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商店街のおもちゃ屋

14/11/22 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:0件 更地 閲覧数:975

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 気が付いたら商店街に立っていた。周りには誰もおらず、シャッターの降りた店が両脇にどこまでも連なっている。ここに来る前に自分が何をしていたかとんと思い出せない。今この場所で立ったまま生まれてきたかのように思えた。
 取り敢えず、ずっと立ち惚けていても仕様がないので商店街の奥に向かって歩き始めた。
 やはりどの店も閉まっている。店の壁面から横に突き出した蛍光看板がチカチカ明滅して、何やら寂しげに見える。路端に置かれたゴミ箱から奇妙なゴミが溢れかえっていて汚らしい。どれだけ歩いても人は一人も見かけない。あまりに誰もいないから、私以外みんな死んだのだろうかと思い始めた。
 しばらく歩いていくと、たった一軒だけシャッターの降りていない店を見つけた。どうやらおもちゃ屋らしい。看板に赤い字で「おもちゃ」と書いてある。その「おもちゃ」の前にも何か文字が書いてあるらしいが、そこはかすれて判読できなかった。
 店先の台の上でサルのぬいぐるみが錆び付いたシンバルを打ち鳴らし、カチャカチャと音を立てている。それが何やら必死に見えて、可哀想な気がした。私はおもちゃ屋に恐る恐る足を踏み入れた。
 店の中はおもちゃでいっぱいだった。薄汚れたテディベアやペカペカ光るスーパーボールや昔のゲーム機やらがごちゃごちゃしている。とは言っても私はどれも買う気がないから、黙って店の奥に進んだ。
 途中、棚に置いてある黒猫のぬいぐるみに「何処へ行くんだい?」と尋ねられた。私が「奥に行くんだ」と言うと、ぬいぐるみは「どうしてもいくのかい?」と言い返してきた。「どうしても行くさ」と言うと、「そうかい」と言って黙ってしまった。死んだのかもしれない。
 死んだぬいぐるみを置き去りにして更に歩いた。どれだけ歩いても店の奥にたどり着かない。両脇にはおもちゃを満載した棚がどこまでも連なっている。そしてその棚の間隔は進むたびに狭くなるらしい。おかげで私は体を横にしてゆかねばならなかった。
 蟹のように歩いているうちに広いところに出た。やはりそこらにおもちゃが積んであって、そして行き止まりである。その場所には一人の婆さんがいた。しわくちゃな汚らしい顔をしていて、どうしても人間とは思われないおかしな婆さんである。
 そんな人間らしくない婆さんが「何を買いに来たんだい」と不愉快な声を出した。私は「お前なんかからは何も買いはしない」と突っぱねた。嘘はついていない。そもそもおもちゃが欲しくて店に入ったわけではないのである。すると人間らしくない婆さんは「そうかい、そうかい」と言って、二度ほど頷き、そうしてそのままさっと溶けて消えてしまった。後には何にも残らなかった。
 私が独り呆然としていると、何か取り返しのつかないことが起きたと予感させる嫌な音が聞こえた。そしていきなり左右に積んであるおもちゃが、私に向かって崩れかかってきた。たまらず頭を抱えてしゃがみ込んだが、なんにもない。不思議に思って周りを見てみたら、そこは最初に立っていた場所だった。シャッターの降りた店が両脇にどこまでも連なって、相変わらずどの店も空いてなかった。
 遠くの方で錆び付いたシンバルが鳴っているような気がした。


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