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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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仮面を脱いだ都民

14/11/19 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:1062

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「武彦、明日から職探ししろ」父の洋一が、日本酒を注いだコップを持ちながら、苦悶の表情で言った。
「はあ? 何でだよ」
「いいからそうしろ」
「父さん、いつもそんな風に自分の意見ばかり勝手に押し通すから、人から嫌われるんだよ。死んだ母さんも、そんな父さんの一面を嫌っていたの分かれよ!」
「死んだ母さんの話は、今は関係ない。とにかく、明日から職安に行って職探ししろ」
「父さん! いい加減にしろ!」
「親の言うことを素直に聞けないのか!」
洋一は武彦の頬を強く張った。体中の血液が湧き立った武彦は父の胸ぐらを掴み、仏壇の前で取っ組み合いの喧嘩になった。遺影の母の写真が2人を笑顔で見ていた。
家を飛び出し、車で夜の国道4号線をただ真っ直ぐに、あても無く武彦は走らせた。
「父さんのバカ野郎!」
何度も車内で父を思い罵声した。
『お母さんが死んだらお父さんと喧嘩したら駄目よ。誰も仲裁してくれる人がいなくなっちゃうから』
『母さん、早く癌を治して元気になってよ』
『もう手遅れよ。今はね、早く楽になりたいの』
『そんなこと言うなよ』
『うんん、もう治療が辛いの。一日に何度も嘔吐するし、髪も抜け落ちて辛いの。もう早く楽になりたい。ただ一つだけ心残りなことは、武彦が早く誰かいい人と結婚して、孫を抱いてみたかった』
『近いうちに誰かいい人と結婚するし、孫の顔も見せるから、長生きしてよ』
『お父さんに孫の顔をみせてあげて。いい、お母さんが死んだら、お父さんと喧嘩しちゃ駄目よ』
信号が赤に変わっていた。慌てて急ブレーキをかけた。
武彦は手の甲で目尻に溜まった涙を拭った。
8月の夜にしてはやけに肌寒い夜だった。父のいる家に帰りたくなく『そうだ、田んぼの草刈でもするか』と思いたち、田んぼに向け車を走らせた。
あと1ヵ月もすれば、収穫の時期になる。半年前から東京の大手スーパーにも納品するようになり、贅沢はできないまでも、それなりの生活は送れていた。
半年前に、東京の大手スーパーの仕事をとってきたのは武彦だった。それまでは、農協に卸していたが、『これからの時代、農業で食っていくには自分から仕事をとってこないといけない』と武彦は父を説得し、自ら東京に行って仕事を受注したのだった。
農協に卸していた卸値の1.5割増しの収入を得ることができた。
田んぼに到着し、車から降りた武彦は、目を疑った。
稲が枯れて全滅していた。
急いで父に報告しなくてはと思い、携帯電話から自宅に電話をかけた。
『はい、熊岸です』
「父さん、武彦だけど大変なんだ。稲が枯れて全滅してる!」
『ああ』
「ああ、じゃないだろ!」
『父さんが除草剤を田んぼに撒いたんだ』
「なに、やってんだよ! 頭おかしくなったのか!」
『いいから、明日から別の仕事を探せ』
「いい加減にしろ!」月明かりの下で、武彦は電話の向こうの父に怒鳴った。
しばらく、電話から応答は返ってこなかった。ただテレビの音声だけが聞こえてきた。
「もしもし! 何とか言えよ!」
『営業停止処分の通達が東京都から送られて来たんだ』
「はあ? 何だよそれ?」
『福島県産の米を山形県産と偽装して販売していたことが、日本農林規格法に違反したらしく、東京都から1年間の営業停止処分の決定を受けた』
武彦は血の気が引いていき、軽い眩暈を感じしゃがんだ。
父に福島県産の米を、山形産と偽って販売することを薦めたのは武彦だった。
「だって、原発の影響で福島県産なんて表示したら食っていけないじゃないか」
『違法は違法らしい。昼過ぎに、オマエが東京で仕事をとってきた東京のスーパーからも電話があって、契約の打ち切りと、損害賠償を請求する旨を伝えられた』
「そんなの、あまりにも不条理じゃないか……。だって福島原発なんて東京で暮らす人のための原発なのに、事故が起きたら、福島の人と農作物を避けだして酷過ぎるよ」
『父さんな、母さんが亡くなっていてよかったと、それだけはホットしてるんだ。これから周りの人達から、父さんとオマエは犯罪者同然に接せられるから、母さんにそんな辛い思いをさせなくてよかったとホットしてるんだ』
電話を切った武彦は、草が自生する田んぼ道に頭を何度も叩きつけながら泣いた。
姿の見えない無数のカエルの鳴き声が、まるで法を犯した愚かな者をあざ笑うかのように、いつまでも鳴っていた。
もう死にたいと思った。首を吊って母さんに会いに行こうかと思ったが、父さんに孫の顔を見せてやることが、死んだ母さんの願いだと思い直し、涙を拭って立ち上がった。
東京の人は冷酷だと思った。自分の暮らしさへよければ、平気で人を切り捨てる。3年前の原発事故で、首都東京に暮らす人は本性を現したと思い知らされた。
「俺のやったことは、本当にいけないことですか?」そう夜空に呟いた。


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このストーリーに関するコメント

14/12/14 光石七

拝読しました。
これは本当に不条理だと思います。
あの震災と原発事故は今もなお苦しみと傷を生み続けているのだと、胸が締め付けられました。

14/12/15 ポテトチップス

光石七さまへ

コメントありがとうございます。
東京の人は自己中心的な人ばかりだと、この都市に10年住んでつくづく実感します。

震災から、来年で4年が経過しますね。
現在でも、東京のスーパーで『福島県産』なんて表示したら都民は買いません。

一日も早く、福島県産の農作物の風評被害が無くなることを、故郷が福島県の私は切に願う今日この頃です。

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