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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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レッドリスト

14/11/24 コンテスト(テーマ):第四十五回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1107

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 ブーンという空気が振動する音に気づいて、頭上をみあげたジューロが、いきなり跳びあがって腕をひと振りした。
「つかまえた」
 横からネイミが、彼の指にはさまれた一匹の、透明な羽を動かしてもがいている虫をのぞきこんだ。
「にがしてあげなさい。それ、絶滅危惧種のトンボよ」
「もちろん、逃がしてやるさ」
 その言葉のとおりジューロは、空にむかっててのひらを、ひろげた。
 トンボは、怒り狂うかのように、ぶんぶん羽を鳴らしながら一散にとびあがっていった。
 いまでは、この地域に生息する虫も鳥も獣も、ほとんどが絶滅寸前の生き物ばかりだった。
 それだけに、みるものすべてがかけがえのない愛おしい存在に思えた。
 ネイミなどは、地面の虫をふみつぶすのをおそれて、何度も足元をたしかめながら、こわごわあるくほどだった。
「だけど、いまほど生き物たちが、生き生きとしてみえたこともないわね」
 ネイミのいうとおりだった。
 ジューロもまた、繁みからきこえる鳥たちのさえずりや、頭上をよぎる羽虫の影、流れをはしる魚のきらめく鱗などに目をとめるたびに、生きていることはなんてすばらしいんだと、感嘆しないではいられなかった。
 多くの生き物がほろび、地上から姿をけしていく。
 その傾向は最近ますます、加速しつつあった。
「わたしたち人間も、もっとはやくに、かれらのいのちの重みに気がついていれば、かれらをレッドリストにのせることなどなかったのに………」
 ネイミの目に涙がにじむのをジューロはみた。
 たしかに、人類がすべて、彼女のような優しく、豊かな情感の持主ばかりだったら、この地上はもっとはるかに、たくさんの生き物たちでみちていたことだろう。
「すんだことはしかたがない。ぼくたちがこれから、レッドリストに指定された生き物たちを、大切に保護していけばいい」
 ネイミは大きくうなずいた。
 それ以外に、自分たちにできることは、なかった。
「よし、これからこの辺りを散策して、いろいろな生き物たちをみてあるこう」
「いきましょう」
 二人は足並みをあわせて、川沿いにつづく道を、あるきはじめた。
 陽ざしが、まぶしかった。
 さわやかな風がふきつけてきて、ネイミの亜麻色の髪をふうわりとなびかせた。
 生き物たちの姿は、本当にすくなかった。
 さっきジューロがつかまえたトンボのほかには、それからというもの動くものはなにも、二人の目に映ることはなかった。。
「この広い地域のなかに、いるのはぼくたちだけかもしれないと思えてきた」
「いやよ、そんなこと、いわないで」
 ネイミがおびえたようにジューロの腕にしがみついた。
 しかし彼女もまた、口にこそださなかったが、じつはジューロとおなじ考えにとらわれていた。
 二人は、その考えがまちがっていてくれと願いながら、さらに生き物たちをさがして辺りをあるきまわった。
 やがて二人は、壁につきあたった。
 冷たい光沢を放つ、無表情な壁だった。
 壁は、二人の前進をこばむように、どこまでものびていた。
 ふだんはめったにここまでくることのなかった二人だった。
 というより、自分たちを邪険にはねつけるようにたちはだかっている壁の存在を、あらためて目にすることを無意識に避けていた。
 壁はこの地域を、ぐるりと包囲していた。
 どこにも出口はなく、草原も森も湖もなにもかもを、とりまいていた。
 その壁の外側に設けられた監視所から、二人の男女が、なかにいるかれらからはみえない窓に顔をちかづけ、なにやらやりとりしていた。
「あのふたりをみていると、なんだか切ないきもちになっちゃうわ」
「われわれの責任かな」
「いまになって、大切にするなんて、もうおそいわよ」
「たしかに、ここまできては、もうなにをやっても手遅れだ」
 できるかぎりかれらがすごしやすい環境をととのえて、わずかばかりの生物とも共存させ、保護につとめてきた人間たちだったが、いったん絶滅地獄に足をふみいれたらさいご、けっしてあともどりはできないことを、かれらは教えてくれていた。
「世界の支配が人類からぼくたちアンドロイドに移行したのが自然の流れなら、かれらが絶滅していくのもまた、自然の流れというものだ」
「あなたみたいに割り切ることができたら、苦労はないんだけど。―――生命ある人間って、どうしてあんなにはかないのかしら」
「そのはかない人間だから、われわれのような取り換えのきく、半永久的に動きつづけるロボットをつくりあげたんだ。その我々がかれら滅びゆく人類にかわってこうして地上を支配している。人間にしてみれば、本望じゃないのかな」
「あとはわたしたちが、この世界を、よりすばらしいものにしていけばいいのね」
「そういうことだ」
 結論が出たところでアンドロイドたちは、ふたたび窓のむこうの二人に目をやった。
「じっとみていると、かれらがなんだか、このうえなく愛おしいものにおもえてきたわ」
 窓のむこうからふいに、人間たちのうれしそうな声がきこえてきた。
 かれらのすぐ頭上にそのとき、一羽の鳥の、かろやかに舞い飛ぶ姿がみえた。


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