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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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幽霊惑星 2

14/12/25 コンテスト(テーマ):第四十七回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1318

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 花園に、イゾの姿はみあたらなかった。
「とりあえず、クライアントに連絡しとこう」
 ユーゾーとユカコは、艇の停めてあるところへ向かった。
 なにせ狭い惑星なので、どこにいても艇の、特徴ある多角形の機体を望むことができた。
 ユカコにとってそれは、とても心強いことだった。
 過去にはいろいろ、あぶない目にもあってきた。海賊に襲われたこともあれば、得体のしれないエイリアンにとらわれそうになったこともある。それらの災難をまぬがれたのもみな、いちはやく逃げ込んだユニトのセキュリティが、救助がかけつけるまで彼女の身をまもってくれたおかげにほかならない。
 いまも、艇のほうに歩み寄る彼女の足取りは、知らず知らずはやくなっていた。
 建造物の中で見た夥しい死体が、心に焼き付いて離れなかった。地上の一見、穏やかそうな光景に目を奪われた後に見ただけによけい、そのギャップは大きかった。
 あの人たちもきっと、イゾのいっていた悪性のウィルスに感染したのにちがいない。
 彼女はむりやりそう思いこもうとした。それだとかえって彼女も、生命の危険に脅かされることになるのだが、それもいまの自分を脅かす得体のしれない恐怖から逃れたいがためだった。
 そんな彼女も、厳然とそびえたつユニトの頼もしい機体をまのあたりにし、タラップを上って、艇内にぶじはいりこんだときには、年越し苦労だわと、自分の必要以上の警戒心を笑った。
 イゾはたんなる、忠実なロボットにすぎない。十年もまえに死んだ召使の指示を、頑なに守り続ける、愚直な機械だ。
 あくまでロボットは器物としてあつかわれる。所有権もなにもあったものではない。
 クライアントがここを獲得したころには、イゾはかわいそうだがスクラップとして廃棄工場に送られることだろう。いくら花の手入れがすぐれていても、あんな旧態依然とした不様な恰好では、だれも引き取ろうとはしないにちがいない。
 そう思うと、もともと優しい気質の持主のユカコは、きゅうにイゾに対して同情心がわいてきた。
 なんといっても、いきなりはいりこんできて、ここを乗っ取ろうとしているのは、こちらのほうなのだから。
「おかしいな」
 その声にユカコがふりかえると、コントロールパネルのまえで、ユーゾーがけげんそうに首をかしげていた。
「どうしたの」
「いや、連絡が取れないんだ。何回やっても、通信不可と出る」
「そんなはずはないでしょう」
 じゃ、かわれよと、彼にうながされて、こんどはユカコがパネルのまえにすわった。
 そして数十分のあいだ彼女は、全神経を集中させて通信装置と悪戦苦闘したが、やっぱりそれは不可の表示しかあらわさなかった。
「だめだわ。いったい、どうしちゃったのかしら」
「こっちもだめみたいだ」
 彼のその悲痛な調子に、ユカコは背筋をゾクリとふるわした。次に彼がみていたのは、操縦盤だった。
「まさか」
 ユカコの顔から、みるみる血の気がひいていった。操縦盤がアウトになれば、ここからとびたつことはできない。
「故障の兆候は、なにもなかったはずだ」
 いいながらも彼は、艇内の電気系統を、順を追って検査しはじめた。
「機関部分らしい」
 二人は、艇からでると、地面の上にたった。
 すぐに、異常個所は見つかった。
「ここだ」
 内側からの操作でなければ開かない仕組みになっている艇の外壁部分が、外部からむりやりこじあけられたようになっている。それをやっただれかは、機関部分の中枢ともいうべき部品を、力づくでもぎとっていた。
「イゾのしわざか」
「でも、どうして」
 当惑げにユカコはいった。
 と、艇の鈍い銀白色に輝く胴体に、くろぐろとした影が映し出された。
 ハッとして二人が同時にふりむくと、そこに、イゾの巨体がたちはだかっていた。
 いつのまにきたのか、まったくわからなかった。
「あ、いいところにきたね、イゾ。これ、どういうことだろう」
 ユーゾーは、わざとのように、公平な態度をよそおった。彼にしても、まだイゾを犯人ときめつける証拠はなにもなかった。もしかしたらこの惑星には、外部からやってきた艇を破壊するのが大好きなロボットがほかにいるのかもしれない。
 二人は、イゾの口が、はじめて開くのを見た。
