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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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飛び立つ間際のものがたり

15/01/08 コンテスト(テーマ):第七十四回 時空モノガタリ文学賞 【 空港 】 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1266

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 いつものように芝刈り機に乗車して芝を刈っている時、それに気付いた。
 滑走路の最奥、アスファルトが芝に飲み込まれる寸前のその位置に、小さな赤いものがあった。
 芝刈り機から降りて屈みこんで見てみると、赤いものは小さな鳥居だった。鳥居は高さ10センチ、幅12センチほどの小ささで、どうやら木製のようだった。つん、とつついてみてもびくともしない。鳥居の足は固くアスファルトに埋め込まれているものらしい。

「おおい、百田、どうしたあ?」

 芝刈り機を並走させていた先輩が、同じく降りてきた。地面を指差してみせる。

「なんだこりゃ?」

「鳥居に見えます」

「俺にもそう見えるが……。落とし物のおもちゃか?」

 先輩は屈みこむと鳥居を握り、ぐいっと上方へ引こうとした。しかし鳥居はびくともしない。

「……まあ、いいか。俺たちの仕事は芝刈り、滑走路のメンテは別の業者だ。ほっとけ」

 うながされ、芝刈りを続行することにした。

 空港ビルに戻ると、ちょうど滑走路メンテナンスの業者、若田工業の社員とすれ違った。

「あの、すいません」

 顔見知りのその人に話しかけてみた。

「あの、四番滑走路に、なんかへんなものがありますよね」

 若田工業さんは一瞬、きょとんとし、それからニヤリと笑った。

「あれを見ましたか。実はあれにはワケがありましてね……」

「おい、百田、なにしてる! 早くしろ!」

 先へ行っていた先輩に急かされ、若田工業さんに「また今度」と口早に詫びを言って駆けだす。「また今度」なんて言っても、今度はいつあえることだか分かりはしないのだが。

 空港メンテナンスのほとんどすべては出入り業者でまかなわれている。空港ビルの清掃、整備、滑走路の保守点検、手荷物検査場のスケールの定期点検、いろいろだ。
 うちの百田機械機器製作所が請け負っているのは芝生の管理のみ。入札でとれた仕事だ。見入りは少ないが堅実で息の長い仕事で、正直助かっている。若輩社長の私が、うっかり安すぎる費用で申請してしまったために取れてしまった慮外の仕事、先輩たちからは不満の声が上がることもしばしば。曰く「安働きのくたびれもうけ」。それでも「骨を折らない」だけまだましだ、とは思っていても、微妙な力関係の下では言いたいことも言えない。

 次の芝刈りは一週間後。芝は一度にまとめて刈ったりはせず、部分部分にわけて週ずらしで少しずつ行う。そうしておけば、台風などの悪天候で工期がずれても伸びすぎた部分は次の時に一緒に狩り込んでしまえる。ちょっとしたコツだが大切なことだ。こういった細かいことを引き継ぐことなく先代社長が亡くなってしまった。そのころまだ学生だった私は右も左もわからぬまま、すべてを一から先輩に教わり、なんとかここまでやってきた。今日も一日無事に終われたのも先輩のおかげだと言える。そろそろ自分の力量だと言ってみたいがまだまだ修行が足りない事は自覚している。

 朝誰よりも早く出社して神棚のもろもろをととのえるのは私の仕事だ。一番の新米だからなのか、一応とは言え社長だからまかされているのか、どちらとも判然としない。その日最初の汲み水と米と酒を神棚に上げ、埃をはらい、榊の水を代え、灯明を灯す。最近は一センチ程度の長さのろうそくがあって、灯明もすぐに消えるので安心して火をつける事ができる。最初の頃、そんな便利なものがあると知らず、普通の長さの蝋燭を使っていたら榊が焦げてしまい先輩にこっぴどく叱られた。その蝋燭は停電時用に冷蔵庫に保管してある。

 神棚に手を合わせ顔を上げた時に、ふいと滑走路の赤い鳥居のことを思い出した。鳥居の入り口は空港ビル側を、出口は海側を向いて立っていた。滑走路を走ってきた飛行機が海へ飛び立つ、その様を鳥居は毎日見上げ、航行の安全をも見守っているのだろうか。芝刈り機を走らせながら見上げる飛行機の腹部。いつも何気なく見上げている。飛行機に乗った人たちはきっと、飛行機のはるか下にある鳥居のことなど思う事すらないのだろう。自分たちの安全を願っているかのごとく立っている鳥居のことなど。

 若田工業さんと新春の名刺交換会で顔を合わせた。あの鳥居の話になって若田さんは嬉しそうに「じつはあれはですね……」と口を開きかけたが、そこで空港ビルのオーナーを見つけてしまい、私と百田さんは急いで挨拶に馳せ参じ、そのままうやむやなまま帰社してしまった。

 芝刈り機を走らせながら空を見上げる。どこまでも抜けるような青空。抜けるような。なにが? もちろん、飛行機がだろう。滑走路から飛び立ち、空を飛びぬけ、また飛びおりる。行きも帰りも小さな鳥居に見送られながら。私は芝刈り機から降りると、鳥居の前に座り込み、手を合わせてみる。こんな小さな祈りでも何かの足しにはなるだろう。


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