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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

性別 男性
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去り行くサルと捨てられた柿

14/12/08 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:3件 霜月秋介 閲覧数:1449

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  ふと道を歩いていると、民家の庭の柿の木に、子猿が何匹も登っているのが目についた。実った柿を美味しそうに頬張っていた。

  普段は滅多に観ることがない珍しい光景。私は慌ててポケットからスマートフォンを取りだし、内蔵カメラを起動させた。

  しかしシャッターボタンを押す前に、猿達は私の気配を察知したのか、のしのしと木から降りて逃げ去ってしまった。猿が落としていった食いかけの柿を見つめながら、私はため息をついた。

  それにしても便利な世の中だ。今ではこうやって誰でも簡単に写真を撮れる。スマートフォンに内蔵されているカメラの画質は、新機種が出る度に鮮明になっている。スマートフォンを手にするまで使っていたデジタルカメラは、既にリサイクルショップに売ってしまった。

  音楽プレイヤーも同様だ。スマートフォンで聴く方が音質がいい。必要ないからカメラと一緒に売ってしまった。

  小説も今では電子書籍化され、スマートフォンで読める。わざわざ本屋まで出向く必要もない。

  目覚まし時計も使わなくなった。いつだったか、明け方に電池が切れて針が止まり、その針に騙されて寝坊した。それ以来はスマートフォンのアラームに頼っている。

  手帳も持ち歩かなくなったし、辞書を引くこともなくなった。どちらもスマートフォンで用が足りる。

  本当、スマートフォンの万能ぶりには感服する。これからも、便利な機能がどんどん導入されていくことだろう。時代の進化。それは素晴らしいことだ。

  しかし、新しいものが出てくる一方、古いモノは捨て去られてしまう。カメラも音楽プレイヤーも目覚まし時計も、必要とされなくなったモノ達の行く先はゴミ棄て場だ。

  街から徐々に消え去っていった公衆電話は、いつのまにか携帯電話の充電器へと姿を変えた。

  やがて忘れ去られていくのだろう。失われていく。なにもかも。

  店を何軒もハシゴして、目的の品をようやく手にしたときに味わった達成感。本のページをめくるときの音、肌触り。駅前の電話ボックスの中で、財布の中の十円玉を必死に探すこともなければ、友人に手紙を書こうと便箋を買うことも今では滅多に無い。

  時代が変われば、人も変わっていくものなのだろう。不便なら不便なりに努力していた人が、便利な今では怠け者。そういう人が増える。便利な世の中がもたらした副産物だ。

「年賀状なんて書いてんの?律儀だね。メールでいいんじゃあないの?」

「毎年、これ書かないと年末って気がしないんだ。締まらないんだよ」

  年賀状を書く人が少なくなる中、毎年必ず年賀状を書く人。昔からの習慣を重んじる人。こんな世の中でも、まだまだそういう人は残っている。

  いずれは失われるかもしれない文化、忘れ去られるかもしれない技術、捨てられるかもしれないモノ。

  その日が来るまでそれを大事にする姿勢にはとても尊敬する。しかしその姿勢さえも、いずれは失われていくのかもしれない。

  とにかく今は、目の前にあるものをかけがえのないものと認識し、大事にしたい。失ってしまうまで。


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このストーリーに関するコメント

14/12/10 そらの珊瑚

霜月 秋介さん、初めまして。拝読しました。

便利さを追求してより快適な生活を手にいれたいと思うのは、ある意味人の欲求の本質かもしれないって思います。
その一方で、あえて便利でないもの、忘れ去られそうなもの価値を見出すのもよくわかります。
とりあえず紙の本やレコードプレイヤーなんかはなくなってほしくないもののひとつです。

14/12/11 草愛やし美

霜月秋介さん、初めまして、拝読しました。

文化の変化はめまぐるしいものがあります。一昔が十年だったものが、今では一年かもしれません。家電も毎年モデルチェンジしていますし、PCにいたっては季節バージョンでチェンジですから、こちらもそれを追いかけると切りがないです。でも、追わないと置いてけぼりの柿なってしまいそうで、必死にならざるを得ないのかもしれませんね。去る者は追わずですが、サルは素早いので、目を離せません。油断すると手に持った食べ物など盗られてしまいます。汗
近年、何軒の本屋が潰れたことでしょう、寂しいですが、波に乗れないと今度は自分の番に回ってきてしまいます。人間は、文化を進めることによって、自分で自分の首を絞めているのかもしれませんね。その反面、アナログなものも結構流行っていたりしているのは、反動でしょうが、ほっとする一面ですね。

15/01/01 光石七

拝読しました。
新しい便利なものがどんどん出てくる反面、失っていくものもある。
私自身はまだスマホに変えてませんが、携帯電話自体が普及してまだ二十年ほどのような…… 公衆電話、少なくなりました。
無くなってほしくないものもありますが、時代という大きな流れの前にはどうなるかわかりませんね。
目の前にあるものを大切に、本当にそう思います。

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