リードマンさん

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14/12/14 コンテスト(テーマ):第四十六回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 リードマン 閲覧数:1167

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不気味な赤い月が浮かぶ夜。
特別養護老人施設『おだやか』に、ソレはいた。
この日、この場は、その名とはかけ離れた状態にあった。いや、少なくとも、不自然な程の静寂が施設全体を支配しているという点のみでは、同じかもしれないが。当初は頻繁に聞こえていた、今では誰かだったモノに変わってしまった人々の悲鳴も、今は少ない。蔓延している、吐き気を催す程の濃密な死臭と、背筋を凍らせる、不吉過ぎる気配、白を基調に造られた施設も、鮮血のグラデーションで染められている。
 
 ここは、生者の存在こそが異質な死者の国。
 
 そんな中で、確かに聞こえる、息づかいが、一つ。
「ヒッハッ! ハッハッハッ!!」
 とても知的とは思えない呼吸音。
 その姿は、ヒトガタ。全身が血に濡れボロボロになってはいるものの、黒スーツ白シャツ黒ネクタイを身に着けている。人間?
「ヒヒハッ! ハーッハハッ!!」
 ソレは獣のように身を屈め、せわしなく、施設内を疾駆する。
 見つけた。
 廊下に一人。立ち尽くしているのは、白衣姿の誰か。
 男性? それとも女性?
 ソレにとっては、どちらでも構わないことだ。
 大変喜ぶべきことに、目の前の、血肉のたっぷりと詰った皮袋は、まだ生きている。
 つまりそれは、殺せるという事。
 まるで、旧知の友との再会のように、たっぷりの愛情のような殺意をもって、その身に触れた。だってそうだろう? 水風船を手にした子供は誰だって、パンッと破裂させて遊ぶじゃないか。これは、もっとずっとステキなコト。
「ひっ!? ぎっ!?」
 まるで、至近で爆弾でも破裂したかのように、人だったモノは、粉々に砕け散った。
 なんて快感だろう!?
 爪にハッキリと残る、人を砕く感触。身に振りそそぐ生暖かい鮮血は、とてもとても、肌触りが良い。床の池より、一掬い拝借、舐めたその味の、なんと甘いことか! 天にあるという黄金の果実だって、これほど甘くはない筈だ。
 ああ! ダメだ! 
 これが止められるものか、いや止められない。
 いや、そうか、ソレは既に病めている。死の味の、トリコ。
 そんなソレの手で、またしても一人、殺された。
 僅かな接触だけで細かな肉片に変えられたのは、元は施設員の一人だろう。
 これで、収容されていた老人を含む257人が、僅か一晩の内に、ソレの手に掛かってしまったわけだが、とうのソレは、数など覚えてはいまい。
 ソレの内を占めるのは、ただ快楽だけ。
 ヒトの言語に、無理やり置き換えるとすればこうだろう。
『タノシイ! キモチイイ! モット! モット!』
 こんな所だ。
 ソレはそういうモノ。否、そうなってしまった者。
 血を浴び、欲に溺れ続ける殺戮者は、更に奥へと、その侵食を続ける。
 その背後には常に霧。視覚化された、死と呪いの真っ黒な霧を背負っている。その形相は書くのもおぞましい程のモノだが、しかし、その容姿は驚く程に幼く見える。多く見積もっても、二十歳には届くまい。体格も華奢だ。こんな少年が、これほどの惨劇を起こせるとは思えない。
思えないが、現に起きている。
 
