リードマンさん

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14/12/14 コンテスト(テーマ):第四十六回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 リードマン 閲覧数:1051

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 “狂人”討伐の明くる日の朝。
 午前5時。大神 大地、起床。
 普段よりも1時間遅いが、例のランニングが禁止された以上仕方がない。
 今日も今日とてイビキの響く家を出て、いつもの土手へとやってきた。
 一通りの柔軟だけこなして、寝転がる。
 心地良い筈の朝の空気も、今日は50点だ。
 いつだったか、隣で騒いでいたバカももういない。
 昨日は、告白と被告白という、バカデカい二つのイベントがあったのだ。
 流石に、タフな大地の心もヘトヘトである。
 あれから、彼等の思い出の場所だという、山奥の開けた場所に、お墓を建て、何やら感傷に耽っていた大バカに、不謹慎だとは思ったけれども、言ってやった。
 それが目的であの時追い掛けたのだし、思ったよりもすんなり声が出たので、叩きつけるように、言ってやった。
 いや、その時の台詞は、恥ずかし過ぎるので、秘密だが。
 だっていうのにあの大バカは、

「ん? ああ、そう、いいんじゃない?」
 
 これだ!
 バカだバカだと思ってはいたけれど、まさかあそこまでの大バカだったとは!
 あげく、抜け殻になっている自分を放置して、さっさと歩いて行きやがったのだ!
 
 殺してやりたい!
 
 その上、その上だ!

 その状況を好機と見たのか、あのバカ二号。
「俺は心の底から、君だけを愛しているぞ、大地。俺が必要になった時は、いつだって呼んでくれ」
 とか、いっそ堂々と言い放ってくれちゃった後、あろうことかソイツまで、自分を放置してくれやがったのだ!
 度重なる精神的ショックからなんとか立ち直り、慌てて帰った自宅には、門の前で待っていてくれたらしい、雷蔵しかいなかったのである。
 あの老人、何かを懸命に訴えていたようだが、そんなものは全部左から右だ。
 ヤケ喰いして、
 フテ寝して、
 今に至る。
「・・・なんだかなぁ」 
 あんまりにもあんまりではないだろうか?
 バカ一号は挨拶もなしに姿を消すし、その付き人達も同様だった。
 バカ二号だって、必要な時は呼んでくれって、一体どう呼べというのだろうか?
 連絡先の一つも渡さずに、サッサと何処かへと行ってしまったクセに。
 まさか、自分に妖しい召喚儀式でも求めているのだろうか?
 そんなモノは知らないし、知りたくもない。 
 そうだ、試しに空に向って叫んでみるか?
 調度、なんか叫びたい気分だし。


「・・・はぁ」
 始業前の教室で、溜め息一つ。
 なんとあのバカ二号、ホントに来やがったのだ!
 慌てて蹴り帰してやったのだが、もしかすると、どこぞに潜んでおるのやも知れぬ。
 今更ながら後悔する。蹴り帰すまえに、バカ一号の事を訊いてみるべきだった。
 同じバカ同士、連絡を取り合っているのかも知れないし。
 とはいえ、もう人も大分集まっている朝のクラスで、突然奇声を上げる程、自分は愉快な人間ではない。
 そうだ、昼休み、屋上でというのはどうだろう?
 
 担任の新田 巴が、HRの開始をつげている。
 
 いや待て、そもそも自分は奇声を上げるような人間ではなかった筈だ。
 
 皆が挨拶の為起立する中、ただ一人着席したままの大地。
 
 いや、しかし、むむむ、
 
 彼女は気付いていない。
 光の席として用意されていた彼女の隣の席は未だ顕在で、
 更に後ろには新に二つ、空席が用意されている事に。
 ようするに、

「遅刻しました! あ、それからこの二人、新しい転校生だから、よろしくね! 新田先生?」
「リリスよ」
「イヴといいます」

 またしてもやって来た不幸に半泣きになる新田教諭を他所に、
 不覚にも数秒惚けてしまった後、彼女は立ち上がった!

