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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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Nouveau départ

14/11/17 コンテスト(テーマ):第六十九回 時空モノガタリ文学賞【 無題 】 コメント:8件 光石七 閲覧数:1266

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 ようやく仕事が一段落した。久々の三連休。せっかくなので、二泊三日で沖縄にファンダイブに行くことにした。ダイビングもしばらくご無沙汰だった。
 朝イチの飛行機に乗り、さっそく午後からボートダイブ。今回一緒に潜るのは初対面の三人だ。内二人は夫婦で、もう一人は僕と同じく単独で参加した男性。自然とバディが決まった。移動中、いつものように参加者と話しながら気持ちを高めていく……はずなのだが、今日はなんだか空回りしている。
 ボートがポイントに到着した。アンカーロープが下ろされ、ガイドの指示のもと水に入る。11月中旬の沖縄。陸は少し肌寒いけれど水中は温かい。透明度も良好だ。出港前は曇っていた空も晴れてきた。
 バディ同士で潜行のサインを確認し、潜り始める。半年以上ブランクがあったが、体は感覚を覚えていた。キンメモドキの群れに出迎えられる。クマノミやグルクンなどの熱帯魚、珊瑚にイソギンチャク、カラフルなウミウシに不思議な海の生き物たち――。美しい、と思う。でも、どうも心の底から楽しめない。楽しみたいのに、どこかどんより重たい僕の心。
(凜華がいないから、か……?)
今までのダイビングとの決定的な違いに思い当たる。吹っ切れたつもりだったが、やはり引きずっているのか。

「私、前世は魚だったと思うの。海の中が落ち着くのよね」
凜華の口癖だった。凜華と付き合うまで、僕はスキューバダイビングなど全く興味が無かった。
「面白いよ。いろんな魚や生き物に出会えるし、水中を漂う感覚も最高。ちょっとお金はかかるけど、金額以上の価値は絶対あるって」
初めて出会った合コンでも凜華はダイビングの話をしていた。学生時代ダイビングサークルに所属し、今も毎月のように潜っていることもその時聞いた。
「瑞樹もやってみない?」
付き合い始めてすぐ、凜華は僕をダイビングに誘ってきた。
「あんまり泳ぐの得意じゃないし……」
「大丈夫だって。エアジャケットとバラストで浮力を調節しながら潜るんだし、フィンを使うから泳ぎやすいよ。息継ぎも要らないし」
「言われてもよくわかんないだけど」
「じゃ、体験ダイビングしてみたら? 私も一緒に行ってあげるから」
凜華に勧められるまま、僕は伊豆の日帰り体験ダイビングを申し込んだ。凜華と共に現地に行き、ウェットスーツに着替えて器材の説明を受け、海へ。浅い所で呼吸の練習などをして慣れてから、深い所に潜っていく。深いといっても初心者向けなので五メートルほどだったが、初めて凜華と見た海の中は正に別世界だった。近場の伊豆に珊瑚があるとは驚きだったし、シマアジの群れに青や黄色のかわいい魚たち。ウツボも近くで見たのも初めてで、海中での時間はあっという間に過ぎた。
「めっちゃ楽しい。また潜りたい」
僕は正直な感想を凜華に伝えた。二週間後には講習を受けてCカードを取得した。以降、僕は凜華と一緒にファンダイブに出かけるようになった。場所や季節はもちろん、天候やタイミングによっても見られる光景が違い、飽きが来ない。凜華は僕がダイビングにハマったことを喜び、僕も凜華と同じ世界を共有できるのが嬉しかった。二人で潜って、二人同じものを見て、二人で感動して……。僕の器材を揃えるため、一緒に店巡りをするのも楽しかった。ダイビング以外にも映画やドライブ、遊園地などにも行ったし、まったり家デートで過ごすこともあった。お互い本当に好きだったし、一緒にいるのが心地良かった。
 なのに、どこで変わってしまったのだろう? 僕の仕事が忙しくなり、ダイビングに行く機会が減ったのは確かだ。でも、まめに連絡してたし、少しでも二人の時間を作るよう努力した。でも、凜華の笑顔は減り、会っても気持ちはすれ違うばかりで……。
「もう瑞樹とは会わない。バイバイ」
凜華からはっきり別れを告げられたのは二か月前だった。