 それが既に起った事だというのであれば、
 起るだけの何かがあったというだけの話、
 それだけの事。

「・・・来たか、“狂人”」
 最奥の部屋には四人いた。
 四人、一人多い。
「?」
 つい先程まで、少なくとも彼がこうしてこの相手を捉えるまでは、ここには確かに三人しかいなかった筈。彼の嗅覚がそう告げているのだから、間違いはない。しかし、いた。
 ソレの霧によって、ちょっとした結界が張ってある筈のここに。
ケダモノの同類か?
 いや、違う。
 目の前の青年には、ちゃんとした人間らしさがある。
 白の軍服を身に着けたその青年は、その両手に、大型の拳銃を持っていた。
 夜闇の中にあってなお黒い、内に銀の弾丸が秘められた、退魔の2丁拳銃。
「殺しすぎだ。血で自慢の鼻がヤラれたんだろう」
 施設の責任者である穏田 実(おんだ みのる)とその妻子を背後に庇い、男は名乗る。
 それが、ミス。
 いや、ソレの前では、全てがミス。
「“守人”メンバー、っ!?」
 何か喋っていたみたいだが、ソレには興味のない事だ、さっさとバラしてしまった。
「ひっ!? どうか!? 家族だけはっ!」
 以下、前文。
「ハッハー!! ヒィィハァァァッ!!」
 一度、高らかに哂って、忽然と、ソレは姿を消した。
 跡に、一切の生を残さずに。
 夜空の月は、そう、この惨劇に怒り、その顔を赤くしていたのかもしれない。
 

