かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

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光輝

14/11/06 コンテスト(テーマ):第六十九回 時空モノガタリ文学賞【 無題 】 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:1800

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 一気に、光がはじけた。
 それはもう音ではなくて、光だ。
 その光は俺の網膜を焼き、俺は幻想の世界を見た。世界は青く、ときおり黄色の光を発し、うぞうぞとうごめく原生生物のような半透明の生き物を擁している。その世界は俺の目から耳から入ってきて、俺の体を突き抜け、はるか彼方へ飛び去った。

 ぶるりと頭をふるってステージに目を戻す。そこでは彼が、マイクに噛み付くように歌っていた。
 ライブハウスの中には通勤電車以上に人が詰め込まれて、床がたわむほどのエネルギーを発している。
 リズムに合わせて飛び跳ねる体達から跳ね飛ぶ汗がまた俺に幻想を見せる。俺は体を揺らしながら遠い遠いどこかへさそわれ落ちて行く。


 彼と出会ったのは校庭の隅、花が咲かない大きな木の下だ。サッカーボールを追いかけていた俺の視界に彼の姿がちらりとよぎった。俺たちのチームが3点取られ負けてしまい、部員が不満顔で部室へ引き上げる時になっても、彼はそこにいた。まるで石像のように。
 そちらに足が向いたのは好奇心からだったのか、それとも嗜虐心か。木の根方にうずくまる彼の背中は、いかにも蹴りやすそうに見えた。俺は躊躇せず、その背中にスパイクの足型をつけた。彼は両手で木肌を押しやるようにして倒れこむのを避けた。その動作は足元にある何か大事なものをかばっているように思われて、俺は彼の肩越しにそれをのぞいてみた。
 そこにあったのは、コガネムシの死骸だった。無数のアリにたかられて薄黄色く光る体はほとんど見えない。
 彼は首をすくめるようにして俺を振り仰いだ。何か言うかと期待したが、口をかたく引き結んだままだ。けれど、長すぎる前髪の間からのぞく両目には何か思いつめたような光を宿していた。

「なにしてんの」

 俺の言葉にも、彼は黙って俺を見上げるだけだった。

「虫の死骸見て楽しい?」

 彼は無言で顔を木の根方に向けると、うなずいた。

「おまえ、暗いな」

 返事は無い。しかしそれは彼の肯定のように感じ、俺は一人で喋り続けた。

「時々思うんだ。虫の方が人間より幸せなんじゃないかってさ。人間って、死んでも土に返れないだろ。いつまでも骨は暗い骨壷の中に納まってる。永遠に闇の中に、閉じ込められるんだ。俺はそんなの嫌だね」

「……ぼくも」

 小さな声だった。けれど、確固とした意思をはらんだ声だった。

「ぼくも闇の中はいやだ」

 闇の中はいやだという彼は、けれどうす暗いライブハウスを住かにしていて、俺は彼の背中にくっついて生まれて始めての場所に踏み込んだ。
 壁も天井も床も真っ黒で、ただ一つ、奥の壁に置かれたソファだけが赤い。

「ここで寝てるのか?」

 答えはない。彼はバーカウンター内の冷蔵庫からコーラの瓶を出すと、栓抜きと一緒に俺に放ってよこす。瓶入りのコーラなんていうものも初めてで、俺はおっかなびっくり栓を開けた。

「掃除をまかされてる」

 彼はステージの裏側に続く通路へ入って行く。俺も後に続く。そこは楽屋のようで、大きな鏡と広いテーブルと小さなロッカーがいくつか置いてある。その中の一つのロッカーの鍵を開け、中から真っ黒なシャツを取り出し、彼が着替え始めた。
 こちらに向けられた真っ白な背中には、俺がつけたスパイクの傷が赤く浮き出ている。赤と黒と白。たったそれだけの色なのに、俺は色彩の奔流に飲み込まれた。青、黄、緑、紫、紺、眩暈を感じた。

「夜は歌ってる」

 こちらを向いた彼の声に俺の意識ははっきりとして、目の前にあるのはただ、彼の白い顔だけ。

「なんて言った?」

「夜は歌ってる」

 意味がわからず戸惑う俺を残し、彼は楽屋から出て行った。俺は彼のロッカーを開けてみた。中に入っているのは数枚の黒いシャツと制服とぼろぼろになったカバンが一つ。ロッカーの中は夜のように暗かった。

 

 俺は彼の歌声の波からようやく体を引き上げた。今はやさしい彼の歌声は、遠い日に世を去った誰かを土へ返すような、安寧のための子守唄のようで。俺には彼が俺たちを食べてくれるなにものかのように思えた。
 彼の手はいとおしそうにマイクを包み込む。その手の中に俺達は。ここにいるすべての人たちは、抱かれて安らいで、かえっていく。

 ステージのライトが消えて人波が三々五々散っていって、俺は赤いソファに腰を下ろした。まだ音の光は体のすみずみまで行き渡っていて、目をつぶればあの幻影が見える。世界は青く、ときおり黄色の光を発し、うぞうぞとうごめく原生生物のような半透明の生き物を擁している。
 ああ、そうか。この生き物達は俺の魂を次の誰かに手渡してくれるのか。
 そうしたら俺は、どこへでも遠いところに落ちて行ける。
 
 彼がやって来て、俺の隣に座った。
 俺はだまって、彼の背の赤みに触れた。


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このストーリーに関するコメント

14/11/06 クナリ

謝ったり、怒ったりといった当たり前のやり取りのない彼らの感情の交錯が、ライブハウスという舞台での非凡さの炸裂もあいまって非日常感を際立たせていますね。
彼らの感性の絡み合いの端緒になりうるであろう、短く書かれたラストが、印象深いです。

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