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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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幽霊惑星

14/12/22 コンテスト(テーマ):第四十七回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1477

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 ユーゾーの操縦する二人乗り宇宙艇ユニトは、ゆるやかなカーブを描きながら、目的の惑星の進入口にむかって舞いおりていった。
 進入口には、いわゆる自動扉があって、艇が接近するとひとりでにハッチは開いた。
「この瞬間がたまらない」
 幽霊惑星をつつみこむ透明ドームの開閉ハッチが開き切るのをもどかしげにながめながら、ユカコがいった。
「気をつけるんだ。いくら幽霊惑星だとはいっても、だれかがすみついている可能性がある」
 ユーゾーは、スタンガンの目盛りをマックスにした。
 海賊とよばれる、幽霊惑星を渡り歩いている連中と鉢合わせでもしたら厄介だった。宇宙艇を奪われたうえに、へたをすると命まで奪われてしまう。
 二人は、厳しい訓練をうけた、幽霊惑星の調査員だった。
 幽霊惑星とは、人工的につくられた惑星のことで、その規模は様々で、直径数百キロのものから、十数キロのものまであり、ほとんどが放棄されたかもしくは、それを所有していた惑星が滅びたかのどちらかだった。
 わかりやすくいえば、別荘の惑星版で、内部には機械でできた芯がつまっていて、表面には地表がコーティングされている。放棄されたのちも、きちんと軌道を狂うことなく円運動をえがけているのも、内部で自動する精巧な装置のおかげだった。
「さあ、鬼が出るか、蛇が出るか」
「あなたの口癖ね、それ」
 彼のパートナーとしてこれまでいくつもの幽霊惑星におりてきたユカコが、おかしそうに笑った。
 とはいえ彼女も、艇から一歩出たときの、ゾクリとする緊張感に、いつものように顔を厳しくこわばらせた。
 比較的、ちいさな惑星だった。
 艇内での観測では、直径が約三十キロで、遠くの恒星からくる光に起伏のある地表を淡く浮かびあがらせている。
 大気の心配はここにはなかった。惑星の周囲は透明ドームにおおわれていて、いまなお働きつづける大気製造装置によって、二人はらくらく呼吸することができた。
「すむには、よさそうなところだね」
 こじんまりした惑星上には、いっぱいの草花がさきみだれ、ゆたかな繁みをひろげる木々もならび、吹く風はさわやかで、これまで狭い艇内におしこまれていた二人は、うんと手足を気持よさげにのばした。
「おかしいわ。いまでも地表はだれかが手入れをしているみたいにみえる」
 それにはユーゾーも気づいていた。これまで見てきた幽霊惑星はほとんどが、ほったらかしの荒れ放題で、かれらを雇った観光業者が、遊覧宇宙船の休憩地に利用するにも、相当な手間と膨大な費用がみこまれるのがおおかただった。
 ここは、ちがった。いますぐでも、リゾート地として利用できるほど、環境はきれいにととのっている。
「先客がいるみたいだな」
 だとすると、厄介なことになる。幽霊惑星は、さきに手をつけたものにその所有権はあたえられる。大手の観光業者が鵜の目鷹の目で宇宙にちらばる幽霊惑星の獲得に心血をそそぐのはそのためで、おかげでユーゾーたちも商売繁昌というものだ。
「かえって海賊たちのような、非社会的存在だったら、宇宙警察にたのんで退治してもらえるが、どうもここをみていると、そうではなさそうだ」
「あまりに整然としすぎているわね。もしかして、まだ所有者は健在なんじゃないかしら」
「いや、そんなことはない。ちゃんとわれらがクライアントが事前調査して、幽霊惑星と判断したんだから」
 二人はなにか腑に落ちない顔で、盛り上がった土地の上にやってきた。
「ほら、あそこに、住居がみえるわ」
 ユカコは、木立の向こう側の高台にみえる、中央にひときわ高い塔がそびえる、円と曲線が交錯する建築物を指さした。
「まるで、廃業した遊園地のようだ」
「享楽的な種族がすんでいたのかも」
 ユーゾーは、万事に手入れが行き届いた地表をみまわしながら、いまのユカコの言葉にコクリとうなずいていた。とはいえデータ上では、ここが幽霊惑星になってすでに久しいことがわかっているだけに、いまなお整然とした秩序が保たれている大地をみる彼の表情は、相変わらず釈然としなかった。
「調査には、時間がかかるようだな」
 やはりだれかがすみついているのでは………。黙って目をみかわすふたりの顔には、なにやら予感めいたものが浮かんでいた。
 そのとき、ユーゾーの視界のなかに、ふいにうごめくものが飛び込んできた。
「ほら、あそこ」
 ユカコもすでに気づいていた。
「人間、かしら」
 ユーゾーは、ひときわ草花の咲き乱れる地帯に、視線をこらした。
「人間じゃない。ロボットだ」
 いわれてユカコも、すぐにそれがロボットだということをみとめた。横長の楕円形の頭と、こんどはたてながの楕円形の胴、細長い手足―――どうしてこれが人間におもえたのか、いまとなっては不思議なほどで、ユカコはつくづく自分の観察力のなさにあきれかえった。
「だけど、ロボットで本当によかった」
「そうね。あれが人間だったら、わたしたちの苦労も、水の泡になるところだったわね」
 これまでにも、無人惑星とばかり思っていたら、一日ちがいで人間がはいりこんでいて、相手は所有権を主張し、譲渡するための法外な金額を要求してきたケースがあった。
「それにしても、花の手入れをするロボットなんて、はじめてだ」
 ほっとした気のゆるみからか、そんな冗談を口にしながらユーゾーたちは、ロボットのいるところにちかづいていった。
 そばでみると、ロボットはおもったよりおおきかった。身の丈三メートルはあるだろうか、腕もあしも、遠くでみたときよりずっとふとく、強靭そうにみえた。頭もまた巨大だが、そのかわり顔は非常に単純だった。ふたつの黒い目以外、鼻も口も二人のいる位置からははっきりみわけられなかった。
 みためは不恰好だが、腕のうごき、足のはこびはスムーズで、花をあつかうさいの手つきもまた、人間同様じつに繊細そうな動きをみせている。
「やあ」
 ユーゾーは、気さくに、ロボットにむかって手をふった。
「こんにちは」
 ロボットは流暢に、ユニバーサル言語であいさつをかえした。
「ぼくはユーゾー、こちらはユカコ。幽霊惑星の調査をしている」
 ロボットは、姿勢をやや前かがみにすると、
「わたしは、イゾ。ここの管理をまかされたものです」
「管理―――きみの主人は」
「10年まえに全員、なくなっています」
「全員なんだね」
 ユーゾーは念を押すようにたずねた。
「はい。主人が出生した惑星の住人もろとも、悪性のウィルス感染によって全滅しました」
 ユーゾーは、ちらとユカコと目をみかわした。自分同様、万歳三唱したい気分を彼女が懸命にこらえているのがわかった。
「それでイゾは、主人が亡くなって以来、十年のあいだ、ここを管理しているのかい」
「はい」
「さぞかし亡き主人も、あの世でよろこんでいることだろう」
「わたしも、そうおもいます」
 よくみると、イゾの顔には、口があった。しかしその口は、しゃべっているあいだも、一度もあくことはなかった。
「われわれはこれから、ここを調査したいんだけど、かまわないだろうか」
「どうぞ、ご自由に」
 そのときユカコは、イゾの右手の指が、足元の花を、茎の部分からきりおとすのをみた。茎は、鋭利な刃物でも使用したような見事な切口で切断されていた。
「きれいに咲いてるのに」
 ふとユカコがいうと、イゾはこたえた。
「この花は、想定外に咲いたので、始末しました」
「想定外って、だれの想定なの」
「ご主人さまです」
 その返事からユーゾーは、いまみえる地上の整えられた植物群も、もしかすると十年前まからいままで、イゾの手によって、ひとつとしてかわることなく育てられ、剪定されてきたのかもしれないとおもった。


