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坂井Kさん

今年(2014年)は思い付きと勢いだけで書いてきましたが、来年(2015年)は、状況設定をもう少し固めてから書こうかな、と思っています。スティーヴン・キングによると、「状況設定をシッカリとすれば、プロットは無用の長物」らしいですから。

性別 男性
将来の夢 夢というより目標として、来年(2015年)こそ長編小説を書き上げたい。
座右の銘 明日はきっと、いい日になる。

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夕日と月のある風景

14/12/04 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:4件 坂井K 閲覧数:1120

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 私は夕日と月が好き。特に一緒に出てるとき。

 このマンションに越して来た日は、夕日と月が同時に出てて、とても印象に残ってる。「お姉ちゃん! 夕日と月が一緒に出てる!」右側にいた妹が、目を丸くして指差した。「菜の花や月は東に日は西に、か」「何それ?」「昔、蕪村さん、っていう有名な俳人が作ったんだよ」

「俳人?」「俳句を作る人のこと」「俳句?」「五・七・五で作る詩のこと」「詩?」ハアッ……。私は溜め息を吐いた。これじゃ、際限がない。「夕ちゃんはさ、夕日をキレイだ、って思うんでしょ?」「うん」「だったらさ、難しい言葉なんて、知らなくっていいよ。キレイだな、って気持ちがあれば」

 夕子という名前だからか、妹は夕焼け空が大好きだ。キレイな夕日を見かけたら、必ずジッと立ち止まる。私も夕日は好きだけど、どちらかと言えば月が好き。名前が月子だからだろうか。だけど一番好きなのは、夕日と月のある風景。特に夕日と三日月が、同じ方角に出てるとき。

 私と夕子は四つの差。あの当時、一年生と五年生。夕日を見ている夕子のほっぺ、夕日に照らされキラキラ光る。夕子のほっぺはぷくぷくしてて、私は思わず指で押す。「毎日毎日やめてよね!」怒った顔もかわいらしい。「ごめんごめん」私は笑って謝罪する。と、彼女は私の頬を摘まんで、横方向に引っ張った。

「何すんの!」私も彼女の頬を摘まんで、横方向にぐいと引っ張る。二人とも、もう片方の手も使い、両方の手で引っ張り合う。最初は本気じゃなかったけれど、夕子が本気を出して来るから、私もついついムキになる。私と夕子は四つの差。子ども時代は大きな差。夕子はついに泣き出した。

「何してんのよ! 月子ちゃん!」母が泣き声を聞きつけて、二人のもとへやって来る。「お姉ちゃんがね、ウウッ……ほっぺたをね、ウウッ……」「謝りなさい! 月子ちゃん!」「だけどさあ、先にやったの夕ちゃんだよ」「月子ちゃん、あなたはお姉ちゃんなんだから、本気でやったら駄目じゃない!」

「ごめん夕ちゃん」私は渋々頭を下げた。――このマンションに越して来てすぐ、ある春の日の思い出だ。

 私は夕子が大好きで、とってもかわいらしいから、ついちょっかいを出してしまう。それを夕子は本気で嫌がり、いつもケンカになっていた。母に似た顔の私と父に似た顔の妹。不思議なもので、性格上は全く反対。私は父に似てのんびり屋、妹は母に似て几帳面。

 それでも二人は気が合った。いつも二人で遊んでた。私が中学生になるまでは……。中学生になった私は、夕子をあまり構わなくなった。妹はまだ小三で、まだまだ甘えてきてたけど、私は友人との会話を優先。しっしっと、手で追い払ったりしてた。

 そのうちに会話も減って行ったけど、夕焼け空がキレイなとき、家に二人がいたときは、気付いた方が声を掛け、ベランダに出て眺めてた。妹は、いつも私の右に立つ。「夕日って、とってもキレイなんだけど、何だか少し寂しそうだね」あるとき私がそう言うと、妹は大きく横に首振った。

「そんなことない。だって、みんなに見られてるもん」私は夕子の顔を見る。「夕ちゃんだって、みんなが見てるよ」夕子は無言で泣き出した。「ゴメンね。最近、構ってあげられなくて」夕子は首を横に振る。「ううん、お姉ちゃんのことじゃない」「だったら、学校? お友達?」夕子は無言で頷いた。

「無視、されてるの?」「……うん」「理由は分かってるの?」「分からない」「そっか……、辛いよね。私から、先生に言ってあげようか?」「ううん、いい。お母さんに、心配かけたくない。自分で何とかする」私の目にも涙が溜まり、夕子をぎゅっと抱きしめた。

「そっか……、偉いね。でもさ、辛くなったら私に言ってよ」「うん」「いつでも、ぎゅっ、てしてあげるから」「うん」「お姉ちゃんはね、何があっても、夕ちゃんの味方だからね」思わず腕に力が入る。「お姉ちゃん、痛いよ……ちょっとだけ」「ごめん」私は、腕を離して照れ笑いする。夕子も小さな笑顔を見せる。

 夕日は沈み、空には三日月。――このマンションに越して来て、三回目になる秋の夕方。

 あの秋の日から15年、妹が今日、このマンションから去って行く。午前中に出て行く予定だったけど、私が午後まで引き留めた。夕焼け空を見るために。「ごめんね。先に家を出ちゃって」ベランダに出た夕子が言う。「謝るようなことじゃないって。お目出たいことなんだから」いつものように、私は左にそっと立つ。

 明日から、ここで夕日を見るときは、決して右側を見ないでおこう。一緒に夕日を見てくれる人が、出て来てくれるその日まで。

 オレンジ色に輝く雲と、うっすらとした白い月。夕日と月のある風景。夕子と月子のいる風景。――このマンションに越して来てから、18年目の夏のこと。


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このストーリーに関するコメント

14/12/07 鹿児川 晴太朗

染み入りました。
「喪失」という言葉は負のイメージが強いですが、
悲しいながらに綺麗で前向きな「喪失」と出会えた気がします。

14/12/08 坂井K

>>鹿児川 晴太朗さん、コメントありがとうございます。

お姉ちゃんは悲しくはないと思いますよ。ただ、ちょっとした寂しい思いはしばらく続くかも知れませんね。

14/12/23 そらの珊瑚

坂井Kさん、拝読しました。

姉妹が姉妹として過ごした同じ時間というものは、
長い人生の中でほんの僅かな時間かもしれませんが、
幸せな時間であったのだと思いました。
大人になるといくことは、そうした時間を失うことではありますが
きっと互いの胸の中に、思い出としていつまでも有り続けるのでしょうね。

14/12/24 坂井K

>>そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

思い出は大切なものですけど、それに捕らわれ過ぎると前に進めなくなることもありますから、こころの真ん中に置かずに、片隅に置いて前に進んで行って欲しいですね。

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