 その口から、閃光がほとばしり出たとおもったとたん、突然艇がまばゆい火花をちらしながら燃え上がった。
 反射的に遠くに身を躍らせたユーゾーとユカコは、地面に折り重なるようにして倒れた。
 そして、なおもまぶしく燃え続ける艇が、まもなく溶けるように崩れ落ちていくありさまを、茫然としてながめていた。
 これまで自分たちの安全と生命を守り続けてきた完全無欠の宇宙艇が、ほんの数秒もたたないあいだに、灰燼と化してしまったのだ。
 イゾが、ゆっくりと、地面に倒れたままの二人のほうをむいた。
 これまでユカコがけんめいに、自分で自分をあざむいてきた、イゾに対する脅威がいま、彼女の中でむきだしになった。
「イゾ、どうしてこんなことを―――」
 ユカコは、ユーゾーを下敷きにした状態から、ロボットに話しかけた。
 イゾは、きかれたことには忠実にこたえるという姿勢を、いまも保ち続けていたようだ。
「あなたたちは、この惑星では、秩序をみだす不必要な存在です。不必要であるかぎり、わたしはそんなあなたたちを、除去しなければなりません」
「じゃ、あの建物のなかに死んでいた連中も、やはり、あなたが―――」
「お察しのとおりです。あの人たちもみな、わたしが除去しました。ただし、生きているときは、不必要でしたが、死ぬと植物にとっていい肥料となるので、あそこに保管してあるのです」
「ロボットは、人間に危害をくわえることは、構造上できないことになっているはずよ」
「わたしにとっては、この地上の秩序をまもることが最大任務です。秩序をみだすものはなんであれ、たとえ人間でも、とりのぞかねばなりません」
 ユカコは、自分の下になっているユーゾーの腕が、スタンガンをにぎりしめるのを、感触でしった。彼女は体をまるめて、彼の腕がもっと自由になるのを手伝った。
「あなたの主人は、もう十年もまえに亡くなっているんでしょう。亡くなった時点であなたも、役目から解放されたはずよ。どうしてそんな律儀に、いまだに主人の命令にしたがうの」
「主人は、わたしに任務を課せたまま亡くなったのです。わたしの任務をとけるのは、主人以外だれもいないのです」
 イゾは、やにわに、両腕をひろげた。さっきの艇のように、口から閃光を吐きだして燃やすつもりはないらしい。肥料にするといった彼の生々しい言葉が、ユカコの耳によみがえった。
「ユカコ、合図をしたら、おれの足先にむかってとびはなれるんだ」
 下から、ユーゾーの声がした。直後に、彼女の腹を彼の指先がはじいた。彼女が機敏に彼の足元に移動するのとほとんど同時に、すばやくおきあがったユーゾーがスタンガンをイゾの足に押し当てた。
 ぐらりとイゾのからだがゆれたとおもうと、こまかな振動が全体にひろがり、ロボットはその場に硬直したようにたちつくした。
 ユーゾーはユカコをたすけおこすなりふたりで、一目散にかけだした。
 スタンガンのショックぐらいで、ロボットを倒せるはずがなかった。あの麻痺状態は、一時的にすぎない。それがわかっているだけに二人は、とにかく身をかくせるところはないかとあたりを、やみくもにはしりつづけた。
「こっちだ」
 男の声がした。その声がした岩場をあおいだユーゾーはそこに、手をふりつづける一人の男の姿をみとめた。
「ユカコ、くるんだ」
 二人は勾配のゆるい大地を、駆け上っていった。
「きみは」
 といかけるユーゾーに、相手は遮るように手をふると、早口でせきたてた。
「紹介はあとだ。あいつがくる。はやくここをはいれ」
 ユーゾーは、その男の顔をみたとき、どこかで会ったような気がしたが、いまはそんなことを詮索している場合ではなかった。
 岩場には人ひとりようやくとおれるほどの穴があいていた。
「ユカコ、さきにいくんだ」
 彼女もまた、ユーゾーのうながしに、躊躇なく穴に身をすべりこませた。その彼女の背中を押しこみながら、ユーゾーも穴に入りこんだ。
 後ろで重々しげな足音がして、みると、おどろくほど近くにイゾの巨体が迫っているのがみえた。
 穴は、奥にむかってのびているようで、目的はさだかではなかったが、どうやら人工につくられたもののようだった。
 サイズからして、さすがにここまではイゾも追いかけてこられないだろうと、ユーゾーが高を括っていると、はたして背後からきこえてきた、岩を穿つような物音に、愕然となった。
 彼は、穴の奥むかって、つっぱしった。
 やがて前方に、ぼんやりと明かりがみえはじめた。どうやらそこは、倉庫のようなところで、天井には建物内でみた斑模様がひろがり、あの建物同様、やはりそこから自然光らしい光がもれていた。
「ユーゾー、これ」
 ユカコがまえにしているのは、ランチャーに装備されたロケット砲のようなものだった。
「これなら、イゾを破壊できる」
 さっきの男が、ユーゾーにいった。
「これは、きみのものなのか」
「そうだ。唯一残った武器なんだ」
