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日向夏のまちさん

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モノクロームに浮かぶ五感

14/12/29 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:2件 日向夏のまち 閲覧数:1274

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 なんとなく忘れ物をした気がした。
 それはほら、明確に何かを忘れたわけではないのだけれど、意識のそとがわにいってしまって置いてきてしまった時のような。無自覚な、勘にもにた感覚である。
 何かを忘れたときは、元の場所に戻ってみるといい。そんな事を思い浮かんだ。
 そこは、だいぶ色を失くしたところだった。白と黒に限りなく近い世界。申しわけ程度の色に視界がチカチカした。
 元の場所に戻ろうと思った。けれど私はどこからやってきて、今、ここに存在しているのか。それを思い出すことはできなかった。
 奇妙な浮遊感だった。
 「私」は確かにそこに在るのに、それ以外のことは何一つとしてなかったのだ。
 どうしてこの場所にいるのか。そもそもどこなのか。何をしにきたのか。それ以前に、どうやら実体のない私は何なのか。
 そう、「私」がモノクロの中にぽつりと浮いているだけで、他の何も、私は持っていなかったのだ。
 孤独。そんな言葉がふと浮かんだ。
 どうやら生まれたてなのかまっさらな存在の私は、失くしたのか、元からないのか知らないが、一切の記憶を持たなかった。ニュアンスだけの、反射のような言語は浮かんでも、自分でもその意味がよくわからない。孤独とは、過去からも切り離された浮遊感のことなのだろうか。存在すらも不安になるこの感覚なのだろうか。
 気がつくと、私はいびつな形をした生き物達の中にいた。場所はさっきと変わらない。生き物達が、この場所に追加されたのだ。やはり白黒の見た目のそいつら。バランスの取れなさそうなひょろ長い二本の足と、複雑な形状の先を持つ腕。ボールみたいな頭は、蹴って遊ぶのに丁度よさそうである。
 たくさんの生き物は、一匹の生き物を囲んでいた。四角い、舟みたいなハコに、真白い花に包まれて大事そうにしまわれた生き物。複雑な腕の先は胴体の上でゆるりと組まれ、きらきらで着色された空気をはきだしているかのように、薄い存在感でそこに在った。直感的に死んでいるとわかった。形はあるのに、そこには居ない。私とは真逆だなと思った。
 たくさんの生き物は、目だと思われる二ヶ所から水をこぼしていた。祈るようにくずおれている生き物だけが、焼きつくように鮮烈だった。めまいがする。すっぱい気持ちがした。
 私は、忘れ物を見つけたような気がした。
 ただよう意識だけ生き物の死体に近づける。距離が縮まるほど、拒絶を表すような匂いが濃くなっていた。そこに居ないはずの死体は、私に怯えているようである。
 きっと君と私とは、ついさっきまで一つだったのに。
 どうやら私は、「形」を失くしてしまったようである。
 命を落とす。そんな単語がよぎる。同時に、たくさんの記憶があふれかえった。それは生前の記憶。あって当たり前のモノが帰ってきた。あまりに必然的で、感動なんてしなかったけれど。思い返すそれらは、けして楽ではなかった。死んだのは21歳。大学4年生の初夏。崖から荒れた海へと、半ば意図的に身を投げた。父親の暴行に命を落とした母親。父に押し倒された私は、母親に瓜二つだった。高校時代。「穢れている」とふさぎ込んだ私に、つかずはなれずのクラスメイトは、生ぬるい関係として私にはだいぶ心地よかった。どこかネジの飛んだ弓道部員達はいい奴らばかりで、自分の欠陥がちっぽけに思えてくるくらいだった。それでも、誰にも必要とされない人生だった。消えてしまえればとなんどだって考えた。平々凡々とした繰り返しの日々。愛なんてしらなかった。私には関係のない話だと思っていた。はやく死にたいと思っていた。けれど彼らを、私の葬式に参列した知り合いを、涙を流し懺悔するように祈る父を見て、思う。
 私は、ちゃんと愛されていたのかなぁ、と。

 失くしたものは何だろう。
 形としての存在か? 一時的なれど記憶か? 平凡な生活か? ぞんざいにしてきた命か? 独りだという勘違いか?
 否だ。
 あの時に失くしたものは何だろう。
 幸せな家庭か? 母か? 自分自身の純潔か? 父への信頼か? 自分らしさか? 純粋さか? 明るい未来か?
 否だ。
 失くしたものはつながりだ。
 得たものはどうしようもないひとりぼっちだ。
 しかしそれも案外、悪くない。
 このモノクロームの中でただ一人、無彩色の中で溺れるように意識を漂わせるのも、悪くはない。
 失ってみて初めてわかる大切さがあると、誰かが言った。
 命を失えば命の大切さがわかるのかと、皮肉交じりに笑い飛ばした。
 結局、失ったのはカタチだけだったけれど、取り戻したいとも思わない。
 つまり私は、ぬるま湯の中で幸せだったのだ。
 白い炎に包まれていく棺桶を見つめながら、私は、ユリの香りのわだかまりが失くなっていくのを意識していた。
 残された孤独は、青いレモンとシナモンの香りがした。


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このストーリーに関するコメント

15/01/02 光石七

拝読しました。
こういう雰囲気、好きです。どことなく考え方に共感できる部分もあり。
しばらくこの独特の世界に、一緒に漂いたくなりました。あ、死にたいわけじゃないですよ、念のため。

15/01/02 日向夏のまち

いらっしゃいませ、光石様。あけましておめでとうございますm(_ _)m
コメントありがとうございます!

今回はストーリーよりも雰囲気や世界観を重視した作りになっておりました。気に入っていただけて嬉しいです!
いや、ストーリーがおろそかと言えばそうなのですが;^ ^
こうして「死ぬのも悪くないな」なんて思想のモノをよく書くので、気が付かぬまま誰かの自殺を後押ししているんじゃないかなんて不安になる事もあるのですが、
光石様のコメントに少し安心しました^ ^

ありがとうございました! またお越しくださいませm(_ _)m

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