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bupivacaineさん

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One November midnight

14/11/23 コンテスト(テーマ):第七十回 時空モノガタリ文学賞【 別れ 】 コメント:0件 bupivacaine 閲覧数:944

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 バイパス、午前1時。遠くに市内の灯り。助手席を見ると、彼女はわずかに窓側へ顔を向けている。街灯の光が、途切れ途切れに彼女の横顔を照らす。

「最近は、どうなの。例の彼と。」
「うん。今度の春が正念場かな、と思ってる。」
「正念場ねぇ。」
「今の仕事やめるって言ってて、仕事探してる。仙台で。」
「彼はどこの人だっけ。」
「山形。お父さんがいろいろ弱ってるみたいで、お母さんからよく電話がきてて、それで。」

 実家が山形で、何故仙台で仕事探しをしているのかわからなかったが、それ以上聞かないことにした。あるいは、思っていたより彼女は酔っているのかもしれない。

「ついていくのかい?」
「ついてこいって、言ってくれたら。」
「あなたがついていくって、言えばいいのに。」
 本意ではない、本当は痩せ我慢のオウム返しだ。
「それじゃダメなの。あたしからついていくって言ったら、彼に負担をかけてしまうかもしれないから。彼が自分から言わなければ、それまでだと思う。そこで見切りをつけるっていうか。」
「そいつは、なかなか面倒だね。」
 僕はステアリングを両手で握ったまま苦笑した。少しだけ彼女の方を見た。笑ってはいないが、深刻そうでもない。

「俺も一応気にしてるんだよ、あなたがたの行方は。」
「気になりますか。」
「そうだね、気にしてるというよりは、気になってるという方が正しいのかな。」
 しばらくの間、短い沈黙を挟みながら、とりとめのない会話が続いた。BGMの音量は絞り気味、どちらかと言えば明るい時間帯に聞きたい女性ヴォーカルが流れていた。ちょっと間が悪いな、と僕は思った。

 クルマは彼女たちが住む場所に近づいた。最寄りのコンビニエンスストアの駐車場に入り、エンジンを切った。エアコンの風が止まると、彼女が愛用するハンドクリームの香りが漂った。
「遅い時間に、本当にありがとう。」
「いや、いいんだ。たまには素面でタクシー役も楽しいもんだよ。」
「またまた、そんな。」
 彼女はまだ、ドアに手をかけていない。コンビニの店内に視線を保って、ハンドルを握ったまま僕は言ってみた。

「まぁ、好きじゃなかったら、ここまではしないかな。」
「えー。」
「手に入らない何かがあって、せめてその傍に一分一秒でも長く居たいと願うことって、悪いことだろうか。俺はきっと好きなんだよ、あなたのことがね。」

 驚くわけでもなく、多分困ったようでもなく、彼女は真正面を見てさらりと言った。
「いや。違うな。」
「違わないさ。」
「ううん。違う。」
 また前を見たまま、さっきより少しだけ間を置いて、彼女は答えた。
 
 問答はやめにしよう。
「違うかどうかは、俺にしかわからないさ。あなたのことが、あなたにしかわからないようにね。さぁ、外は寒いぞ。気を付けて帰ってくれ。」
「ありがとう。おやすみなさい。」
 彼女はドアに手をかけ、ふらつきながらセミバケットシートから抜け出し、クルマを降りた。

 エンジンをスタートさせ、窓をあけ、軽く手を振りながら駐車場を出た。彼女の方は見なかった。セカンドへシフトアップして、いつもより少し深くアクセルを踏み込んだ。ボクサーターボエンジンが嘶き、僕の背中を一人の帰り道へと押し出した。

 翌日、彼女からメールが来た。酔っていたのか、あっというまに着いたことしか覚えていないという。本当だろうか。しかし、彼女のことは彼女にしか、わからない。


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