ゆい城 美雲さん

お目にかかれて光栄です。 まだまだ未熟者ですがよろしくお願いします。 太宰治の富嶽百景が好きです。 コメントや評価、とても嬉しいです!お返事が遅くなることがありますが、ご了承ください。

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寒椿

14/12/08 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:2件 ゆい城 美雲 閲覧数:1690

時空モノガタリからの選評

冬に一枚ずつ散りゆく寒椿のような「緩やかな自殺」への気配に満ちた作品でした。視点が独特でありながら心理描写に説得力があり、独りよがりでないストーリーに引き込まれました。
「人に褒めてもらえなければ努力を努力と呼んではいけない」という「偉い人」の言葉は、なかなかキツいものがありますね。作中ではこの一文は、「私」の自己評価の低さの理由として効果的に機能していると思います。でもこれに従って生きたなら「私」の見る景色が「灰色」に覆われてしまうのは当然でしょうね。
また「火燵に入りながらテレビで見る冬が好き」という表現が、「冬」へ引き寄せられながらながら、そこへ飛び込むほどの積極性もないというような、微妙な心理的距離感がうまく表現されていてとてもいいなと思います。こんな絶望の仕方もあるのかと、教えられました。

時空モノガタリK

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なんでも器用に出来る方ではなかったので、色々苦労はしてきた。
図工の時間も、人の何倍も時間をかけなければ、標準的なものが作れない子供だった。
中学の頃、体育の、バレーの授業。あれは最悪だった。周りの子たちは、初心者で有れども二・三時間授業を受けたら、オーバーハンドパスも、アンダーハンドパスもできるようになっていて、ボールを落とさず繋げられるのだ。しかし私ときたら何時間練習しても、一向にボールが親指と親指を握り込んだ場所に当たってくれなかった。ぽんぽんとパスを続ける子たちを横目で見て、羨ましいなぁと思った。それからしばらくして試合形式の授業となったときは、勿論私にボールなんか飛んではこないし、飛んできても私が変な方向にパスを出していた。チームメイトの落胆とため息と無言の視線が怖かった。一月か二月だった気がする。寒くて凍えてしまいそうな、閑散とした体育館でドアマットになったと思うくらい惨めったらしくて、目の前に薄い膜が張りそうになった。「本当にどんくさくて、いらつく」と、チームのキャプテンをしていた子が小さな声で言っていたのが記憶に焼き付いている。
どんくさいやとろくさいは聞きなれた言葉だったから、今更何も思うまいと高をくくっていたが、その子に言われて予想以上に胸が痛くなったのにはびっくりした。しかし、本当のことだから仕方ない。人に褒めてもらえなければ努力を努力と呼んではいけないと偉い人の本にも書いてあった。私なりにがんばりました、は甘えというのだそうだ。
この校舎の屋上の寒さは、その時の体育館の寒さを彷彿とさせるものがあった。強い北風で、落下防止のためのフェンスが震えてガタガタと音を立てている。フェンスに指をかけてみても、無論冷たい。指先から次第に体の芯のほうにむけて凍ってしまうような寒さだ。冬は好きだけれど、寒いのは好きじゃない。きっと、炬燵に入りながらテレビで見る冬が好きなんだと思う。
「そこ、寒くない?」
屋上の入り口の扉の方角から、男の声が聞こえた。関係ないので答えないし、振り向かない。というのは建前で、実のところはあんたの喋り方がむかつくと言われてから、あまり言葉を発しないように気を付けて生きてきたから。いくら見ず知らずの人でも不快にさせてしまうのは申し訳ない。喉の奥がキュウと音を立てたのがわかった。
「一服していい?」
ここは私が所有しているものではないので、返事はできない。最も、その人は最初から返事など期待もしていなかったようで、わざわざ私の隣にきてから煙草の先に赤を灯した。学校のネクタイを締めていたので、きっとここの生徒なのだろうと思う。確証はないけれど。
「君、ここから飛び降りたりする?」
その男は、独り言に近いような声で言った。
階下では、寒椿が強風に耐えながら色鮮やかに咲いている。枯れた草や木が立ち並ぶ灰色の風景の中でそこだけ絵の具で鮮やかに色をつけたようだと思った。冬の中でも咲く花は、生命の力強さを感じさせてくれるとともに、私の不甲斐なさをさらに引き立たせるようだ。
「わからない。ただ、飛び降りない理由もない」
義務感からなのか、少ししてから、喉が最後の力を振り絞って出したような声で私は答えた。風が強かったので男が聞き取れたかは、わからない。それでも彼は頷いて、有毒な煙を進んで取り入れていた。緩やかな自殺なんだわ、と思った。ぼんやりとした不安が視界を塞いだ気がした。
「そうだね。それに、理由がなくては生きてはいけないなんてことはない」
男は煙を吐き出しながら言った。煙は少しとどまった後に、風に押されて透明になった。そんな冬の風景を心ここにあらずといった具合で見ていると、にわかに授業開始を知らせるチャイムが鳴ったので、男はよいしょと言ってから立ち上がった。
不思議なことがあるものだ、ものの五分ほどしか一緒にいなかったはずなのに、旧友のような雰囲気がこの場を支配している。「じゃあ」と、男は右手を軽く挙げて私に背中を向けた。ちらと覗いたその手首には、フリーハンドで引かれた赤い落書きのような線が幾つかあった。
寒椿の花は春に咲く椿のようにそのまま首を切られ、ボトリと落ちるのではなくて、一枚ずつ散っていくという。風に揺らぐそれらに変な近親間を覚えながら、雲の間をかき分けてようやく出てきた太陽の光を浴びた。けれど、冬の優しくぼんやりした太陽では一向に寒かったから、私も彼を追うように、早々に屋上の扉に手をかけた。ふと後ろを振り返ると、寒椿の花びらが風に舞っている。あの子たちは、あたたかくなって、他の花が一面に開く頃になったら枯れてしまう。

冬が、好きだ。とくに、一番寒くて、寒椿と煙草の匂いのする冬は。


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このストーリーに関するコメント

14/12/13 クナリ

主人公に感情移入して読みました。
自己評価が極端に低いと、他人のことも軽んじて考えたり、場合によっては社会性を失ってしまうこともあるといいますが、自分もそれに近いと思われます。そのせいもあるのでしょう。
声を出さない理由といいいちいちネガティブで卑屈すぎ、そのせいでさらに周囲から疎まれることになってしまうものですが、そこからの再生や成長は、個人的にもっとも心惹かれるものです。
この主人公には、そうなるための感性が備わっていることが、屋上のシーンから感じられて、印象の強いキャラクタでした。
冷たく、厳しくも、タバコの煙混じりでもどこか心地いい冬の屋上の風が、伝わってくるようです。

14/12/19 ゆい城 美雲

クナリ様
コメントありがとうございます!お返事が遅れて申し訳ありません。
細部まで見てくださり本当にうれしい限りです。ありがとうございました。

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