「だ・か・ら、少しは隠そうとか思わないのか!? アンタ達は!?」

 答える、例の服を着た三人組。

「「「当然!」」」


「で、何でお前までいるんだよ、悠輝?」
「呼ばれたからだ」
 昼休みの屋上で、妖し過ぎる五人が昼食を取っている。
 予期せぬ事態から生じた食糧不足を乗り切る為、そして、購買という名の戦場から、パンという戦果を勝ち取る為だけに呼ばれたというのであれば、それは、
「体の良いパシリじゃねぇか。大天使ともあろうものが、嘆かわしいねぇ・・・」
「彼女の優先順位は貴様よりも上だからな」
 なぜかハイテンションになっている大地は、大声で叫ぶ事を一切躊躇わなかった。
 ああ、彼女のキャラが壊れていく。
「『アタシは! アンタが好きなんだ! だから、傍にいてくれなくちゃイヤだ!!』」 
 例の台詞をリリスとイヴに熱演され、人目も憚らずにガイア化して、飛び掛かる大地。
 元は、大地の分だったらしい弁当を頬張りながら、それを見詰める光に、悠輝が訊ねる。「どういうつもりだ?」
「何が?」
 惚ける光。
「学生に混じるなど、正気とは思えん。ましてやお前達は、一所に留まる事など出来んだろうに」
「ん〜、何とかなるんじゃないか?」
 まだ、惚ける気か。
「俺は、その理由を訊いているのだ」
 惚けるのも、そろそろ限界か。
「・・・誓っちゃったんだよねぇ」
「何を?」
「安全が確保されるまでの間、護りきるってさ」
「何を言っている?」
 悠輝には、理解しかねるらしい。
「どうにも、アイツの心の安全を確保するには、俺が必要みたいでね。それじゃあ、仕方がないかってね」
 キザなヤツだ。
「・・・正気とは思えん」
 苦笑している悠輝。
「ははっ! 俺も、そう思うよ」
 笑う男二人を他所に、じゃれ合う女三人。
(愛しい彼女達を守る為ならば、そうさ、喜んで、愛に狂ってやる)

 見上げた空には、ワガママで美しい太陽が、今日も眩しく輝いている。 
 
 雲の流れに行き先尋ね、
 風のきまぐれに身を泳がせる。
 彼女達の声を聴き、
 その温もりを幸せと知る。
 原初の荒野でキミと出逢った。
 あの楽園でキミを忘れた。
 旅路の辛さがただ恐ろしくって、
 泣いてたボクラをキミが叩いた。
 いつか見つけた確かなヒカリ、
 求め巡るよ、キミラと供に。

 
 静かに月が輝く夜。
 遊技場『パラダイス』の裏で、事は起ころうとしていた。
 この日、この場は、その名とはかけ離れた様になろうとしていた。
 いや、楽園の裏側という意味では、正しかったのかもしれないが。
 延々と続く、自分達を囲む男達の声にも、彼は最初から、聴く耳など持ってはいなかった。
 薄暗い、汚い空気の中で、下品な男達に囲まれている、一組の男女がいた。
 怯えて座り込んでいる女性と、その前に立ち、庇っているようにも見える男性。
 実際は、もっと救いようのない話なのだが、それはともかく、
「大体さぁ、男に興味ないんだよね。オレ、ゴミの分別もしない主義だし、ぶっちゃけお前らの事なんかどうでもいい訳よ、解る?」
 一方的に意味の通らない言葉で威嚇し続ける周囲の言葉を全て無視し、彼もまた、一方的に話している。
 と、そんな彼の服の下で、震動が起きた。
 震源は、胸に下げている水晶のペンダントである。
「おっと、コイツは驚いた。クズからゴキブリに格上げだってよ」
 真夜中、路地裏で暴漢に囲まれている少女を庇っているようにも見える、黒スーツ白シャツ黒ネクタイの青年は、軽く胸を押さえ、ニヤリと笑った。
 連中の不幸だった事は、青年の服装の意味に、最後まで気付けなかった事、この一点に尽きるだろう。
「そうだなぁ・・・面倒だけど、目障りでもあるし・・・殺してやんよ!」
 青年を包む気の質が変わったと、感じるや否や、彼を囲んでいた6人の男達は一瞬にして、内側から弾け飛んでいた。飛び散る破片は、怯える少女にも張り付いた。
 立ったまま、指一本動かさずに即席人間爆弾×6を破裂させた男は、今度は下品に、ニタリと哂って、彼好みの少女へと振り向いた。「へへへっ、こっからがお楽しみぃ〜って、アレ?」
 危機を救われた、いや、これからこそが本当の危機である少女は、目の前で起きた出来事に、気を失ってしまっていた。
「なぁんだ、ま、こういうのも悪くない」
 言ってその手を彼女へと伸ばした、その時だった。