「じゃきみも、イゾと戦かったくちか」
「ああ。やつは強敵だ。生半可なことでは、たちうちできない。この機会を、ながいあいだ待っていた」
「機会とは」
「きみがやってくるのを」
 ユーゾーが男の顔をみかえしたとき、いま彼がとおってきた穴の向う側から、はげしい掘削音がつたわってきた。
「時間はない。武器の使い方はわかるな」
 男にうながされてユーゾーは、ロケット砲を点検した。それはまさに発射寸前の状態に置かれていた。
「わかる」
「じゃ、たのむ」
 ユーゾーは、腑に落ちない顔を男にむけた。が、岩が打ち砕かれる音につづいて土煙がここまで吹き込んでくるのを見た彼は、ロケット砲の発射装置に手をかけた。
 それにしても、あの巨大なイゾが、狭い穴を強引にほり拡げながら何メートルもの距離をつきすすんでくるそのはかりしれないパワーに、ユーゾーは圧倒された。この男のいうように、イゾは、無敵のロボットなのかもしれない。たが、どうして彼は、ロケット砲をおれに使わせようとしているのだ。またしてもその疑問が、ユーゾーのあたまをよぎった そのとき、粉砕された岩の破片が、ユーゾーのすぐ足のそばまで飛んできた。暗がりのなかに、白々とゆらめくロボットの姿がみえた。
 ユーゾーは、ロケット砲の照準を、微調整した。至近距離とはいえ、狙いをはずしたら、目もあてられない。
 できるだけ、ロボットをひきつける必要があった。
 破壊された瓦礫が、がらがらと音をたてて崩れ落ちてきた。もうもうとまいあがる土煙に、広くもない室内がまっしろになった。
 その煙のなかに、イゾが仁王立ちになった。
 しばらく、不動の姿勢でこちらをながめている。さっきの経験からか、むやみと腕をのばしてこようとはしなかった。そのかわり、あの艇を紙のように燃えあがらせた閃光を吐き出した口がいま、ひとつの擦過音もたてずに、開きつつあった。
「ユカコ、すみにしゃがみこめ」
 いうなりユーゾーは、ロケット砲の発射ボタンを押した。
 イゾの胴体が、はじけるように後方にとんだ。同時に砲弾がさく裂し、周囲のなにもかもを紅蓮の炎につつみこんだ。
 とっさにその場に身をかがめたユーゾーのうえから、粉砕された瓦礫のかけらがばらばらとおちてきた。
 なにもかもがおさまるまで、数分の時間がかかった。その間も、細かなものの落下する音はたえまなくきこえつづけたが、大きなものの動く気配は一度も伝わらなかった。
「たいじょうぶか」
 まっさきに彼は、彼女の安否をきづかった。
「だいじょうぶ、ぶじ、生きてるわ」
「よかった」
 ユーゾーは、ユカコの腕をとっておこしてやった。彼女の、土埃にまみれた顔が、汗とも涙ともつかないもので汚れているのを、やさしく指のさきでぬぐってやった。
「イゾは、どうなったのかしら」
「それをたしかめるにも―――」
 落ちてきた土やら岩やらで完全に埋まっている室外を、お手上げだとばかりユーゾーはみやった。
 彼はそして、いまはじめて、あの男の姿をさがした。
「奥に、扉のようなものがあるから、そこから脱出したのだろうか」
「だれのこと」
「いや、彼がどこにいったのかと」
「彼って」
「あの男だよ。我々をここに導き、ロケット砲をつかえといった―――」
「あなた、爆発のショックがまだぬけきってないようね。そんな人、はじめからどこにもいなかったわよ」
「いたじゃないか。イゾに追われてにげているとき、手をふっておれたちを穴のところによびよせただろ」
「わたしは、あなたが一人であの場所にかけていくのを、追いかけたのよ。よくあの場所がわかったなと、そのときおもったわ」
「ちょっとまてよ………」
 そのときユーゾーは、あの男が着ていた衣服が、建物内の死体がまとっていたそれと、おなじものだったことにいま気がついた。前にとこかで見たとおもったのは、そのためだった。
 二人は、部屋の奥から建物内につづく通路を発見し、そこをとおっていまいちど、死体がおかれた室内に足をふみいれた。
「やっぱり」
 死体のひとりは、あの男だったことを、ユーゾーは確認した。
「ここはほんとに、幽霊惑星だったんだ」
 二人は、建物を出ると、艇のとまっていたあたりにもどっていった。二人がこの惑星にくることは、クライアントに届けてあった。いつまでたっても連絡がないと、救助をさしむけることになっている。
 それまでのあいだを利用して二人は、生存に必要なものをあつめることにした。
「植物が育つのだから、水はあるはずだ。食べられるものだって、きっとみつかるだろう」
 脅威が去った後の、安堵感につつまれながらユーゾーとユカコは、ゆっくりとした足取りであるきはじめた。 なにやら揺れ動く影が、そのすぐあとからついてくるのにも、気がつかずに。
 


 






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