 ガイドが手招きしたので行ってみた。マンタだ。バディは目を輝かせてみつめている。ここまで間近で見るのは僕も初めてだ。マンタはゆったりと泳ぎ、僕たちの前を悠然と通り過ぎていく。僕たちがいてもいなくても、マンタには関係ないらしい。
(羨ましいな)
弱肉強食の自然界で生き抜くのはそれなりに大変だろうが、人間のようにあれこれ思い煩うことは無いだろう。余計なことは考えず、流れに身を任せて……。
(前世は魚だったと思うの)
凜華の言葉を思い出す。お互い魚だったなら、もっと上手く付き合えたのだろうか? ずっと海の中にいて、一緒に同じものを見続けていれば……。
(いや、小魚の僕が凜華に食われて終わりだな)
くだらない考えに吹き出しそうになった。
 バディが浮上のサインを出してきた。全体もボートでポイントを移動するようだ。OKのサインを返し、バディと水面を目指す。
 今度こそ、凜華のことは忘れて楽しもう。


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このストーリーに関するコメント

14/11/19 夏日 純希

もし・・・だったら、と考えてみても、やっぱり小魚として食われて終わると思えば、
やっぱり成就しない恋だったのかな、と悟りますね。
恋ってひょんなことで諦めがつくことも?? 
猛烈に恋い焦がれるのもいいですけど、海がさっと洗い流してくれるというのも、これはこれでいいなぁと思いました。

14/11/19 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

Σq|゚Д゚|p ワオォ〜〜光石さん、ダイビングもされるのですか。もし、作品上のことで書かれたとすれば、素晴らしいことだと思います。

こういう付き合いで終わるってのもありかもですね。何かが食い違っていたのかしら? 魚だったという彼女と付き合うのには小魚のほうが良かったかもですが、食われちゃかなわない。
前世は魚、不思議ちゃんの彼女に振り回されたかもですが、ダイブで別世界である海の底の世界を知ることができたのは、彼の人生にとって大きな収穫だったのではないかと思います。

14/11/19 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

うまくいっている時は共通の趣味は楽しいけれど
別れてしまったあとは、わだかまりが残るものかもしれませんね。
でも今回のことで、純粋にダイビングを楽しむことがまた出来ますように!
珊瑚も魚もいつだって待ってます♪

14/11/20 光石七

>夏日 純希さん
コメントありがとうございます。
いろんな点で不足な駄作で、読まれた方に「何が書きたかったの?」と突っ込まれると覚悟しておりました(苦笑)
汲み取ってくださり、ありがたく思います。
失恋って実は男性のほうが引きずるという話を聞いたことがあり、そういう部分も含ませてダイビングを絡ませながら主人公の心を描ければ、と思ったのですが、力不足もいいところでした。
海は特別な力がある気がしますね。

>草藍さん
コメントありがとうございます。
光石はダイビング未経験です。周りに経験者もおらず、ネットに頼ってどうにかそれっぽく書こうとしました。途中、細かいところや海中での感覚がわからず何度も筆が止まり、「やっとけばよかった……」と後悔(苦笑) 本当は実際に体験して書くのが一番いいのでしょうが。
何故かどこかですれ違い始めて破局、というのはあると思うのですが、そこの描写も下手くそですね(苦笑)
皆様の感性と寛大さに助けられております。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
“珊瑚”と打つたびにそらの珊瑚さんのお名前を思い出してました(笑)
彼女と一緒だったからハマったのか、ダイビング自体が楽しかったのか、もっとはっきりわかるように書くべきでしたね。補って読んでくださり、ありがたく、申し訳ないです。
主人公へのエールもありがとうございます。
きっと彼女がいなくてもダイビングを楽しめるようになると思います。

14/11/26 光石七

>メイ王星さん
コメントありがとうございます。
彼女のことを吹っ切れたつもりでダイビングしたら意外に引きずってて、でも海でのちょっとした出会いをきっかけに心が軽くなって……という感じにしたかったのですが、中途半端な描写になってしまいました。
タイトルにも注目してくださったのですね。
掌編に関しては本文が固まってからタイトルを考えるのですが、今回はその本文がフワフワしててなかなか焦点が定まらず。結局、ラストの主人公の心境的には「再出発」かな、と無理矢理カッコつけました(苦笑)
私も主人公ともども再出発したほうがよさそうです(苦笑)

14/11/29 黒糖ロール

光石七さん

ダイビングの専門的なことがきっちり書かれていて、すごいなと思いました。
出来事を描く上で、リアリティにつながっているんでしょうね。
小魚のあたりで、主人公のスイッチが切り替わった感じ、うまく表現されてるなあと思いました。

14/11/29 光石七

>黒糖ロールさん
コメントありがとうございます。
ダイビングは全然やったことが無くて……
ネットで得た付け焼刃の知識で書いたので、全国のダイバーさんたちに謝らなくてはいけないのではないかと思っております(苦笑)
主人公の気持ちの変化が一番書きたかったことなので、黒糖ロールさんのコメントはとてもうれしいです。

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