「そこまでだ」

 彼の手が、ピタリと止まった。どうも、空気の読めない来客らしい。とうに癒えた筈の傷跡が、チリチリと、疼いた。
「ヒトの恋路を邪魔するヤツはぁって、知ってるか?」
「そんな上等なモノには見えんがな」
 ウンザリした様子で振り向いた男と、現れた男は、全く同じ、顔立ちをしていた。
「これから始まるんだよ」
「一方的だな、俺は好かん」
 真っ白でとんがった髪、真っ黒な肌をした長身痩躯のスーツ姿の男。その瞳は、妖しく輝く紫色。名を、闇影 罪人やみかげ つみひと。
 対する白の軍服を着た男、サラサラの金髪に真っ白な肌をした長身痩躯。その瞳は、澄みきった青色。名を、天司 悠輝あまつかさ ゆうき。
 ともに幼い顔立ちをしている為、年齢の判別がしがたいが、多く見積もっても、二十歳かそこらが精々といったところだろう。
「お前の好みなんざ知るかよ、オレは、このコが好みなの」
「俺とて、貴様の好みは理解出来ん。が、確かにそこの娘は美しい。よって、この剣にかけて、守らせて貰う」
 腰に懸けた黄金の剣を、指で軽く示しながら、悠輝が言う。
「“守人”のリーダーさんよ、仕事熱心な“非人”のオレに、是非ともお目こぼしをってか」
 罪人の戯言を、悠輝は完全に無視する。
「派手にやったな」
「ん? ああ、死に花咲かせてやったのさ」
 彼の凶行を止めるでもなく看過した彼、結果、6人の人間が死んだ。
「人の餞別など、業が深いとは思わないか?」 気を失ったままの少女を優しく抱え上げながら、悠輝が問うた。
「さてな、エンマの大将が何考えてんのかは知らねぇさ、つか、何も考えてねぇんじゃねぇの?」
 答える彼がもつ水晶のペンダントは、彼等“非人”の共通の持ち物である。“未来視”の力を持つこの水晶は対象の将来を覗き見、その善悪を判定する機能を持っているのだ。
ま、大した震動じゃあ、なかったがな、時代が時代なんでね、お仕事お仕事
 20XX年、高齢化社会が深刻化したこの日本に生まれた非公式の人口調整部隊、“非人”ひにん。その発足の原因から、力のない高齢者を殺して廻る卑劣な殺戮集団として、国民からは認知されている。黒スーツ白シャツ黒ネクタイ、通称“喪服”と呼ばれる衣装を常に身に纏う死神達、その実態は、国民の認識とはいくらか異なるものだ。確かに彼等は老人を、いや、老人も、殺す。しかしそれらは多くの場合、本人やその家族が望んだ安楽死を、違法に手助けするぐらいのものである。彼等の本質は、国から与えられた権限にこそある。水晶で作られたペンダント形の殺人許可証、“免罪符”。彼等は個人の判断で老若男女を問わず、全ての人々を裁く権限を持っているのである。当然、選抜には厳しい審査が行われる。が、行き過ぎた殺戮を行う“非人”もゼロではない。そんな連中を粛清する役割を持つのが、天司 悠輝率いる“守人”もりびとである。“非人”の完全討伐を掲げる戦闘集団というのが、国民の知りうる限界だが、その実、“非人”と“守人”は国が同時に発足した相互作用する特殊機関である。また、これら二つには、もう一つの側面がある。自国の防衛、である。10年前に終わった世界大戦によって、地球上の多くの国々は滅亡した。が、世界には未だ数多くの火種が残っている。それらが日本に降りかかろうとする時も、彼等は立ち上がるのだ。国民の混乱を防ぐ為、この事実を知る者は極一部に限られている。が、彼等は世の影で、国の為、日夜、国の内外を問わず戦い続けているのである。最愛の女性を犠牲にしながらも、第4次大戦をたったの独りで未然に防いだ、“非人”の“英雄”、篝火 刃かがりび やいばのように。
「天使長様が連敗したらしいじゃねぇの? 随分とバカデケェヤマだったんだな?」
「あぁ、が、かつての姿を知るだけに、やりきれん・・・時折、思うのだ、“あるがまま”こそが真の幸福だとヤツは言ったがな。今一度、“楽園”を招来すべきなのではないかと」「ハレルヤ! 福音の時は来たれり! ってか? ハッ、なら俺達はさしずめイナゴの群れって訳だな? 大将の奴、案外その気なんじゃねぇのか?」
 冗談めかして言う罪人、が二人には解っていた。あの“独裁者”が、そんな事をする筈がないということを。
「ヤツは、罪の重さを知っている。貴様と同じだな、ルシフェル」
「その名で呼ぶな弟よ。オレはルシファー、泣く子も凍りつく、大魔王様だぜぇ?」
 悠輝のおかげか、安らかな顔をしている自分好みの少女を彼に預け、彼は、二人に背を向けた。
「グローリア! 人の世に幸あれだ、クソッタレ」
 夜空の月は何も語らず、ただ静かに輝いていた。