 時は、20XX年。
 数十年前から国家的な問題として取り上げられながらも、具体的な解決が一切なされないままに先延ばしにされ続けていた『高齢者問題』。
 そのツケは、とうとう廻ってきた。
 国民の高齢者人口の割合は、遂に国体の維持の限界近くにまで達し、今尚、増加の一途を辿っている。事態を重く見た日本政府は、国家存亡の危機であるとして、非公式人口調整部隊、通称“非人”(ひにん)を組織、その任に当たらせている。国家ぐるみで隠蔽されている為、その詳細は不明だが、彼等、“非人”メンバーは、国民には到底容認しえない程の絶大な権限を国から与えられ、社会の影で、人を屠り続けているという。
 そんな非道が横行する日本。
 とある県の、とある住宅街。
 早朝の人気のない道を歩く、場違いな三人がいた。
「・・・世も末ね」
 道行く人影は男性一人、女性が二人。
 男性の左側、彼の腕を半ば強引に自らのものと組んでいる女性が、その男性に言った。
「・・・お前がそれを言うと、洒落で済まないんだぞ? そこんトコ、ちゃあんと解ってるのか? リリス?」
 呆れ顔で答えた男性。
 年齢の判別しにくい、甘い顔立ちをした長身痩躯。その肌はやや浅黒い。問題なのはその服装だ。黒スーツに白シャツ、ここまではいいだろうが、黒ネクタイというのはいただけない。
 不吉な装いには、死の影がちらつくものだ。
 もっとも、両隣の女性達も同じ服装なものだから、本人、全く気にした風はない。
「アダム! それって責任転嫁!」
 リリスと呼ばれた女性は、とにかく美しい。いや、美し過ぎる。とてもではないが、ヒトには見えない程だ。
 まぁ実際、ヒトではないのだが。
 腰まで届く波打つ金髪。理想のスタイル。透けるような白い肌。いかにも気の強そうなその瞳は、しかしどこまでも青く澄んでいて、相手の言葉を奪うには十分だ。
 いや、ホントにもう、出来過ぎだって。
「・・・姉さん、光さんが困っていますよ。それから、ここでは光さんは光さんなのですから、光様と呼んで下さい。勿論、私の事はイヴ様と」
 冗談なのか本気なのか、自らをイヴ様と呼んだ女性、こちらもまた美しい。どれ程かといえば、リリスとタメをはれる程です、ハイ。 
 リリスを西洋的な美の化身とするならば、こちらは東洋のそれだ。
 真っ直ぐな長い黒髪。リリスに匹敵するスタイル。暖かそうな肌。母性すら感じる優しげなその瞳は、吸い込まれそうな深い黒。
 ちょっと、やり過ぎ。
 何が、いや、誰がやり過ぎなのかと言えば、自分の好みを、妻の二人に徹底的に反映させたこの男。闇影 光(やみかげ ひかる)と、この世界では、そう名乗っている。
 付き従う二人は、彼がとある場所から呼び出した、簡単に言ってしまえば、召喚獣のような立場にある為、元の名をそのまま用いている。
 この、妖しすぎる三人組。
 彼等の正体は、今更な気もするが、秘密にしておこう。
「・・・半神風情が・・・随分とナマ言うじゃない?」
 必要以上に顔を近づけ、イヴを威圧しようとするリリス。一触即発。
 そそくさと離れる光。
「前妻ごときに威張られたくありませんね。光さんは私の物(誤字にあらず!)なんですから、姉さんこそ、“図書館”に帰られたらいかがです? 未練がましいですよ?」
 対するイヴも、リリスの瞳を真っ直ぐに睨みつける。
 肝心の夫はといえば、道端に座り込み、何処から取り出したのか、地図を広げて唸っている。
どうやら道に迷ったらしい。そして、止める気もないらしい。
「・・・っかしいな? 確か前に来た時は、えぇっと・・・」
 この三人、変な所に拘りがある為、こういうつまらない所での躓きはかなり多い。
 それはともかく!
「はっ! アンタこそ後妻気取りな訳? アンタなんて精々愛人よ、あ・い・じ・んっ! アダムの正妻であるこのアタシとは、比べる事も出来ないわ!」
 肩を竦めて、下目使いで、ヤレヤレとかやっているリリス。芸が細かい。
「正妻正妻ってもう耳タコですよ。私に先に寝取られた事、まだ根に持ってるんですか? かつての事実が、全てを物語っているじゃないですか。姉さんなんてオマケですよ、オ・マ・ケ」
 対するイヴも、自信満々な態度でこれを迎え撃つ。
 どうでもいいバカは、まだ唸っている。
「ここが、あそこで、あそこが、ここ。アレ、北ってどっちだっけ? そもそも現在地は?」
 一度終われ、そして二度と蘇るな。
「・・・殺す」
「珍しく意見が合いますね」
 各々、虚空より取り出したるは自らの力の象徴、即ち、武器だ。
 リリスの手には巨大な鎌が、イヴの手には双剣が、後はただ、ぶつかるのみ。と、そこで、
「解ったぁああ!! つまり、これが、ああなんだっ!!」
 突然立ち上がったバカが二人目掛けて猛突進。不意を突かれた二人は、とんでもないラリアートをその首に貰う事になった。
「がふっ!」
「くふっ!」
「解った! 解ったんだよ! そもそも県が違ってた! 隣だよ! 隣! ・・・アレ? どうしたんだ? 二人とも?」
 昏倒した二人をその両腕に抱えながら、首を傾げ困惑する超級バカ。結果的には争いを収めてしまった訳だが、当然意図したものではない。いつだって、彼等はこんな調子だ。バカの一言で説明がつく光。正反対なようで、実は何処までもソックリな姉妹。
 ともあれ、この三人が目的地へと辿り着くには、まだまだ時間が掛かりそうである。


