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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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喪失させられるか、妻の殺意を

14/12/16 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:4件 鮎風 遊 閲覧数:1630

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「好きなことをするよりも、嫌いなことをしない方が、私は幸せよ」
 これは妻の志乃が最近呟いた言葉です。
 二十歳そこそこで結婚し、すぐに始まった子育て。やがて私は単身赴任となり、妻は一人で家庭を守ってきてくれました。
 その間、嫌なことが一杯あったことでしょう。やっとそれらを乗り越えて還暦に。残された年を数えれば、こんな主張も納得できます。
 しかしながら妻が言い放った「嫌いなこと」って、何なのでしょうか?

 あっと、自己紹介が遅れました、私は今年目出度く定年退職をした夏風耕介と申します。
 長い会社勤め、決して順風満帆ではなく、むしろ満身創痍で現役を退いたと言った方が当たってるかも知れません。それでも業務計画も納期もない、まさに自由を満喫できる第二の人生が始まったわけです。
 私はこの幸運を祝し、もちろんいの一番に、苦労をかけた志乃をねぎらうため、二人で温泉へと出掛けました。
 山峡の宿、美しく盛り付けられた山海の幸、それらを舌にのせ、妻と地酒で差しつ差されつ。思わずフラッシュバックし、そこには新婚時代の志乃がいました。あとはほろ酔い気分で、露天風呂へと。
 首まで浸かり、夜空を見上げますと、頭上に宝石をちりばめたような星空が。さらに中天には淡香(うすこう)のまん丸お月さんが、立ちのぼる湯気に揺れていました。
 ウォオ−! はからずも私は月に吠えてしまいました。

 そんな至福の一夜が明け、翌日は、人生最後の愛車として、清水の舞台から飛び降りる思いで購入したGT車。それで観光地へとドライブ。助手席にはもちろん、プリンプリンのお姉さん……じゃありませんが、あれこれそれの指示代名詞だけで会話が成り立つ女房。
 まず、妻の趣味がボタニカルアートで、その画材探しにと温泉の熱を利用した植物園を訪ねました。
 園内に入ると、まるでそこは赤道直下、じとっとした生暖かい空気がいきなり襲ってきました。それでも黄やピンクの蘭の花が咲き乱れ、絢爛華麗に私たちを迎えてくれました。さらに奥へと進みますと、そこは完璧なジャングルでした。
「ねえ、これ、なんて言う木か知ってる?」
 突然立ち止まった志乃が指差しました。仕事絡みのことは任せてください。されども熱帯の樹木なんて、知るわけないですよね。私がポカンと口を開けてますと、耳元でトーンを落とし、妻が囁いたのです。「絞め殺しの木よ」って。
 私は、そんな恐ろしい木があるのかとよく見ますと、確かに何本ものつるが幹や枝に巻き付いています。助けてくれ、と木の精霊の叫び声が聞こえてきそうでした。
 それが恐くて、私がうーうーと身悶えてると、志乃はその場にしゃがみ込み、「これはロブスターの爪がぶら下がったヘリコニアロストラタって言うのよ。だけど血糊が付いたノコギリのようでしょ」と尖った葉、いや刃を嬉々として撫でてるではありませんか。
 だけれども私にはそれがノコギリには見えず、むしろ人体を切り刻み、鮮血をしたたり落とすチェンソー。その恐怖のせいか、館内は蒸し暑いにもかかわらず、背筋に冷たいものが走りました。そんな私に志乃は「あなたはどっちが好み?」と冷淡無常な目で窺ってきました。
「どっちも遠慮するよ!」
 反射的に叫んでしまった私に、「絵にもならない濡れ落ち葉は大嫌いよ。もしそうなった時に描こうと思ってるの。亭主の死というテーマでね」と志乃は不気味に笑みを浮かべました。
 この瞬間です、私はビッビッと感じ取ったのです、妻の殺意を。
 なぜって? だって会社から家へと戻ってきた嵩高いダンナの世話、それがもし志乃の嫌いなことであるならば、私はまさに邪魔者。その果てに、絞め殺されるか、もしくは切り刻まれる、ってことに!

 その日からです、第二の人生が……。
 もし人の一生を月曜日からの一週間に例えれば、六〇歳は土曜日。ならばこれから始まるシニアはハッピーサンデーであって欲しいものです。
 しかし、私はいつか血祭りに上げられる、そんな運命かと戦々恐々の日々になったわけです。
 されどもこのままじゃ、座して死を待つようなもの。私はどうしたら殺されずに済むのでしょうか?
 課題は『喪失させられるか、妻の殺意を』です。
 そして遂に、志乃が「嫌いなことはしない、それが私の幸せよ」と言うように、妻の嫌がることをしなければ良いのだという結論に至りました。かくして私は第二の人生の、夫の三つ心得を宣言したのであります。
 1.メシ、フロ、シンブンと要求致しません。
 2.整理、整頓、清潔に心掛けます。
 3.奥様の時間を束縛致しません。

 とどのつまりが単身赴任を引き続き家庭内でも続けろってこと。そして三年後も、必要な時に、アッシー君でお役に立てていれば、妻の殺意は喪失したと言えるでしょう。
 さてさて、私に未来はあるかな?


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このストーリーに関するコメント

14/12/17 泡沫恋歌

鮎風 遊 様、拝読しました。

いやはや、これって笑って読んでもいい話なんですか?
確かに年取ってくると、年々旦那が疎ましく思えてきます。
知り合いの主婦たちなんて・・・定年すぐに旦那が亡くして、未亡人になった人を・・・
密かに「勝ち組」と呼んでいますよ 壁]ωΦ)ニャ

ああ〜、怖ろしや、怖ろしや!

14/12/20 草愛やし美

鮎風游さん、拝読しました。

主人公は週末にいる=終末におられる、そうに違いないのでしょう、ハッピーサンデー、それは生まれた時に終わりました。カレンダーには二通りあります、日曜から始まるものと、月曜からのもの、曜日に対する考え方も人それぞれでしょうが、大きくはその二通りに分かれるようです。
仕事や勉学を始める月曜が先に来る方は、きっと美味しいものを後から食するタイプ。日曜から始める人は、その逆で他人に食べられない前に先に美味しいもの食べてしまおうとのタイプ。どちらにも一利ありそうですが、この主人公は後者に入っていた方が良かったのではないかと思います。
こういう旦那さん、おられるのでしょうねえ、いえ、決して体験談だなんて考えていませんよ。苦笑

14/12/31 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメントありがとうございます。

はい、笑って読んで頂いてもOKなのですよ。
それにしても主婦の勝ち組って、凄いですね。
ダンナは負け組ばっかりなのかな?

14/12/31 鮎風 遊

草藍さん

コメントありがとうございます。

そうですね、1週間を日曜から数えることも。
この場合は、最後の楽しみの日曜日がないことに。

寿司盛り合わせで、イクラの軍艦巻きを先に食べるか、最後に食べるかですね。
私の場合、もしウニがあれば、最後はイクラ、ウニの順でしめさせてもらいます。
これで、Happy End.

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