1. トップページ
  2. 忘れちまった喜び

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

1

忘れちまった喜び

14/12/03 コンテスト(テーマ):第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1477

この作品を評価する

 人付き合いのわるい桃子おばさんでさえ、惑星ユージンにはお友達がいるのだそうだ。
 もちろんトミオにも、カロという名の自分と同い年の友達があちらにいた。ユージンと地球をつなぐ通信によって、毎日のように、両者に共通する言語で楽しいやりとりをしている。
「ぼくさ、きょう、ママに叱られちゃった」
 タブレット画面の中から、カロの物柔らかな表情がこちらをみた。
「なにかいたずらでもしたの」
「サラダに入っていたブロッコリーをこっそりゴミ箱にすてたんだ」
 ブロッコリーの意味を検索したのか、すこしの間をあけてカロが、
「おいしそうな野菜じゃない」
「だって僕、嫌いだもの。カロだって、嫌いな物あるだろ」
「私たちの星は小さくて、耕作面積が限られてるから、作ったものは残さないの」
「そうなんだ。僕なんか、すめないね」
「ほかにも嫌いなものあるの」
「うん、いっぱい」 
「物が豊富なのね」
 ユージンは地球の千分の一もない規模の惑星だった。百年以上も前に発見されて、そこの住人と通信での交流がはじまった。相手方の科学力もある程度のレベルに達していたおかげで、地球との通信が容易に可能になった。
 ユージン惑星が徐々に地球に接近していることがわかったときでも当時はまだ、その距離はそれこそ天文学的数字におよんでいてだれも、後に直面する危機を予測するものなどいなかった。
 ユージンがこのまま宇宙空間を突き進んでくれば、地球に衝突することが確実なことが判明したのはついこの間の話だった。うすうす、その懸念が天文学者たちの間でささやかれだしたのは何年も前からだったが、狙ったつもりのストレートパンチが顔寸前ではずされる確率よりも、宇宙をやってくる小惑星が地球にあたる割合のほうがはるかに僅少だとの見解をとなえるものも少なくなかった。
 だがその楽観的な観測が、もはや通用しない距離にまで、両惑星は接近してしまった。
 ユージンの人々に知らせるべきか。知性の面では秀でているかれらもこと、天文科学だけはなぜか発展をとげなかったユージン惑星なので、おそらくこの事実にはまだ気づいていないはずだった。
 衝突の時期はいまから三年後と予測された。地球の全国民にその事実が告げられた。 
 トミオにそれを最初に教えたのは桃子おばさんだった。ユージン惑星にいるおばさんの通信相手は、すてきなボーイフレンドらしく、いつもは気難し屋でとおっているおばさんが、そのボーイフレンドの話をするときだけは別人のようににこにこしていた。
 しかしタブレットに映し出されたきょうのおばさんは、いまにも泣き出しそうだった。
「悲しいことだけど、私たちには、どうすることもできない」
 トミオはたったいまおばさんから、『衝突』の話をきかされたばかりだった。
「衝突したら、どうなるの」
「衝突したらきっと、地球も滅んじゃうわ」
「大変だ。すぐカロに知らせなきゃ」
「だめよ。ユージンのみんなには教えないことにきまったのよ。今後タブレットには国の検閲がはいって、それに関係した内容はすべて削除されてから送信されることになったわ」
「このまま黙って衝突の日を迎えるのかい」
「トミオ、心しておきき。地球はね、ユージン惑星を、核ミサイルで破壊することにしたの」
「まさか」
「もうきまったことなのよ。地球と、ユージン惑星のどちらを残すかといえば、人口においても、惑星の規模においても、あらゆる意味で、地球ということになったの」
「地球のロケットで、ユージンの人たちを脱出させるんだね」
「それができればいいんだけど、現在の地球のロケットは、破壊するためには利用できても、よその惑星の住民を運ぶようにはできてないのよ」
「いやだ、そんなの」
「私だって、いやよ。せっかく心を通わせる友達ができたと喜んでいたのに、その友達のところに核ミサイルを撃ち込むなんて―――」
 桃子おばさんはそれ以上なにもいえずに涙にむせかえった。
 トミオは、タブレットを操作して、ユージンのカロをよびだした。
「きゅうになんなの。まあ、その顔、トミオ、いったいどうしちゃったの」
「カロ、大変だ、きみの惑星をね、地球が―――」
 画面上に黄色のラインが走り、通信不可の文字がその中にあらわれた。それからもトミオがユージンの破壊に関する話をくりかえすと、画面全体が赤く変わり、通信そのものがシャットアウトされてしまった。
 
 破壊はそれから一年半後の5月27日に実行され、数えきれない核ミサイルによって小惑星は粉砕された。その日以来、ユージンに関するいっさいのことは、だれの記憶にも残っていない。全人類が意識的にまた無意識に、ユージンの記憶を喪失した結果だった。
 トミオもまた、それからはけっしてカロのことをおもいだすことはなかった。桃子おばさんも同様に。




 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン