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三条杏樹さん

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めそめそ

14/12/20 コンテスト(テーマ):第七十三回 時空モノガタリ文学賞【 隣室 】 コメント:1件 三条杏樹 閲覧数:1532

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また泣いてる。
アパートの隣の部屋の住人は、夜中になるといつも泣き出す。壁の薄いここではすすり泣きですら丸聞こえだ。
しかも毎晩。
いい加減にしてくれないと、こっちの気が滅入りそうだ。泣き声から察するに若い女性のようだが、毎日飽きもせず何がそんなに悲しいのか、とにかくここ半年ほど、欠かさず毎晩泣いているのだ。

こんなストレス社会だ。泣きたい気持ちも分かる。でも、隣人の眠りを妨げるのは違うじゃないか。
ここ半年我慢してきたが、ついに隣人にもの申すことにした。




翌晩、隣人のインターホンを鳴らした。
「はい」
若い女の声がした。自分が隣室の住人であることを告げて、ちょっとお話がある旨を伝えると、女性が扉を開けた。
これまた意外。泣き声から勝手に判断しただけだが、繊細で、か細い女性をイメージしていた。声はまるで幼女のような、少し鼻にかかった声だが、姿形はまるで真逆。

まるまると太った体型に、まんまる顔。おかっぱ頭に三等身かと思うほどの低い身長。

「何か?」
女は肉のついた頬を上げた。
はっとして、主題に入った。夜中に声が聞こえる。それで目が覚めてしまうのだとだけ告げると、女は憮然として「すみませんでした」と言った。その姿を見て、言うべきじゃなかったかもしれない、と思った。外でつらいことがあったのに、家の中でさえも泣けない場所にしてしまったかもしれない。少し後悔しながら、その部屋をあとにした。


しかし翌晩、また聞こえてきたのだ。あの泣き声。しかも今度はすすり泣きなんてものじゃない。慟哭、嗚咽。あまりにも号泣しているものだから、きっと階全体に響いているだろう。
いつもなら我慢していたかもしれない。でもその晩は違った。仕事でくたくたなのに、唯一の楽しみの睡眠まで邪魔されてはたまらない。今ここで自分が隣に言ってやらないと、他の人たちも迷惑だろう。
そう思って、再び隣室を訪ねた。いい加減にしてくれ、こっちだって疲れているんだ、と一言言ってやろうと思った。隣室のインターホンを鳴らした。








「いい加減にしてくれ。あの隣人、追い出すことできないんですか。大家さん」
「こっちだって眠れてないんですよ」
「早く引っ越してもらうか、身内に連絡して病院連れてってくださいよ」

住民たちはこぞって大家に詰め寄った。そこに、引っ越してきたばかりの女子大生が近づく。

「どうしたんですか?」

「俺たちの階のね、俺の隣室の206号室の女の子。あの子、毎晩、空っぽの部屋のインターホン鳴らして、『泣き声がうるさい』とか言ってるんだ。誰もいない部屋にだよ、誰もいないし、誰も出てないのに、一人で切れて一人で会話してるんだ。うるさくてしょうがない。毎晩だよ」

「うわあ・・・そんな人いるんですね」

「気をつけた方がいいよ。しかも、泣いてるのはその人自身なんだよ。自分が泣いてるくせに、誰もいない部屋のインターホン鳴らして泣き声がうるさいってわめいてるんだ。頭おかしいよね。お前がうるさいっつーのってね。何か病気なんじゃないかなあ」

「どんな人ですか?」

「太ってて、おかっぱ頭の若い女」


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