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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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葛の裏風(くずのうらかぜ)

14/12/22 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:2215

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 客先訪問を終えた一樹、コンビを組む同期のカズラから、ちょっと道草していかない、と誘われた。
 カズラは若いながらも凄腕の営業部員。今まで就業時間中にサボるなんて見たことがない。しかし珍しいことがあるものだ。
 一樹は生真面目だが、口べた、セールスに向かないスタッフ。もちろん自分でもわかってる。そのため、顧客との良好な関係作りが求められる部署から早く抜け出したい。しかし、入社後三年は営業現場実習、それが会社方針だ。それでも来春には異動、そう期待し、なんとか踏ん張ってきた。いや、同僚のカズラに支えてきてもらったと言っても過言ではない。
 カズラは新人ながらも論理的に主張を展開させる。ビジネスは感情ではない、数字だ。そう信念を持ってるのだろう。横に寄り添うだけの一樹は、凄いヤツだといつも羨望の眼差しで見、自分もそうありたいと憧れてる。
 そんな出来るカズラだが、もし一樹との共通点を見つけるとするならば、それは名前の読み。たった「き」と「ラ」の一字違いの「かずき」と「カズラ」。まことに些細なことだが、そのことだけでカズラを身近に感じ、いつかきっとカズラのようになろうと励まされてきたのだ。

 そんなカズラに、いきなり手を引っ張られ、町外れの高台へと上ってきた。眼下には廃墟と化した遊園地が望める。そして昼間燦々と降り注いでいた陽の光は入射角を小さくし、かって絶叫マシンと名を轟かせたジェットコースターを紅く染め始めている。
 そんな風景の中に、ビシッと濃紺のビジネスウェアを身に纏ったエリート社員、カズラのシルエットが浮き上がる。一樹は一幅の絵になるなあと思った。
 だが間近へと目を戻すと、葛(くず)の蔓が展望台に絡まり、緑の葉で覆い尽くされている。そこには朽ち果てた、まさに廃屋があった。
 それにしても、なぜ、こんな所に?
 一樹はカズラの真意が推し量れず、ただ無言で茜色に染まり行く山の端をしばらく眺めていた。その静寂を破り、別人のような低い声でカズラが口にした。
「一樹君、もういいでしょ、お別れしましょ」
 若い男女が沈み行く夕日を眺めながら、別れましょ、とは?
 一樹が振り返ると、カズラの耳たぶがぽっと赤い。上気してる証拠だ。
 それにしても、これって男がふられるシーンなのか?
 確かにカズラへの恋慕の情はある。だが一樹にとって、それは初恋のように淡いもの。そのためか、このような場面では女心を気遣い、「僕、カズラのこと好きだけど、別にいいんだよ」と返した。
 これにカズラは「一樹君て、純情なんだ」とぷぷぷと吹き出し、「私たちは近親だよ、恋愛なんてできないわ」とお茶目な表情になる。
 しかし、一樹には理解できない、僕たちが血縁だとは。
 それでも精一杯、「ひょっとして、姉と弟だったりして」と冗談を飛ばしてみた。だがカズラは笑う風もなく、むしろ物足りなさそうな面持ちで言う。
「私たちはもっと濃い仲よ。つまり私はあなたで、あなたは私なの。そうよ、一樹君は私の化身なの」
「えっ、僕がカズラのお化け、ってこと!」
 一樹はぶったまげた。しかし妙なものだ、こんな場面では「僕が女性の化身だなんて、ちょっとヤバクない?」と珍奇な反発しかできない。これにカズラが秘めた胸の内を明かす。
「女性が会社で仕事して行くって結構大変なのよ。私ね、社会人になる時に、裏切らない男性の味方が欲しかったの。それで妄想を一杯していたら、一樹君が入社式に現れたのよ。嬉しかったわ」と。
 されどもそれは一樹にとっても同じこと。自信が持てない一樹の前に、突然カズラが登場したのだ。そして、そう振り返る一樹に、カズラは目に涙を一杯浮かべ、
「私たちは葛(くず)の葉の裏表みたいなもの。裏の一樹君のお陰で、表の私はずっと緑に輝き続けてこられたよ。ホント楽しかったわ、だけど……」
 この時一樹は悟った、もし自分がカズラの化身ならば、もう役目は終わった。あとは特に意識したわけではないが、カズラが言おうとしていることを呟く。
「僕のすべてを喪失してくれ、ってことだね」
 カズラのためなら、それもやぶさかじゃない。そんなことをふと考えた瞬間だった。一陣の風がサーと吹く。
 一面の葛の葉がひらひらとめくり上がり、葉の裏の白さが目映く光る。きっとこの風は、夏から実りの秋への、季節の移ろいを告げる――葛の裏風(くずのうらかぜ)。
 その天からの一瞬の告知に、カズラはこくりと頷いた。そして、まるで風にさらわれるかのように……、喪失した。

 翌朝、一樹はオフィスでカズラを待ったが、現れない。人事に問うと、元々そんな社員はいないと一蹴された。
 つまるところ、カズラこそ一樹の憧れで生まれた化身だったのでは。そう結論付けをし、背筋をシャキッと伸ばす一樹に、幾ばくかの仕事への自信が芽生えてきたようだった。


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このストーリーに関するコメント

14/12/23 そらの珊瑚

鮎風 遊さん、拝読しました。

確かに葉って裏はいつも日陰で、表はいつも太陽の光を受けてますね。
カズラは表? それとも裏だったのでしょうか。
もしかしたら一樹のなかで一緒になったのかもしれないなあと思いました。

14/12/26 草愛やし美

鮎風游さん、拝読しました。

何とも不思議な話ですね、不安が作り出した偶像により、安らぎがあったのでしょうね、お蔭で新しい仕事という場面で生きて来れたのですか。
カズラとかずきは表裏一体、きっと表向きは一樹だけど、カズラはまた現れるのではないかと思います。だって、女性は強いですもの、そう簡単に喪失してくれるとは考えられませんもの。苦笑

14/12/29 泡沫恋歌

鮎風 遊 様、拝読しました。

厳しいビジネスの世界で生き抜くために、一樹は「カズラ」という、心の支えを作ったのでしょうか。
だけど、「カズラ」の能力も、元々一樹が持っていたものだし、きっと成長したので
「カズラ」は喪失したのではなく、二人は同化したのでしょうね。

14/12/31 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

コメント、ありがとうございます。

カズラは太陽の光を受ける表、
いえ、本当は一樹が表……だったのかな?

一樹はカズラのお陰で、これから頑張って行きますので、よろしく。


14/12/31 鮎風 遊

草藍さん

コメント、ありがとうございます。

そうですね、
順風満帆とは行かない人生、
どこかでまたカズラは現れるかも知れませんね。

その時はまた導いてくれることでしょう。

14/12/31 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメント、ありがとうございます。

カズラと一樹は同一人物、
こうありたいと願う深層心理から産まれた化身。

さてさて、
今のところ、一樹がその本体になってるようですが……。

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