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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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食品偽装 侵略編

14/11/17 コンテスト(テーマ):第七十一回 時空モノガタリ文学賞【 不条理 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1313

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 寝ぐせのついた頭をかきながら、きょうもまたあの客がやってきた。
「おっちゃん、タコ焼き八つ」
「いらっしゃい」
 ぎゅうぎゅうに詰めて五人がやっとのカウンターの、いつもの奥からひとつ手前の腰かけに彼は座った。午前の十一時、この時間帯にめったに満員になることはなかったが、万が一いっぱいになったときは、気をきかせていちばん奥に移動するための配慮だった。
 周吉はタコ焼き器のガスを点火した。たいてい彼は、朝一番の客だった。したがってこの火は、彼のためにつけるようなものだった。
 客の名は、悦男といった。近所のアパートに住んでいて毎日、朝食がわりに決まってタコ焼きを食べにやってきた。
「おっちゃん、おれきのう、へんな夢みた」
「どんな夢みたんや」
「いまおもいだしても、なんか気色わるい」
 そのとき階段から足音がきこえ、周吉の妻の咲が、階段の途中からスリップの裾をはだけて、
「おとちゃん、今朝の新聞みせて」
 周吉は青ノリとソースに汚れた漫画や週刊誌のつまった棚の上から、真新しい新聞をとって彼女にてわたした。
 咲は店内をみまわして、きてる、きてるといった顔で、悦男をみた。
 彼女が二階にもどっていくのをまって、悦男はふたたび口をひらいた。
「タコが、おれを粉といっしょにといて、焼きよるんや」
「なんや、それ」
「毎日おれ、タコ焼き食べてるやろ。そやからタコのやつが、仕返しとばかり、こんどはおれを焼いてたべようとしとるんや」
「夢の話やろ」
「リアリティ満点やったで」
 すると、二階にあがったとばかり思っていた咲が、階段の途中から顔をつきだした。
「心配ない、心配ない。うちのタコ焼きたべるからゆうて、タコの怨みをかう心配はぜったいないで」
 いやに自信たっぷりにいう彼女をなにげなくみあげた悦男は、白のスリップの裾からのびたむきだしの彼女の足をみて、ふとコウイカをおもいだした。
 その夜のことだった。
 悦男のすむアパートの窓が、いやにまぶしく輝いた。
 なにごとかと彼が窓をあけたとたん、すさまじい閃光が夜空を切り裂いたと思うと、一瞬後にはアパートの前の家屋が吹き飛んだ。
 宇宙人の侵略だ。
 悦男はいそいで部屋からとびだした。階段のところで、どこからかのびてきた吸盤のついた触手のようなものが、彼の胴にねちねちとからみついてきた。
 あっと思ったときには彼のからだは、触手の本体である、巨大なタコそっくりの宇宙人のところにひきよせられていた。
 おそらく宇宙人は、地球のタコと、遺伝子上のつながりがあるのだろう、連日、そのタコ焼きを食べる悦男を宇宙船から観察した結果、危険人物とみなして、彼を最初の標的にえらんだものと思われる。
 夢でみたとおりのことが起こって悦男は、粉といっしょに撹拌されて、巨大タコ焼き器で焼かれる自分を慄然とした気持ちで想像した。
 そのとき、下のほうから聞き覚えのある声がきこえた。
「まってくれ。その人をとらえるのはお門違いや」
 悦男は、路上からこちらをみあげているタコ焼き屋の店主と、その妻咲の姿をみとめた。
 タコ型宇宙人は、人の言葉が理解できるとみえ、周吉のほうにむかって、耳がわりとおもえる先端がラッパ状にひろがった触手をさしのばした。
 このときもスリップ姿のままの咲が、亭主よりもよくとおる声をはりあげた。
「そうよ、あなたは勘違いしている。その人がたべてるタコ焼きの中身は、ほんまは赤く着色したイカがはいっているの。あんたの怨みは、見当ちがいというわけよ」
 悦男をしめつけていた触手から、ふいに力がぬけた。タコ型宇宙人も、自分たちとは無縁のイカをたべる彼にたいして、断罪を下すわけにはいかないようだった。
「おおきに、タコ焼き屋のおっちゃん」
 触手から解放された悦男は、周吉夫婦のにむかって、深々とおじぎをした。
「かまへん、かまへん。おかげでタコの偽装がばれてしもたけど、あんたの命が助かったんや、結果オーライや」
 いいながら周吉は、なかよく咲と腕をくみながら、家にもどっていった。
 悦男もまた、タコ焼き屋夫婦の善意に胸をうたれて、いつになく晴れやかな気持ちになって、アパートにもどりかけた。
 と、そのとき、するするとのびてきた触手が、ふたたび彼の胴にねちねちとまきついてきた。
「わあ、やめろ。もうわかっただろ、おれがたべていたタコ焼きは、正確にはイカ焼きやったということが―――」
 叫びながら悦男は、じぶんにからみつく触手の持主に目をやった。
 そこにいたのは、タコ型宇宙人ではなく、しろじろとした表皮におおわれた、それはイカ型宇宙人だった。
 そのイカ型宇宙人の、あやしく身をくねらせる姿をまのあたりにした悦男はふと、ひらひらした白いスリップの裾からつきだした咲の、肉付きのいい太腿をおもいだしていた。


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