W・アーム・スープレックスさん

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奇病

14/11/20 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:5件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2344

時空モノガタリからの選評

昔から伝承される人面瘡の系譜のお話でしょうが、結末がなんとも恐ろしいですね。一風変わっているのが「焼きたてパンのような柔らかさ」と「じつにたわいなくぺちゃんこ」という、フワフワと掴みどころがない感触ですね。一見可愛らしい風情と逃れられないギャップが、妙に苛立たしさを増幅させていると思います。そして主客の転倒が永遠に連鎖するかのような結末が、なんとも「不条理」でした。

時空モノガタリK

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 インターネットでいくら検索してみても、自分の身におこっている奇病を、探し出すことはできなかった。
 兆候があったのは、ひと月ほどまえ、ちょうど乳首と乳首の間に、ぽつんとひとつ、小さなこぶのような突起物があらわれた。ちょっとばかしむず痒かったが、最初のころはたいして気にもとめずにいた。
 ぼくは、故郷からの仕送りのおかげで、1DKのマンションできままに一人暮らしを送る学生だった。
 アルバイトに精を出す学生たちが、そのバイトさきでしりあった女性と親しくなったりする話をきくと、激しい羨望の念にかられはしても、だからといってアルバイトをはじめようなどという殊勝な気持ちにはさらさらならなかった。
 そんなぼくだから、彼女はいなかった。いや、ぼくには生まれて以来このかた、ただの一人の彼女もできたためしがなかった。
 異性と親しく口をきいたといえば、息子の下着の色や形にまで気を配る母親ぐらいで、いったい女というのはどんな生き物なのだろうと、部屋で一人、いつもそのことばかり考えるようにぼくはなっていた。
 胸にできたできものは、日に日に、空気をふきこむように、大きくなっていった。
 最初は米粒大から豆粒にかわり、やがてそれが梅ぼし大になるのに一週間とかからなかった。 
 よくみるとそれは、妙にいびつな形をしていて、ある種の予感めいたものがぼくの中に芽生えた。はたしてさらに一週間がたつころには、人の頭のような形になるに至った。
 いまでは拳ほどの大きさになっていたが、ふしぎなのは、上から手でおさえると、じつにたわいなくぺちゃんこになった。外出するときなどは、ガムテープを張り付ければ、だれからもシャツの下の異変をさとられるおそれはなかった。
 突起はしていても、しこりにはならず、焼き立てのパンのような柔らかさが指の腹に伝わってきた。乳がんと思わなかったそれがおもな理由だった。
 外からかえってきて、テープをはがしとるととたんに、にゅっと人の顔のような腫物が胸の上にもりあがるのをみるのは、ちょっとしたアメージングだった。
 いまではそれは、ほぼ完全ともいえる、女の顔を形成していて、頭には癖のない毛髪が、くろぐろとのびていた。
 純日本風の切れ長の目をしていて、一重とも二重ともつかない瞼が開いて、まともにぼくの目をのぞきこむところなどは、凄みさえただようほどの美しさだった。
 それからというもの、ぼくは毎日のように、胸の上からこちらをみつめる彼女とながいあいだむかいあうようになった。
 自分の体にできているにもかかわらず、なんだか独立した女のように思えてならず、ついぼくはそれができものだということを忘れて話かけていた。
「――口をきいてくれたらな」
「いくらでも、きけるわよ」
 たしかに、ぼくの目の前で顔がいった。
「まさか」
「あなたの頭がおかしくなったわけじゃないから、安心して。妄想でもなんでもないわ」
「きみは、なにものなんだ」
「あなたからうまれ、やがてあなたになる、女よ」
「いってる意味がわからない」
「時間がたてば、わかるようになるでしょう」
 しゃべっているあいだにも女は、むくむくと僕の胸からのびてきて、頭の下から肩が、つづいて腕が出現したかと思うと、その右手をこちらにむかってふってみせた。
 上半身のつぎには、腰から下腹部がのびだし、ついには太腿とあしがでて、やがて彼女はぼくからはなれて歩きだすのはほとんど時間の問題のように思えた。
「あいにくだけど、そうはならないの」
 体がいっしょだけに、女にはぼくの考えていることがわかるらしかった。
「わたしが人間に成長するにつれて、あなたはだんだん縮小していき、最後には小さな突起物となって、やがて私の中に埋没するのよ」
「そんな、ばかな」
 だが、体がいっしょだけに、女の言葉に嘘がないのを認めざるをえないとわかるとぼくは、とっさに机のひきだしから鋏をつかみとっていた。
 ためたらうことなく、女の体を鋏で断ち切った。紙袋を切るほどの労力しかかからなかった。切られた女は足元におちると、みるみるルビーのような赤い玉に凝縮した。
 なにもなくなった胸を、ほっとしてぼくがみつめたとき、再びむっくりと頭がもりあがった。ぼくはほとんど反射的に、その頭を切りおとしていた。と、するとまた頭があらわれ、またぼくが切るといったいたちごっこがなんどもくりかえされるうち、女の出現する時間が目にみえてはやまりだし、ぼくの鋏さばきではもはや追いつけなくなったときぼくは、とうとう女に体を占領されてしまった。
 女がその後、おちていた赤玉で作った首飾りを首にかける感触を、女の胸の中で感じながらぼくは、いつか女の肌の上にあらわれて、いちどは奪われたこの体をとりかえさんものと、たえず機会を狙うようになっていた。


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このストーリーに関するコメント

14/11/20 suggino

終盤の、切り取っても切り取っても女の頭が生えてくる場面が怒涛の展開で、悪夢をみているようでした。
女にたいする畏怖とかそういったものが、奇病をもたらしたのでしょうか。おもしろかったです。

14/11/21 W・アーム・スープレックス

sugginoさん、コメントありがとうございます。
私にとって、このぼくに起こった一連の出来事は、ごくノーマルな世界に感じられます。この考え自体、不条理なのかもしれませんが。

14/11/21 W・アーム・スープレックス

sugginoさん、コメントありがとうございます。
私にとって、このぼくに起こった一連の出来事は、ごくノーマルな世界に感じられます。この考え自体、不条理なのかもしれませんが。

14/11/21 クナリ

あ、切り落とせるんだ、切ったら自分が死んでしまうとかじゃないんだ、これは良かった良かったと思ったら…!というラストですね(^^;)。
文体が軽妙ながら、迫力のあるホラーでした。

14/11/21 W・アーム・スープレックス

ホラー好きのクナリさんに、迫力があるといわれるとさすがに、まんざらでもありません。このジャンル、私も大好きです。不条理とホラーは、切っても切れない関係にあるように思えてなりません。

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