 ぶっちゃけた話。
 秩序とか混沌とか、善とか悪とか、そんなのはオレにとってどうでもいいのである。
 恒久平和? いいんじゃないソレも。
 戦乱永続? おもしろそうじゃん。
 全部他人事、知った事じゃないしね。
 オレのしるべは、ただ己の欲望のみ。
 めんどくさい理性も、かったるい本能も、オレに言わせれば同じモノ、ようは自分が何を望んでいるのかって事でしょ?
 かといって好き勝手やってイジメられた経験がある以上、再生が済んでからというものの、静かに穏やかに細々とがモットーなオレ、エライ!
 喰うに困るのは勘弁だし、ちゃあんと社会の一員として毎日頑張っているわけですよ。
 世間の皆々様の目は冷たいけどねっ!
 そんな頑張りが通じたのか関係ないのか、運命ってヤツに久しぶりに感謝して、幻滅したのもつい昨日の事。
 仕事の最中に、見目麗しいオナゴを発見、一目で恋に落ちたボクラはめくるめく恋の逃避行へ!
 の筈だったのに、空気読めない邪魔者のせいで折角のエモノ、じゃなかった、オレの恋は唐突に終わってしまったのである、マル。
 今のオレの最大の関心はズバリ、女、である。喰うのも好きだし寝るのも好きだが、やっぱり女がいない事には始まんないでしょ?
 他所様に迷惑掛けると怒られちゃうから、そういう内的な趣味に走るしかないのである。
 だってホラ、身内になっちゃえば他人じゃないじゃん?
 なんてバカな事考えてると、胸のキズが痛む痛む。
 昔オイタした時に実の弟からつけられた傷である。これが噂のDVかぁ、家庭崩壊、なんてステキな!
 昔のカラダは“記録”に還っちゃったし、新品のこのカラダにはそもそもそんなキズなんて残っちゃいないんだが、とにかく痛むものは痛むんだからしょうがないじゃん。
 お、ムカツク顔を発見。
 さらにムカツク事に女連れですよ、あの怪物クン、ウフフ、殺しちゃおうかな? どうしようかな?
 調度気分も絶好調な事ですし、あの蛇頭にケンカ売っちゃおうかしらん。
「真っ昼間から、見せ付けてくれてんじゃんかよ! 蛇坊主!」
「・・・」
 途端、全身をくまなく貫かれた気がした。いや、実際貫かれたんだけどね。無口なくせしてやるじゃん蛇女。先制攻撃、ゴキゲンだね! 効きはしないけど、痛みはあるのよ? 刺激的ぃ!
「これは失礼しました。独りがお似合いの孤独な魔王様に見せつけてしまいましたね。まぁ、僕等には、これが自然な事ですから」
 こっちの背筋が快感でゾクゾクするような事をバカ丁寧に言ってくれちゃってるのがこの夫婦の旦那の方、八河 大蛇やつかわ おろち、そんで、さっきから無言でこっちにラヴラヴな熱視線を向けてくれちゃってるのが奥方の八河 美輪やつかわ みわ。
 似た者夫婦の言葉のまんまの二人だ。揺れる紫の頭髪に若干青ざめた肌、銀色の釣り目の瞳孔が縦に割れていて、二人揃って、オレからみれば中学生ぐらいにしか見えない所までおんなじだ。
 う〜ん、ヒトヅマ、危険な響き、しかもオサナヅマ、ゴスロリの衣装が不気味な程似合っている。ヤベェ、燃えてきた!
 と、いけねぇ、キズが痛む痛む。
 たった今、普通のヤツならあの世行きの攻撃を喰らったばかりだというのに、オレの鼓動は高鳴るばかりだった。
 オレの愛は、海よりも深いのだよ。主に、直接的な意味で!
 どうでもいい旦那のほうは、オレと同じ“喪服”を身に着けている。アレ? 本当に心底どうでもいいんだけど、コイツ確か、クビになったんじゃなかったっけか?
「なんだなんだ? なんだよオイ、お前大将にクビにされたんじゃなかったのか?」
「・・・」   
 またも全身を貫かれるオレ、解りやすいね。 そんな羨まムカツク蛇男が口を開く。
「えぇまぁ、だからこそと言いますか。折角拾った命です。エキドナの為にも無職になるわけにはいかないと、こうしてやってきたんですよ」
「・・・」
「ハァ?」
 頬を染めて頷くオサナヅマ、解りやす過ぎる。つうか、ホントに殺してやろうかしらん。
時間はかなり掛かりそうだけど。
 このコが泣く様も見てみたい、なんてオレってばやっぱり鬼畜? ギャハハ! ま、めんどいからやらんけど。
 思い出すのは昔の事。
 これでも大魔王だし? オレも一夫多妻な訳なんだが、誰か一人ってのは確かにいない。けれど、大切なヒトが沢山いるってのはとても幸せな事だ。責任もある、何が何でも守ってみせるという覚悟もいる。けれど、アイツラの笑顔で報われるんだ。いや、救われると言ってもいい。目の前の女の、その泣き顔はさぞや芸術的だろう、見る者の胸を、締め付けて止まない程に魅力的だろう。けれど、どうせなら、笑顔の方が見てみたい。オレみたいな日陰者でも、いやだからこそ、輝く太陽に憧れちまうんだよな。なんて、らしくもないか。
「あなたに、近衛の任が下りました。僕が無職にならない為にも、何がなんでも、従って頂きます」
「・・・」
「・・・」
 珍しく、オレまで無言になっちまった。
 そりゃさ、太陽に憧れるとは言ったよ?
 えぇ、言いましたともさ!
 だからってオイ!
 そりゃ無いだろう!
 国家の犬は、国からの命令に不満を漏らす事さえ出来ずに、その場で立ち尽くすのだった。