 大神 大地(おおがみ だいち)は、春も盛りな高校二年生。正気かって名前だが、正真正銘女の子である。祖父にして名付け親でもある雷蔵(らいぞう)に問い正すと、
「それしか考えつかんかった!」
 とか平然と言ってくれちゃって、その後本人の前で爆笑してもくれちゃったから、その鼻面に正拳くれてやったのは、そう、あれは小学校五年生の夏だったか。紹介を続けよう。背は高め、スタイルは並(本人かなりサバ読んでます)、クセのない黒髪は、短く整えてある。これで中性的な顔立ちをしているものだから、未だに男性と間違われる事は日常茶飯事だ。そんな彼女だから、十七年の人生、色気、全く無し。もっとも、異性が寄ってこないのは、自らの眼に大きな原因があると、なんとも救いようのないことに、その本人が一番解っている。
 とにかく、絶望的なまでに目付きが悪いのだ。
 泣き喚く子供を慰めようとしてひきつらせたり、捨て猫を拾おうとして全速力で逃げられた事も、何度も、何度も、ある。女子の例に漏れずして、可愛いものが大好きな彼女は、大いに傷ついている。そんな憐れな大地だが、彼女の瞳を、真っ向から受け止められるツワモノならば、皆気付くだろう。
 大地は、とてつもなく美しいのだ。 
 鋭過ぎる眼差しが示す通り、彼女には磨き上げられた日本刀のような、有無を言わせぬカッコ良さがある。余談だが、大地は2月14日はモテモテだ。
 そんな彼女と、祖父雷蔵が暮らす、S県S市にある大神家。
 日曜日の午前4時。
 まだ陽も昇らぬ早朝に、ムクリと起き上がる人影が、ベッドに一つ。大地だ。
「・・・」
 無言で頭を掻き分けながら、ウトウトとまどろんでいる彼女は、残念ながらジャージ姿。
 残念。
「・・・良しっ!」
 良く通る声で気合一声。ベッドを降り、部屋を出た。
 大神家は平凡な二階立て、と言っては少し謙遜だ。確かに二階立てだが、家自体は二人暮しには広過ぎる程で、庭も池がある程には広い。祖父雷蔵は昔何をやっていたかは知らないが、随分と裕福らしい。大地の部屋は二階の一番奥にある。そこから、左右をいくつかの部屋に挟まれながら、真っ直ぐな廊下が伸びていて、階段と繋がっている。一階も、二階と似たような間取りだ。一番奥が雷蔵の寝室、というかこの家、大地の部屋とキッチン、お風呂場、トイレ、リビング、ダイニングを除いて、その全てが雷蔵の趣味の部屋である。七十過ぎても現役のエロジジイである祖父の道楽になど興味もないので、大地は滅多に足を踏み入れたりはしないが。
 
 それでも、覚えている。
 
 それらの多くは、幼い大地をあやす為、祖父が作ってくれた遊び場であり、どうもあの老人にとっては、彼女の笑顔こそが、何よりも大切らしいという事も。
 まったく、思い出は無敵というやつだ。
 これではいつまでたっても、嫌いになど、なれそうもない。
 一階に降りると聞こえてくる、というか家中に響いている、祖父の大イビキに苦笑しながら、家を出た。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
 規則正しく息を継ぎながら、走る、走る。朝のランニングは大地の日課だ。
 しかし、彼女は知らない。
 川辺のコースを走る彼女の姿が、生きた都市伝説と化していることを。
 それは、こんな伝説だ。
 毎朝、川辺を走る、透明人間がいるという。
 遭遇者の談によれば、息継ぎや足音、目の前で不規則に踏み鳴らされる地面といった、いくつかの痕跡はともかく、その姿を視る事が出来ない、ゴーストランナーがいるとかいないとか。
 もっとも、これは目付きの悪い大地を、多くのランナーが無意識に視ないようにしているとか、そんな救いようのない話ではない。単に彼女が速過ぎるだけ、それだけだ。  
 そう、常人には捉えられない程に、彼女は速い。いや、その手の連中ですら、彼女の速度についてこられるのは極僅かだろう。肝心な紹介が遅れて済まないが、彼女、大神 大地は、常軌を逸した身体能力の持ち主である。無論、無自覚ではない。彼女は、ちゃんと自らの特異性を理解している。毎朝のランニングは、その確認の為に行っている事だ。人気の無い時間帯を狙って、眼にも留まらぬ速さで、自らの能力を、確かめている。
 ポツポツと、目撃者ならぬ遭遇者を出してしまっているのはご愛嬌。彼女自身がバレていないと思っている為、その辺りの気配りは致命的にお粗末だ。顔はおろか、姿の確認すらもままならないのが、唯一の救いである。
「・・・ふぅ」
 一通り動いて満足したのか、目的地の土手に寝そべって、明けてきた空を眺める大地。
 早起きは三文の徳だという。
 三文程度の徳ならば、自分は早起きなどしない、という人も多いだろうが、大地は違う。
 何度見ても飽きる事のない、この澄んだ早朝の景色が、彼女の日課を、不動のものとしているのだ。
 日の光を弾き始めた川、色付く緑は、その鮮やかな色彩を誇示し始める。
 素肌に触れる空気は、ヒンヤリとしていて心地が良い。
 空は、今日も綺麗だ。
「・・・ははっ!」
 意味も無く、笑ってしまう。
 確かに、こんなもの何処にだって有り触れているだろう。
 値打ちなんて三文もない。
 けれど、大地は、この瞬間が一番好きだ。 
 さあ、今日も、一日が始まる。
 この日、大地は、光と出逢う。


