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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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晴れた日に、ゼロ戦がみえた

14/12/29 コンテスト(テーマ):第七十四回 時空モノガタリ文学賞 【 空港 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1388

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 せっかくの日曜だというのに、啓太は里香にひっぱられて、ターミナルビルまでやってきた。
 ロビーや売店があるビルの屋上は、展望デッキになっていて、きょうのような晴天には間近で飛行機をながめようと見物客が、けっこうおしかけている。
「おれは飛行機なんか、興味がないんだけどな」
 ここにくるまで、文句をいいつづけてきた彼に、里香はなにやら仔細ありげに、
「あとで、あたしに感謝することになるわよ」
 いっているあいだにも、一機の旅客機が、東の空からこちらにむかって下降してきた。
 最初は、いやいやみていた啓太だったが、迫ってくるジェット機の巨体とその轟音に気おされた形で、さいごには目をみはってながめはじめた。
「ほんとだ、なかなかのみものだね」
「あたしがあなたにみせたいのは、こんなんじゃないの」
「もっとすごいのがあるのか」
「ちょっとこちらにきて」
 と彼女は、啓太をつれて、ガーデニングのある展望デッキの端に、つれていった。
「ここの位置よ、ここ」
 里香は、植木のそばで身をなんどもかがめなおして角度をたしかめた。
「ここが、なんだい」
「ここから空をみるとね、面白いものがみえるのよ」
 啓太はとっさに、彼女はきっと、飛行機の角度のことをいっているのだなと判断した。さっきの間近でみた飛行機のおどろきがまだ消え去ってない彼は、彼女のうながす位置にたって、期待をこめて空をながめた。
「あれ、ずいぶん旧式の飛行機が―――あれはたしか、このあいだテレビのアーカイブスでやっていた、懐かしの旅客機YS11じゃないのか。ふたつのプロペラと、ずんぐりした機体、それに脇腹に赤々と描かれた日の丸は、まちがいなくYS11だ」
「まだ、こんなのでおどろいていちゃだめよ」
「きょうは、オールドファッションの飛行機を飛ばしてみせる記念日かなにかか」
「まあいいから、そこからじっくりながめていて」
 なにか奥歯にものがはさまったような里香の口調に、もどかしげに彼が、ふと空をあおいだとき、こんどは南の空に、ぽつんと機影があらわれた。と、おもったとたん、たちまち轟音とともにこちらにむかって、旅客機よりもずっと小型の、そのぶん高速度で接近してくる機体があった。
 上空をまるでかすめるかのようにとびすぎていった飛行機を啓太は、一瞬だが、はっきりとみとどけた。機体の頭部で猛烈に回転するプロペラ、緑一色にぬられた胴体、一人乗りの操縦席をおおう桟で仕切られた風防ガラス、その軽やかに飛行する様子はまぎれもなく、
「ゼロ戦じゃないか」
「ね、すごいでしょ。この角度からみると、昔の飛行機がみえるのよ」
「まさか」
 だが、啓太はじぶんがいまみたものを、いまの彼女の説明でしか、理解しようがないことに気がついた。
「ここにたつと、昔の飛行機がみえたのは、一週間まえのことなの。たまたまこの展望デッキに遊びにきて、ちょっと身をかがめたら、いまあなたがみたような、やっぱり旧式の旅客機や戦闘機が空にあらわれたの。そのときは本当にびっくりして、人にいうにも、頭がおかしくなったとおもわれるのがいやで、黙ってたけど、あなたにもみえるとわかって、安心したわ」
「ここには、時空間のひずみができているのかもしれないな。過去と現在が交錯するようなひずみが」
「やっぱりあなたをつれてきてよかった。そういうとんでもない発想をしてくれる人が、必要だったのよ」
「まあ、もうちょっと、くわしくみてみよう。いまは、精巧なレプリカだってあるからな」
 啓太は、大空で軽快なUターンをみせて、ふたたび自分たちの頭上にもどってきた戦闘機を、手すりから身をのりだすようにしてながめはじめた。
 彼の顔に、里香も自分の顔をぴったりくっつけて、二人いっしょに戦闘機にみいった。
「みればみるほど、チョーかっこいいわね。オタクがみたら、涎をながしてよろこぶんじゃないかしら。あ、窓から、パイロットの顔がのぞいているわ。まあ、ずいぶんなイケメンだこと」
 里香は興奮のあまり、ゼロ戦にむかって大きく手をふった。
 啓太もまた、どうみても本物にしかみえない戦闘機に、いまでは心から魅了され、彼女といっしょになって手をふりだした。
 ゼロ戦は、独特の低くくぐもったようなエンジン音をひびかせながら、低空飛行にはいると、二人にむかって一直線につきすすんできた。
 里香も啓太も、操縦者にむかってあいさつを送ろうとして、このときとばかり、ちぎれんばかりに手をふった。
 つながりあった火球がダダダという断続音とともにゼロ戦の翼から撃ちだされるのをみた二人は、それがなんなのかが理解できないうちに一瞬後には、デッキの床に激しくたたきつけられていた。
 二人の、外人かとみまがうばかりの金髪の頭がみるまに鮮血に染まりだしたのは、そのすぐあとのことだった。


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このストーリーに関するコメント

15/01/04 クナリ

面白かったです。
ラスト数行で思わぬ展開となり、最後の一文でその理由が説明される…という、掌編小説としてのエンタテインメント性の高さが魅力ですね。

15/01/04 W・アーム・スープレックス

テーマが『空港』と知り、なにを書いていいかわからなかったのですが、こういうときは、なんでも書いてやれと開き直って、この作品になりました。
もっとも、私の場合、おおむね、その方式でやっていますが。

クナリさん、コメントありがとうございました。

15/01/08 W・アーム・スープレックス

作中、できるだけ説明は省くようにしているのですが―――というより、説明しなければ伝わらないようなものは、読んでいてもあまり面白くないのではと思います。
こういうことを、説明しているようでは私も、まだまだですね。

志水孝敏さん、コメントありがとうございました。

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