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タックさん

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在りし日の風景

14/11/17 コンテスト(テーマ):第六十九回 時空モノガタリ文学賞【 無題 】 コメント:0件 タック 閲覧数:1093

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(身近に、私の絵を褒めた人は誰もいなかった)
(両親は私が絵を描くことを嫌い、両親によって選ばれた友人は、私の付属品を称えるばかりの人々だった)
(そのなかで唯一、私の絵に笑顔を向けたのは、クレア・ハレーソン、ただ一人だった)
(私に上下なく接し、澄んだ瞳を向けてくれたのは、クレア・ハレーソン、ただ一人だったのだ)

「ノエル、これはあの山ね。とっても、素敵な絵だと思うわ」
「ありがとう、クレア。ぼくの絵を見てくれて、本当に嬉しいよ」

(私たちは十四歳で、家が隣り合っていた)
(私たちには兄弟がおらず、どちらも他人との交わりを恐れていた)
(少なくとも、勉学の可能な家に生まれた私とは異なり)
(クレアは、お世辞にも裕福な家に生まれたとは言い難かった)
(しかし、二人に横たわる孤独は、その大きさを等しくしていて)
(いつしか私たちは集い、心のなかまで語り合う仲になっていた)
(誰にも邪魔をされない、二人きりの場所で)
(緑あふれる、風そよぐ静かな草原で)

「ほら、この頂上の感じとか……」

(クレアは絵と対象を交互に指し示し、混じり気なく微笑んだものだった)
(また無遠慮に、それでいて嫌味なく、絵の欠点をあげることも忘れない少女だった)
(その飾り気のない態度に、身に付いた猜疑心は溶かされ、その笑顔に私は安寧を手に入れた思いだった)
(与えられた慎重さをも奪い去るほどに、それはある意味で強く、また、強靭な純粋さであった)

(――しかしそれ故に、私は胸が締めつけられる思いに囚われていたのだが)

「でも、やっぱり素晴らしい絵だなあって思うわ。ノエルは、感性がとても豊かなのね」
「いや、そんなことないよ。……他のみんなは、ぼくの絵を褒めてはくれないから」

(隣り合う、我々の家)
(窓を開ければ、音の届く距離)
(その向こう側から稀に漏れ伝わった悲鳴と、何かを打つような、重く、鈍い音――)
(私は、クレアのスカート姿を見た覚えがなかった)
(半そで姿を、見た記憶もなかったのだ)
(それは、単なる傾向だったのか、それとも――)
(私は恐れを転化するように、暇を見つけてはクレアと落ち合った)
(そのことがクレアを世界に引き寄せる術だと、無邪気にも考えていたのである)

「……日が傾いてきたね。まだ、時間は平気?」
「……うん、もう少しだけ。もう少しだけなら、大丈夫」

(クレアの白い頬が日没の橙色に染まり、色彩に私は次の機会を連想して思った)
(すべての雑事から解き放たれる、その時間と空間)
(それは多くを望まないかぎり、永遠のごとく続くのだと私は信じていた)
(いつまでも身を任せられるのだと、私は思い込んでいたのだった)

「――え? ……それは、本当なのか? クレア?」

(しかし、終わりというのは実に呆気なく訪れ)

「――ええ、ノエル。わたし、明日でここを離れるの。すごく遠い場所に、働きに行くのよ。……家族と、今度生まれる、赤ちゃんのために」

(足音もなく、唐突に二人を引き離していった)
(まるで、脚本家の腕の悪い、一つの舞台作品のように)

「……そんな、なんで、クレアが。君は今だって、十分に家の仕事を……」

(私の風景は突然の衝撃に黒く塗りこめられ)
(思わず、持っていた草原の絵を握りつぶすところであったが)

「……ごめんなさい、ノエル。本当に、ごめんなさい……」

(その破壊はクレアのはじめての泣き顔に留められ、行き場のない感情のみが、私たちの間には残るすべてだった)

「……でも、すぐに、帰ってこれると思うわ。パパたちが、そう言っていたもの」

(そう、涙交じりの笑みで語ったクレアは、本心からそれを信じていたのだろうか)
(それとも、自らの運命を、わずかでも察していたのだろうか)
(そうした判断を、当時の私ができるはずもなく)

「……わかった。なら、手紙と絵を送るよ。クレアが、少しでも寂しくないように!」

(手を握って再会を誓い合い、馬車で旅立ったクレアに、私は笑顔で手を振り続けた)
(それが、最後の姿になるとは思いもよらずに)
(二度と会えないのだとは、当然のごとく、考えもせずに)

(――あれから、二十年の歳月が経った)
(待ち続けた私は結婚し、二児の父親となっていた)
(クレア・ハレーソンの行方は、現在もようとして知れていない)
(住所の公開を拒まれ手紙も送れず、クレアの家族が不自然に転居して長い、今となっては、その出立先がはたして正常であったのかさえ、私には分からないままである)




「は、はい、クレアといいます。……ここで、待てばいいんですか?」

「……えっ! あ、あの、この人たちは!? わたしは、ここで何を……」

「…………イッ…………ガッ…………」

「……………………」


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