら紙が無いのかも知れないが、それならもう少し切羽詰った様子になるだろう。ノックの音は、コチコチと小さく控えめだった。
昼休みが終わっても、僕はトイレから出なかった。
最近、そうすることが多い。教室より、トイレにいる時間の方が長い気がする。むしろ、教室に一歩も足を踏み入れない日だってあったかも知れない。
ドアの向こうで、パタリパタリと女の足音がした。
男子トイレなのに、と思ったが、この足音は聞き慣れており、相手の見当がついた。
「ねえ、ここを出ない? 私と話し合いましょう」
それは、やっぱり教頭先生の声だった。
担任ではない。
僕は勇気を持って沈黙した。黙って口を閉じ、頭を抱えていれば、どんな困難もやり過ごせると信じた。
やがて教頭先生は深いため息をついて、パタリパタリと去って行った。
隣から、またノックが聞こえた。まさか、この人もずっと個室に入っているのだろうか。
ふと見ると、壁の下に空いた隙間から、トイレットペーパーがこちらに差し出されて来た。何か書いてある。
『北春ヲ殺スヨ』
北春というのは、いじめっ子のリーダーの名前だった。
僕は勇気ある沈黙を破り、思わず声を出した。
「君が殺すの?」
またトイレットペーパーがするすると来る。
『ソウダ』
「君もいじめられてる?」
『イイヤ』
「君は誰?」
『ギリザギ』――……

翌日の昼休み、北春が深夜の路上で転んだらしく、ブロック塀に頭をぶつけて死んだというニュースが流れた。
便所飯中の僕にさえ、その話は聞こえて来た。
「ギリザギ、君がやったのか」
僕が隣の個室に話しかけると、またも文字の書かれた紙がするすると送られて来る。
『ソウダ』
「まさか、僕のために?」
『ソウ』
「他の三人も?」
『殺ス。次ハ南夏ダ』

翌日には、本当に南夏が、深夜の路上で鋼のナタで頭を割られて死んだ。その次の日は東秋が同じように、深夜に鋼のナタで顔面を割られた。
どの事件も目撃者はおらず、犯人は目星もつかない。
僕はトイレの中で、笑いが止まらなかった。
今度は校長がトスリトスリとやって来て、ドアの向こうから、
「ここから出て来なさい。出るんだ」
と言ってドンドンと荒々しくノックして来た。
僕は担任が来ないことに腹を立てながら、またも沈黙した。
やがて校長は深くため息をつき、ドアの前から去って行った。
「ギリザギ、そこにいるんだろ。残ったいじめっ子は西冬だけだ、殺してやってくれよ」
ギリザギから、トイレットペーパーの返信が来た。しかしそこには、
『お前がやったのか? 俺も殺すのか。ある意味、俺は恩人だろう』
と書かれていた。
どいういうことかと首をかしげていると、さっき去って行ったはずの校長が、嗚咽を上げて近付いてくるのが聞こえた。
他にも複数の足音がする。
「ギリザキ、誰か来る」
とうとうギリザギの犯行がバレて、彼を捕まえに来たのだろうか。
そうだとしたら、僕はまた、勇気を持って沈黙する他はない。
冷たいようだけど、僕は事件とは無関係なのだ。
ドアの前で複数の足音が止まり、男の声が響いた。
「君に聞きたいことがあります。パソコンには、手を触れないように」
そして彼らは、僕のトイレのドアをこじ開けて入って来たので、僕は心臓が止まりそうになった。

違う。
間違えないでくれ。
彼らを殺したのは、ギリザギだ。
隣のトイレの、ギリザキだ。

男達の後ろで、校長と教頭が泣き崩れている。
ああ、……
担任は、どこにもいない。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/01/11 クナリ

書いた話の解説や補足をあとがき等でやるのは、たとえネット上のアマチュアでも、三流の書き手がするものだ…と昔聞いたことがあります。
しかしクナリという人はどこに出しても恥ずかしい立派な五流なので、堂々とここで補足をします。

謎を残した文章で後は読者にお任せ、よしんば真相を聞いても「そんなん分かるか―い!」と言いたくなるような謎々掌編が好きでして(長編でやられると切なくなりますがッ)。
自分でもやってみたかったのですが、なかなか難しく、こんな代物になりました。
一応客観的事実については下記の通りです。

