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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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別れは突然に!

14/11/30 コンテスト(テーマ):第七十回 時空モノガタリ文学賞【 別れ 】 コメント:7件 草愛やし美 閲覧数:1631

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 喧騒が嘘のような静かな家に私は一人残っていた。嫁いだ娘が、儀礼的に、「東京に出てくる?」と聞いてくれた。海外にいる息子は、仕事の都合で無理だろうと、帰国するのをやめさせた。子供たちにとって、私たち夫婦はどう映っていただろう、近所の人はどう見ていたのだろう、つまらないことしか頭に浮かばない。唯一、夫が私を疎ましく思っていたという確信はあった。私はいつの間にか夫が世界中で最も苦手な人になっていた。「じゃ、どうして結婚したの?」友人にそう問われるのがわかっていて、夫の愚痴を口にしていた。何もない淡々とした夫婦生活、本当に縁があったのだろうか。夫に興味がなくなり、浮気をしたかどうかも気にならなくなった。いつからだろう、初めからそうだった気がしているが、忘れただけなのかもしれない。仕事は真面目で家族の面倒は見たことになるだろう。
不満がないはずなのに、私は不満だらけだった。夫は、夕飯中もテレビをじっと見て話さない。子供の学校のことを相談しても、「お前にまかせる」としか言わない。無口な人、初めは男らしいのだと考えたが……。「文句を言わないのだから、いい旦那さんよ。うちなんか口うるさくって、すぐに口喧嘩なっちゃう」そう言って笑う友が羨ましかった。退職後も、夫は、自室に閉じこもったままでご飯やお風呂の時以外、ほとんど顔を合わせず話すことはなかった。
他人と同居している気分の私は、夫が亡くなっても何も変わらないと思っていた。だけど全く違っていた。喧騒の過ぎた家に残された私を何とも言えない寂しさが襲ってきた。空気のようなものがあった。確かに夫の息遣いのような風を感じて生きていたのだ。それがなくなったと感じた。何もない、からっぽの家はがらんとして静けさが身に沁みた。私は魂が抜けたようになり、何もする気にならずついには、御飯も喉を通らなくなった。ひと月が過ぎ、これではいけないと吾身に鞭打って、のろのろと体を起こした。遺品の整理をしなければと、家庭内別居で長らく足を踏み入れることのなかった夫の部屋のノブを回してみた。
入って驚いた。窓際にサボテンの鉢植えが並んでいる。いつの間にこんなに買い集めたのか、全く夫の行動を把握していなかった。サボテンは、まるで夫の生き写しのように誰も寄せ付けない棘があると思えた。苛立ってサボテンの鉢植えを捨ててしまおうと窓辺に近寄った。「綺麗……」と呟いて私は絶句した。中の一番大きな鉢植えに見事な真紅の花が開花していたからだ。花に近づき、窓を開けると五月の風が、幾重にも重なった真紅の花びらが風に操られまるで生きているかのようにサワサワと揺れ、花から声がした。
「おはよう結子。爽やかな朝の風だな」」
 その場に私は立ち竦んだまま動けなくなった。何という驚愕。花が話した、しかも、その声は聞き覚えのある夫の声だ。
「植木がしゃべった! どうなっているの、私、頭がおかしくなった?」
「君は正常だよ、怖がらなくていい、僕は健一だよ」
「あなた……なぜ」
「僕は生前話せなかったことが心残りで戻ってきた。いつもお前の話のスピードに負けてしまい巧く話せない。サボテン相手に練習したんだ。ようやくお前に負けない早口で話せる自信が持てたというのに、僕は急死。いやはや、まいった。早くお前がこの部屋に来てくれないかと、うずうずして待っていたんだ。ようやく、この日になり嬉しくて叫び出してしまいそうだ。どうだい、僕のこの口調、良い調子だろう、朝飯はまだか」
 唖然としたまま私は動けなくなった。毎日、サボテン夫は流暢にすらすらと話してきた。生前のおとなしかった夫とは打って変わり亭主関白になり、命令口調で話す夫にだんだん腹が立ってきた。つい先日までの寂しい気持ちはどこへやら、腹立たしさで腹わたの煮えたぎる思いにかられている私は、ある日、拳を握りしめ、今までずっと我慢してきた言葉を口にした。
「離婚よ、あなたと別れると決めたわ」
 サボテン夫が早口で喚きだした。ああ、何てうるさいの、せっかく静かだったというのに、バタンと後ろ手に扉を閉め、私は廊下へ走り出てわっと泣き伏していた。ひとしきり泣いたら、気持ちが落ち着いてきた。考えたら夢だったのではと気を取り直しもう一度ドアを開けた。ドアの向こうにはサボテンが並んでいる、夢じゃないようだ。だけど、随分静かだ。どうなったのと近づくとあの赤い花が枯れ落ちていた。その横に一枚の紙切れが見える。
『怒鳴れるくらい元気になってよかった、元気な君が好きだからね。今度こそほんとにさようなら 健一』
「何なのよこれ、出てきなさいよ、許さないんだから、あなたー出てきて」
 視界がぼやけ、しまいに涙声になっていた。
「見事よあなた。ごめんね、私、ちっとも良い妻じゃなかった。それなのに心配してくれてありがとう……サボテン大事にするよ」


