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三条杏樹さん

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笑う少女と泣いた僕

14/11/10 コンテスト(テーマ):第七十回 時空モノガタリ文学賞【 別れ 】 コメント:1件 三条杏樹 閲覧数:1358

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波が生きている。

「海がこんなに綺麗だなんて知らなかった」

足元から見下ろす海は、確かにすべての生命の源だった。光が散りばめられ、穏やかに脈うつ。
少女はくるくると回った。僕は少女が落ちてしまうことを恐れて、必死に腕を伸ばした。

「ねえ、見てよ。こんなに高いところから海を見たことがある?」

笑って僕の手をはねのける。それが寂しくて、歪むほど泣いた。

白い壁に囲まれて、少女が進む道だけが開けている。誘っているかのように。僕は少女の名前を呼びたいのに、嗚咽がそれを遮った。漣が聞こえて、息を吸う。

「どうして泣くの?高いから、怖いの?」

僕は首を振る。

「君が僕から離れていくからだよ。こっちに来てよ」

「世界は広いって言うけど、海より広い世界なんてあるのかしら」

「お願い、こっちに来て」

「泣かないで」

裸足で小さく跳ねる少女を抱きしめようとする。それも拒まれた。僕の涙は留まらず、また溢れた。このまま時が止まってしまえばいい。涙なんて死ぬまで流し続けていいから。ただ、少女を僕の近くに感じられるなら。
「僕を受け入れてくれない君なのに、どうして海が君を受け入れてくれると思うの?」

少女は首を振る。どうでもいい、と言いたげに。真っ青な空を見上げて両手を広げた。髪が風になびく。僕は少女から片時も目を離さない。
少女は反対に僕には目もくれない。空の青だけを映している。僕にはその青は眩しすぎた。

「こうやって立ってるより、ここから落ちる方が簡単なのよ」

手を伸ばした。
少女は僕を拒絶する。

「世界にお別れを言おうか?」

「いかないで」

僕にお別れを言ってくれないのに。
声にならなかった。呼吸が涙に奪われて、かすれていく。
少女は踊るように前へ進んだ。

「いかないで!そこは海じゃないんだよ!」

叫んだ瞬間。時が止まった。少女の笑った顔が僕を見つめて、刺すように凛然と向かい合う。
永遠だと錯覚したその刹那は、悲鳴でかき消された。

白いアスファルトの中で少女が横たわっていた。群衆の目が少女を映す。何千の脈打つ命の中で、止まった少女の時間。
真っ青な空の下、真っ赤な少女。
僕は涙を落とす。少女へ伝わる前に消える雫が、人の海へと落ちた。

僕の代わりに笑った君と、君の代わりに泣いた僕の時間だけが残った。



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