・主人公はいじめによる過度のストレスで分裂しており、トイレだと思っていたのは自分の部屋である。
・学校のトイレにこもりきりなのではなく、自分の部屋で引きこもっている。便所飯ではなく、部屋飯である。
・というか、主人公は学生ではない。
・ギリザギの存在は、苦悩の中で主人公が作り出した、自分のPCに投影された別人格である。だからいつも傍にいる。
・コチコチというノックは、主人公が自分でクリックしたマウスの音である。
・北春の死を主人公が知ったのは、ネットニュース。「便所飯中の僕にさえ、その話は聞こえて来た」というのはネットで見たということである。
・ギリザギからのトイレットペーパーは、プリントアウトで排出された紙(主人公が自分で書いたもの)である。
・ギリザギはいじめられていない、と言ったのは主人公の願望の表れである。
・教頭は母親。パタリパタリは教師の上履きではなく家のスリッパの音である。
・校長は父親。トスリトスリも教師の上履きではなく家のスリッパの音である。
・「担任ではない」=両親が親身になってくれていない、という認識の表れである。
・最初に北春を殺したのは、最後まで生き残っていた西冬。いじめをやめさせようとして北春と諍いを起こし、その際に揉み合った弾みでブロック塀にぶつけてしまったのである。
・最後の、「お前がやったのか?」の紙は、西冬から来たメール。「ある意味恩人」というのは、いじめを止めようとしてリーダーの北春を殺した、という意味である。
・南夏と東秋を殺したのは主人公。目撃者もいないのに凶器が鋼のナタだと分かっていたのはそのため(北春の死の真相は知らないので、「転んだ“らしく”」、と報道上の範囲までしか知らないために曖昧になっている)である。
・ギリザギの登場と北春の死がほぼ同時だったのは偶然である。しかしこのために主人公は符丁を感じ、押さえつけられていたストレスの暴走を促して二人を殺してしまった。
・引きこもりの自分が外出出来るわけはないと潜在意識では思っているため、ギリザギの犯行だと、主人公はより確かに認識している。
・最後にやって来た複数の男は警察である。
・両親は息子が逮捕されることを警察から知らされて、泣いている。
・最後まで、主人公は担任の不在=親身な味方の不在を認識して、絶望している。

真相は分かりっこない上にべたべたなのですが、こういうのが好きなので…。
あまり深く考えずに、クナリという人はあほだなーと読んでいただければ幸いです。
こういうのを上手く書ける人は凄いなーと思います。

15/01/14 滝沢朱音

いったん読んでわかった気になってましたが、解説を読んで、
やっぱり自分の理解力の乏しさに呆れてしまいました。なるほど!
なぞなそ掌編、おもしろいですね。
私は全然そういうの読んできてないので、ホント唸りました。さすが!

15/01/14 夏日 純希

あーあー、そういうことね。
わかる、わかる・・・ってわかんないっすよ、さすがに!

鋼のナタ、目撃者はいない、ここはうむ・・・
 目撃者いない ≠ 凶器がわからない
なので、凶器も発見されていない、か何かの一文が欲しかったかな。
いや、論理のレベルの話じゃないのですが(笑)

こういうスーパーチャレンジすごくいいと思います。タイムリーに心にしみます。
ちょうど、普通の掌編に少し飽きてきたところなので。
「誰か次の発表されるテーマで、一緒にリレー小説しませんか」とか思うくらいに。
しませんか、しませんよね。

15/01/14 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

クナリさんのコメント欄を読ませていただいたあと、また読み返して
うーん、なるほど、そういうことだったのか! って思いました。
逆にコメント欄がないとしたら、この仕掛けに気づくことは出来ないと思うので、解説なしでもその辺りを匂わす一文なりがあったらとは思いました。
チャレンジャーと呼ばせてください!!

15/01/14 光石七

一読して「ギリザギは主人公の妄想で、殺したのは主人公。警察が来たんだな」となんとなく解釈していましたが、解説を読んでもう一度読み返し、設定の細かさと緻密さに驚嘆しました。
そのチャレンジ精神に脱帽です。
しかし、クナリさんが五流だったら光石は十流ですよ。せめて、七流目指して頑張ります。 ←?

15/01/15 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。

コメント読み、初めて頷きました。ということは、この作品は2千文字でなくもう少し膨らませれば、コメントいらなかったということでしょうか。クナリさんほどの書き手なら、そこかしこにそういう意図の内容を入れることは可能だと思います。でもあえて、掌編で怖さを強調するための作品にされたのかとも考えます。
クナリさんは素晴らしい書き手、五流は絶対ないですよ。この作品は、クナリさんの後書きコメントがなくても読み手が想像できるように書いておられます、この点からみてもクナリさんが書き手として一流だという証明になっていると私は思いますよ。

15/01/16 タック

こういう作品、ものすごく触発されます。
正直もっと、真相なり背景なりの想像をさせる部分が欲しいな、とは感じましたが、分かり易さが必ずしも作品の美徳ではないと思います。読者の想像、推測を喚起するという点で、良い作品だと感じました。

