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るうねさん

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吾輩は小説である

14/11/09 コンテスト(テーマ):第六十九回 時空モノガタリ文学賞【 無題 】 コメント:2件 るうね 閲覧数:1358

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 吾輩は小説である。
 題名はまだない。
 吾輩の前で座って、うんうんと唸っている男は、吾輩の作者である。万年筆を握りしめたまま、もう二時間もこうしている。その間、一文字たりとも筆が進んでいない。灰皿に、煙草の吸い殻ばかりが増えていく。
 と、おもむろに万年筆を原稿用紙の上に放り出し、作者はううんと背を伸ばした。
「仕方ない。気分転換でもするとしよう」
 そうつぶやくと、古ぼけたテレビの電源を入れた。
 たしか、二時間ほど前にもこうして『息抜き』をしたばかりのはずだが。
 チャンネルを回し、野球中継に合わせる。
「お、勝ってる勝ってる」
 そう言いながら、新しい煙草に火をつけた。
 野球なるスポオツのことはよく分からぬが、どうやら贔屓のチームが勝っているらしい。
「よし、いけ! そこだ!」
 興奮して、作者は座卓を叩く。
 投手≠ネる人間が投げた小さな球を、打者≠ニいう人間が棒切れで叩こうとしている。なにが面白いのであろうか。
 じりりりりりん。
 部屋にベルの音が響き渡る。電話である。
 作者は、びくぅっ、と身体を震わせた。おそるおそる受話器を上げる。
「も、もしもし」
「あ、はい。原稿ですか」
 どうやら、相手は編集者のようである。
「それがそのう、もう少しで書けそうなのですが」
 もう少し、とはあとどのくらいなのであろう。先ほどまで、ひと文字も書けずに唸っていたではないか。
「はい、はい。明日の朝までには必ず」
 ひとしきり電話に向かってぺこぺこ頭を垂れ、作者は受話器を置いた。
「くそ、鬼編集め」
 ぶちぶちと文句を垂れる。
 吾輩には自業自得のように思えてならない。
「仕方ない。書くか」
 再び、原稿用紙に向かって万年筆を握るが、全く筆は進まない。
 鼻毛を抜いた。
 屁をこいた。
 げっぷを漏らした。
 最後に、作者は、大きく口を開け、盛大にため息をついた。奥歯に小さな虫歯がのぞく。
「そうだ」
 なにか妙案でも思いついたものか、ぽんと手を打つ。
「最初に題名だけでも決めてしまおう」
 そう言って、またひとしきりうんうんと唸る。
 内容も決まっていないのに、すんなりとタイトルが決まるはずもない。少々、足りないのではないか、と吾輩は作者の能力に不安を抱く。
「よし、決まった」
 作者はにんまりと笑った。
 そうして、原稿用紙の一行目に万年筆でこう記す。
 『吾輩は小説である』
 吾輩は小説である。
 題名は……。


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このストーリーに関するコメント

14/11/10 そらの珊瑚

るうねさん、拝読しました。

「小説」から見た作家の姿がユーモアがあって愉しかったです。
「スポオツ」という古めかしい言い方も元ネタの某有名な小説を思い起こさせます。
考えたら「吾輩は○○である」は変幻自在だなあとあらためて思いました。

14/11/10 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

>そらの珊瑚さま
今回、『無題』という言葉がテーマなのだと勘違いしてました(汗
最近、こちらのサイトにはご無沙汰だったので、なにか新作を書こうと頭をひねった結果がこれです。
オマージュですが、ちょっとオリジナリティが足りなかったな、と反省しきり。
やっぱり、夏目漱石は偉大だなぁ、と思う次第です。

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