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このストーリーに関するコメント

14/12/01 泡沫恋歌

草藍 様、拝読しました。

夫の霊魂がサボテンに憑依したのでしょうか。
おしゃべりするサボテンって可愛いよね。私、サボテン好きなんで一鉢欲しいです。

ひとりぼっちで落ち込んでる主人公を心配していかのでしょうか。
これぞ夫婦愛ですね。

14/12/02 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

いなくなってみて、大切な存在だったと初めてわかるって切ないけれど
いてあたりまえに思える身近な人ほど、そうなのかもしれないと思いました。
生きている時に気づければ一番いいのでしょうけど。
サボテン大切にしてあげてください♪

14/12/03 滝沢朱音

草藍さん、こんばんは。読ませていただきました

しんみりとしたストーリーのはずが……ん?サボテン夫?

└|∵|┐┌|∵|┘└|∵|┐┌|∵|┘< 朝飯はまだか

サボテン相手に話し方を練習して、果たせぬまま亡くなって、
ようやく亭主関白になれたダンナさま…せつないけどクスっとしました。
お花の中から手紙が? 見事なお別れ。ダンディだなぁ。
結子さん、サボちゃんと元気に過ごせますように。

14/12/03 夏日 純希

雰囲気がすっすと変わっていく、面白い作品ですね。
なんか前半戦は、草藍さんじゃないのかと思って、
作者の名前途中で見返してしまいましたよ(笑)。

夫婦は絆ですよね、うん。

14/12/07 鮎風 遊

この作品を読ませてもらって、
私もサボテン揃えてみようかな、と思いましたが、やっぱり止めときます。
ポイと捨てられてしまうのがオチです。

奥さんのああだこうだの心の揺れが面白かったです。
だけど最後に奥さんからの思いやり、ダンナさんも本望で、
良かったです。

やっぱり棘棘のサボテン買おうかな。

14/12/11 草愛やし美

>泡沫恋歌さん、お読みくださっていつもコメントありがとうございます。
たぶん、この夫は生前サボテンに話しかけていたのかと思います。相手があまり雄弁すぎると、話下手の人はどうしても、話せなくなります。我が家もそういう傾向ありまして、今回は夫の立場にたって反省も籠めて書いてみました。滝汗 沈黙は金を肝に銘じて今後、過ごさねばと思っています。

>そらの珊瑚さん、いなくなって初めて価値がわかる、ありますよね。こうならないように、私自身が気を付けなければ……相方がサボテンを購入しそうな気がしています。反省 汗 
コメントありがとうございました。創作の意欲に変え頑張りたいです。

>滝沢朱音さん、お立ち寄り嬉しいです。いつも、コメントありがとうございます。読んでいただき感想貰えることは、何よりの励みになります。何とか書き続けていられるのも、読んでいただいている方々の存在が大きいです。
もし、夫婦で過ごしていた人にとって、一人ぽっちになった時は、かなり落ち込むのではないかと考えます。落ち込まず、これくらいのパワー持つコミカルさが必要なのではと思っています。サボテン夫って独特の癒しがありそうでしょ。苦笑

>いえいえ、夏日さん、私じゃ決してないです。大汗 あくまでも想像です、でも、相方がサボテン買わないようにしなくてはと、肝に銘じています。相当ヤバイかも……。
お読みいただきコメント嬉しいです、ありがとうございました。

>志水孝敏さん、お立ち寄りいただきコメント大変嬉しく感謝しています。感想をいただけることは、創作の励みになっています。
いろいろ読み手の方々が想像を膨らませて読んで下さることで、私のような拙作も救われています。捉え方など、教えていただきハッとさせられること多々あります。そういった面でもコメントはほんとありがたいです。

>鮎風游さん、いつもコメントありがとうございます。
サボテンどうされますか? やはり購入決定ですか、我が家の相方もこの話読んで購入するかもです……。最近は、「TV見ている」と言われ、話の腰を折られることしばしばです。いえ、決して文句じゃないんですよ。テレビ見ているのに話し続けている私が悪いのですけど、でもね、でもね……。汗 怒 サボテン買われないように、反省しておきます。ハイハイ(返事は一回ですよね)苦笑


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