『昨夜、S県K市にある特別養護老人施設が何者かに襲われ、施設の従業員、収容者、総勢260名の全員が殺害されるという痛ましい事件が起きました』
「・・・最近、多いな」
 朝食時、いつもつけっぱなしにしてあるテレビから流れるのは、大地の言う通り、最近日増しになっている“非人”関連のニュースだろう。これだけ国民にその存在が知られているにもかかわらず、日本政府はいつも我関せずの一点張りだ。その癖、現内閣の支持率は7割を越えているというのだから、疑うなと言う方が無理な話である。
『警視庁は監視カメラに残された映像から、犯人は“非人”の一人である可能性が高いとして、捜査を継続するとの事です』
「・・・ふんっ!」
 いつも通りの決まり文句だ。“非人”メンバーが逮捕されたなんていう話は、彼女も生まれて此の方ただの一度だって聞いた事は無い。つまりは、そういうことだ。
 致命的な何かが狂っているのだと思う。
 20XX年。日本のような非武装国家は、高齢化社会といった内側の問題に頭を抱えている為、外交の類はほとんどなく、ほぼ鎖国状態。他の国々は、とうとう始めてしまった、戦争という名の最終行為を。おかげさまで、世界人口は激減だ。第三次大戦事体は、その実、一年も続かなかった。勝利者無き戦争は自然消滅。参戦国家の全てが国ごと滅ぶという大惨事だ。
 いよいよ終わりだ。
 ヒトの世も。
 生き残った国々の末路も、もう見えているのだろう。
 その点、世界のなんと丈夫な事だろう。とてつもないとばっちりを受けた世界は、それでも、徐々に回復に向っているという。それも当然か、害虫達は自滅した。大地が生まれる、十年も前に大戦は終わっている。時折起る、洒落にならない天災と、頻発する異常気象、そして“非人”のような人災を除けば、ここは大戦前の日本と何も変わらない。

 
 嘘っぱちの平和の中で、今日も人々は生きている。 

「御免下さ〜い」
 なんとも気の抜ける、間延びした声。
 誰だろうか? こんな時間に来客とは珍しい。
 回覧版、は昨日回したばかりだ。牛乳や新聞の配達にしては遅すぎるし、そもそも彼等は、こうして呼び出したりはしないだろう。大体、牛乳も新聞も、大神家ではとっていないのだし。
「そだ、チャイム、壊れたままなんだっけ」
 いつだったか、大地が加減を間違えて以来それっきりだ。修理した所でまた壊すだろうと、雷蔵に諭されたのもある。慌てて玄関に向かい、確認もせずに、扉を開けた。無用心だと思われるかもしれないが、この時代、日本の治安はビックリするほど維持されているのだから仕方がない。“非人”なんてものは例外中の例外だ。そもそも連中はその目的上、働けなくなった高齢者ばかりを狙うのだから。
「どうもどうも、あの、俺たち」
 直ぐに閉めた。
「あのっ!? ちょっとちょっと!?」 
 加減を忘れたせいか物凄い勢いでドアが閉まったがそんなことはどうでもいい。
・・・“非人”!?    
 見慣れない三人組だった。男が一人に女が二人。問題なのはその服装。黒スーツ白シャツ黒ネクタイ。報道などでほぼ全国民に知れ渡っている“非人”の装いと、ピタリと一致していた。
 そりゃもう、余す事なく。
三人! 三人もいた!?
「いきなりそりゃないでしょう? 困りますよ! こっちも!」
 大地の内心を綺麗にトレースするその台詞は、外の妖しすぎる男のものだ。
「お願いですから! 話だけでも! ねぇ、ちょっと!?」
 心臓の鼓動をこれ程感じたのは久しぶりだ。“非人”だなんて、そんなもの、彼女からすれば遠き日の大戦と同じ、酷い言い方をすれば他人事だったのに。それが今、僅か一枚の扉を隔てた向こうにいる。それも、三人。
雷じいか!? 雷じいが狙いなのか!? けどあのエロジジイ無職だけど、バリバリ元気だってのに! それでもか!?
 間違いなく人生最大の危機的状況。
 いつまでたっても結論が出ない思考。ようするに、パニック状態だ。
(だあ! もう! アタシにどうしろっていうのよっ!)