15/01/16 クナリ

滝沢朱音さん>
ありがとうございます。
世の中には、クナリなんぞよりはるかにかっこよくてドキドキさせられる謎に満ちたホラーがたくさんあります。
ホラーサイトなどでは時折見かけるのですが、そうした作品に限って作者様が名乗られなかったりして、
追いかけることもできないまま印象だけを残して行くのですけど、それだけにたまらないものがありますね。
「これとこれは謎解きが納得行ったなー。えっ…でも、あれは、…何だったの?」と、解けない謎があるから
こその魅力がある作品を書いてみたいものです。

夏日純希さん>
ありがとうございます。
ミステリではないので、手掛かりとなる情報の開示や探偵の登場が無くていいのは楽でした(^^;)。
短編のホラーは、幽霊やモンスターの由来が明らかになるよりも、訳が分からないまま怯え続ける、という方が
好きなのですが、なかなかその方向性で良作が書ける所には至りませんね。
わけが分からないからこそ怖い、謎が残っているからぞっとする、という作り方をしてみたいんですけども。今回は
稚拙なりに、これで面白くなるのかどうか、自分なりにチャレンジでした。
自分なりに、「こういうのが自分の本道となる書き方なのかな」という見当はついて来ているのですけど、
出来る限り変わり種も混ぜて行きたいと思っています。
リレー小説は、テーマを受けて自由投稿スペースでやるのにはいいかもしれませんね(コンテストの投稿場所で
やるのはよくない気がするので、ということですけども)。
自分は余暇に図書館のPCを使って執筆・投稿をしている都合上、タイムリに参加できないので難しそうです(^^;)。
マイPC、自宅にほしいですね〜。

そらの珊瑚さん>
もともと、補足説明など入れずに意味不明なものにしたかったのです。わずかな不協和音のような単語を入れて
おくことで、描写してあることが全てではないのではないか、という気味の悪さを出したかったと言いますか。
コメント欄で解説を入れるかどうかは悩みましたが(不気味さを解消してしまうので)、考えてみれば現段階で
クナリの書く話に不気味な迫力も求心力もありはしないでしょうから、
「ここは格好付けずに解説しちゃえー☆」(←おい)
という感じでコメントを書きましたッ。
そういう意味で、当初のコンセプト上は失敗しているといえる作品ではあるのですが。よく考えると、コンテストには
ふさわしくない作り方の話だった気もします(コメント欄を計算に入れている点で←今更)。
自分、思いつきで何かをやると大抵失敗するのですが、お付き合いありがとうございます(^^;)。

光石七さん>
や、ほぼ正解ですよー、…というか緻密といっていただけるのは、光石さんの脳による補完があればこそです。
「わけわからん」もしくは「つまんないの」と言われてしまうことに怯えてコメント欄で解説など入れてしまう
このクナリ、五流でなくてなんだとおっしゃるッ!
…あ、「つまんないの」はありうるのか…。
新しいテーマが発表されるたびに、思いつくのは「孤独な子供とその救済」みたいな話なので、恐らくそれが
自分の一番合ってる作風なのでしょうが、やはり不得手な作品にもチャレンジしてみたいなと思っています。
やってみることに意義があるッ! おー!(何事)
そしてそれは、とりもなおさず、読んでいただけるからこそでもあるのです。
ありがとうございました!

草藍さん>
いえ、あくまで本編はよくわかんない感じで終わらせたかったので、これ以上の文字数があっても、
ヒントのようなーそうでもないようなーみたいな要素をぽちぽちと入れ込んで終わっていると思います(^^;)。
あー、そうなのですあえて掌編で怖さだしたかったんです、気軽に読み終えることのできる掌編だからこそ、
精神的な深みとかあんまりない話にも挑戦できるというものの気がする! という気がしまして(日本語下手かッ)。
ありがとうございますです。
なぞめいた作品でも同じようなパターンで書き続けると、サイコっぽい気味悪さよりも「これはこういう伏線ではないか?」
というミステリ的な楽しさを提供する方向にいっちゃいそうなので、あまり頻繁にはできませんが、似たような
仕掛けを施した話はまた書いてみたいと思っています。
いえいえもったいない、本当に五流ですから(^^;)。

タックさん>
タックさんを刺激できたのであれば、とても光栄です。
文章中で、徐々に徐々に、「あれ?おかしいぞ?」「ん?どゆこと?」と匂わせていって最後に衝撃の真相ババーン!
…などということができればとうにドヤ顔でやってるわけでして、最初からわけわかんないまま終わらせる予定だった
のですという免罪符とともに胸を張ってこげな投稿をいたしております(^^;)。
一つの作品を読み終わった後にその作品について考えたり想像したりするって実はすごいことで、そうしていただけた
のであればこれほどうれしいことはありません。
コメント、ありがとうございました!

ログイン