 大神 照日おおがみ てるひは日の本の国を古来より見守ってきた帝である。その正体は、日本神話の最高神、アマテラスオオミカミ。エジプトでは太陽神ラーとして、これまた最高位の神として崇められている。他にも、彼女を至高の神として祀る地域は数多い、そんななんとも畏れ多い彼女だが、その外見は、悲しいかな、どう頑張っても小学生の域を出ない幼女である。緋色の長髪に、これまた緋色の勝気そうな瞳、やや浅黒い肌をしている。全体的には御嬢様然としたナリなのだが、本人の性格が隠しきれていない為か、小さな暴君、というのが適切な表現だろう。身長、体重、スリーサイズといった細かなデータは割愛ご想像にお任せする。まぁ、あえていうのであれば、大人ならば、いや大人でなくても大抵の人間には、簡単に抱えられてしまう程のミニマムサイズである。なぜこんな事になってしまっているのかといえば、彼女の持つ力があまりにも大き過ぎる事が最大の原因である。今の幼女の状態でさえ、小さなクシャミ一つで地球を消し飛ばせる程なのだ。もしも彼女が本来の姿で顕現しようものならば、この世界だけでなく、他の並行世界にまで飛び火しかねないのである。そんな訳で、“創世の三人”による必死の説得の結果、今のような姿を取っているのである。勿論の事、これは本人が大いに気にしている事であり、迂闊に触れればヤケドどころか、冗談ではなく蒸発してしまう事になるので、注意が必要である。以前、某ちゃらんぽらん男が彼女の頭を撫でた事があった・・・あわや日本国が島ごと蒸発かと思われる程の大事になり、バカの体は塵一つ残さずに消滅。“図書館”に強制送還された挙句に、館員には館長室に監禁され、仕事のヤマを押し付けられ、冗談じゃないと急いで肉体を再生して、還ってくるハメになった事があったのだ。当然その後、妻の二人にこってりと絞られたのは言うまでもない。そんな彼女、“歩く核兵器”の異名を欲しいままにする照日はしかし、自室のベッドの上で、足をバタバタとさせながらブゥたれていた。
「・・・ヒマじゃ・・・」
 彼女のどんなつまらない独り言にも『そうですね』と応えてくれていた付き人達例の三人組は揃って無期限の有給を取り、学生生活をエンジョイしている。彼女にとっては業腹モノだが仕方がないだろう。世界の安全の為、24時間年中無休で彼女の世話をさせられていた三人の疲労の程は、推して知るべしである。
「ヒマじゃヒマじゃヒマじゃヒマじゃヒマじゃヒマじゃヒマヒマヒマヒマ、ヒーーマーーじゃーーー!!」
「・・・はぁ、何か御用ですか、アネさん?」
 部屋の入り口で、溜め息吐きつつ問うたのは勿論罪人である。
「ワラワを楽しませよ! 笑わせよ! 喜ばせよ!」
 日本国天皇の護衛という大変栄誉ある仕事を任されながらも、彼から溜め息が消える日はただの一日たりとてなかった。
大将達の苦労も解るぜ、全く