 二人はそれから、センサーを用いて、惑星上を調査してまわった。懸念していた生体反応はどこからも検知することはなかった。
 かれらはそして、最後にのこされた建造物の調査にとりかかった。
 もっとも、事前に建物内には多足型ロボットを数台侵入させてあり、すでにそのロボットたちからここが無人であることが報告されていた。したがって、通路をすすむかれらの足取りには、まったくといっていいほどためらいは感じられなかった。ユカコなどは、はじめの印象以上にここが、遊園地の様相を帯びだしたもようで、扉のない入り口からのぞく室内を、好奇にみちた目でのぞきこむようになっていた。
 スロープ状の通路をあがり、さいしょにでくわした広間にも、ユカコは彼より一歩さきんじてとびこんだ。
 その彼女から、突然悲鳴があがるのをユーゾーはきいた。
「どうした」
「あれ………」
 彼は、ユカコがつきだす指のさきを目でたどった。
 その部屋も、他の部屋どうよう、天井が奇妙に湾曲していて、その天井一面に絵とも文字ともつかないものが描かれていた。いやそれは描かれているのでなく、どうやら穿たれているらしく、どこからも明かりがないにもかかわらず、その模様からもれた自然光とおぼしき光が床全体に、不気味な斑模様を投影していた。
 斑模様は、その部屋に横たえられた人間の上にも、みとめられた。数にして十数体、それらがすべて死体であることは、多足型ロボットの反応からもうかがいしれた。
「もしかしたら、ここは墓じゃないのか」
 なるほど、そう思えばこの建物の、極端な幾何学的に抽象化された作りも、理解できないことはない。ビラミットや古墳の知識を、ユーゾーはよびおこした。
「それにしては、あの死体たち、ずいぶんぞんざいに置かれているんじゃない。まるで、袋か何かのように、積み重ねられて」
 なかには、手足がねじれたようになっている死体もあることに、ユーゾーも気がついた。
「死者にたいする尊厳なんて意識じたい、ないのかもしれない」
 ユーゾーは、死体たちのそばに、あゆみよった。じつはさっきから、ひっかかるところがあったのだ。
 彼は、後ろからユカコがはらはらしながらみまもるなかを、それぞれの死体に顔をちかづけて、とみこうみした。
「やっぱり、そうだ」
「なんなの」
「いや、ここにいる死体たちがまとっている服装から、すくなくとも三つ以上、ちがう惑星のものたちの集まりだということは確かだ。まだある。死体の腐乱状況からみても、かれらの死んだ時期が、それぞれ異なることも明白で、いちばんあたらしいのは、一、二年ぐらい前だ」
「このこと、クライアントに報告するの」
「生きた人間の報告よりは、むしろよろこぶんじゃないか」
「それもそうね。ところで、この現状を、どう理解するつもり、ユーゾー」
「それをしっているのは、イゾひとりだろう。ききにいこう」
 はやくも部屋からでてゆく彼の後ろ姿を、あわててユカコも追った。そのときちらと、イゾに切られて地面におちた、一輪の花が彼女の頭によみがえった。

                     
                      後編は同じスペース内に出す予定です。
               





 

 







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