「あのっ!? 聞いてます? 大神さん? ですよね? アレ? 間違えた?」
 外で必死に呼びかけながら、急に不安げに後ろの二人に確認したのは、勿論光だ。途端、その頭を引っ叩かれる。二人から、同時に。頭を抱え、悶絶する。
「当ったり前でしょ! あれだけ散々苦労して、これでまだもし間違っているような事があれば・・・コノッ! コノッ!!」
 怒りのオーラをその身に纏い、追い討ちを続けるのはリリスだ。どうやら、あれからもかなりの苦難が続いたらしい。毎日が大冒険になってしまっているのは、間違いなく、彼のせいなのだろう。
「これでは、どうしようもありません・・・開けますか?」
 困り顔で提案するイヴの右拳からは煙が上がっている。幻覚だと思いたい。
「ん〜」
 亀のように身を縮めながら、思案する光。と、
「・・・何やってるの?」
 何時の間にやら、外に出て来た大地はそんな三人の様子を見、唖然としていた。

「いや〜失礼。どうも始めまして、俺、闇影 光っていいます」
「リリスよ」
「イヴといいます」
「・・・はあ?」
 ほとんどヤケになって、三人を玄関へと通した大地は、未だ混乱していた。
 まるで分からない。
 何が分からないって、それすらも分からないのだから、本当に何も分からない。
「それで、家に何かようですか?」
「いや、俺達、見ての通りの者なんですけれども・・・」
 途端だった。
 一瞬で突き出された大地の拳は、光の顔面ミリ手前で急停止。拳風が、彼の髪を泳がせた。
「・・・へっ?」
「雷じいは、殺させない」
 一段と鋭い眼差しは、光を真っ直ぐに捉えている。
 そこに彼は、彼女の覚悟を見て取って、慌てた。
「違う! 違うって! 俺達は確かに“非人”だけど、何も君のお爺さんを殺したりなんてしないよ! 約束する! むしろ逆なんだってば!」
「・・・」
 油断無く、こちらを窺う大地。
 こういういざって時の覚悟の速さは変わらないなと、彼は内心で苦笑した。
 大地の、その突然の豹変に全く驚く事無く、後ろの二人が続けた。
「アタシ達はね、アンタ達を守りに来たのよ」
「あなた方二人には、いえ、特にあなたには、死んで貰っては困るのです」
「・・・どういう事?」
 未だ戦闘体勢を解かない大地。彼女は気付いていない。
 その瞳が、金色に変わっている事を、
 その肌が、褐色に変わっている事を、
 そして、その髪が長く伸び、真紅に変わっている事も、
 大神 大地もまた、ヒトではないのだという事を。
凄い力、流石ってとこかしら?
ふふっ! 血が騒ぎます!
 リリスもイヴも、軽い高揚感すらあるらしい。この場、集った女達は、どうにも血の気が多過ぎる。苦笑して、光は場を納める事にした。後ろの二人を、手で制しながら、言う。
「雷じいに伝えてくれ、光が来たってね。それで、全部分かる」




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