 根が暴力的で鬼畜な彼は、当然この状況に耐えられる筈もなく、憂さ晴らしにこの幼女を襲ってやろうかと半ば以上本気で考えたのだが、思いとどまって止めた。“不滅”の二つ名を持つ彼ですら、或いは消滅させてしまう程の力が彼女にはあるからだ。大体この護衛の任自体が茶番なのである。皇居は、いや周辺数十キロに渡るまで、この二人を除いて完全な無人地帯になっている。当然だ、いつ爆発するかも判らない核爆弾の傍で、眠れる筈もない。ようするに、彼に与えられた任務は、ヒマを持て余した彼女がバカな真似をしでかさないように見張る事、つまりは子守である。当然、誰にでも出来る任務ではない。もしもの時に、三人組が駆けつけるまでの時間を稼げるだけの実力が必要なのだ。前任者の履歴にもそうそうたるメンバーが並んでいる。彼女の弟である、大神 雷蔵おおがみ らいぞう、彼の弟である悠輝、例の三人組は勿論の事、“最大最強の怪物”、大蛇などなどのツワモノ揃いである。
「またなんとも、抽象的な・・・」
「早くしろ! さぁやれ! 今やれ! 早くやれ!」
・・・ホントにヤッちゃおうかしらん?
 こんな自問自答も、既に何度数えたか覚えてもいない。まぁそれでも、目の前の彼女が魅力的なのは、彼としては大いに結構な事なのだ。かつて一度だけ見た事があるが、彼女の本来の姿は、太陽神の名にふさわしい燦然たるものだった。不覚にも焦がれていたのは事実だし、多分今も、ココロの何処かで焦がれている。やかましいばかりの、躍動する命の大輝は、決して消える事はない。彼を傷付けた黄金の剣、その輝きすらも霞む程の原初の光。ヒトは、己にないものをこそ求めるという、ならば闇そのものである彼にとって、彼女こそが、唯一の存在足りえるのかもしれない。
「・・・まぁそれなら、また力比べでもしましょうか? 言っておきますけど、ちゃんと加減して下さいよ?」
 聞いた彼女は飛び起きると、彼の手を取り、道場へと引っぱって行く。皇居内のそれは群を抜いて頑強に作られている。二人掛かりで防御陣を敷けば、まぁ、お遊びぐらいは出来るだろう。
「よし行くぞ! それ行くぞ! 今行くぞ!
ソナタの闇は深いからのぉ、照らしがいもあるというものよ! ふっふっふっ、ついに、ワラワの本気を見せる時が来たようじゃな!」
「いやだから、加減してくれないと死にますよ、オレ?」
「うむ! 任せておくが良い!」
「・・・聞いてないね・・・」
 繋いだ手から伝わる、木漏れ日の温もりを感じる。心地よい体温は、彼女の優しさの表れだろう。大き過ぎる彼女は、その優しさもバカデカいのだ。らしくもなく高鳴る、自分の胸に苦笑しつつ、彼は素直に、彼女の手にひかれて行った。

 光と闇が、今日も、戯れる。

    


    

   
   



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