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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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さだめの時

14/11/03 コンテスト(テーマ):第七十回 時空モノガタリ文学賞【 別れ 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1442

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 うなだれ気味に、彼はいった。
「きみとももうじき、別れなければならない」
 相手は、当惑にみちた顔で、もちまえの大声をあげた。
「どうしてだ、いつまでもいっしょにいて、どうしていけないんだ」
「いつまでもいっしょにいたいさ。だけど、それはゆるされないことなんだ」
 彼は、つとめて理性的に訴えようとした。
 なにより、激情に走りがちな相手を、いかにさとして、現実に目をむけさせるかがかんじんだった。
 なにせ相手は、いったん荒れると手がつけられなくなり、この地上にどんな災厄をもたらすかもわからなかった。とはいえそれも、いまでは過去の話になろうとしていたが………。
 あと二人の仲間のなかでは、もっともあつかいにくい手合いといえた。
 だが、そんな相手ではあっても、熱しやすくさめやすく、そのうらおもてのない素直な気性が、彼にはなんとも愛おしく、できることなら離れたくないのは相手同様、やまやまだった。
「―――どうしてだ。単細胞のおれにはわからない。お願いだ、どうかわけをはなしてくれ」
 すがりつかんばかりの相手に、さしもの彼も困惑して、
「私たちは、離れなければならない運命にある。きみが去らなければ、この私もこれからさき、一歩だって進めない」
「いっしょにいることは、どうしてもできないのか」
 彼はひとつ、ため息をもらして、
「もはや、きみの持ち時間は、終わりをつげようとしている。かつてはおそれるものなどなにもない、エキサイティングで、無敵のパワーの持主だったきみだが、峠はすでにこしている。暴れん坊できこえたきみだが、いまじゃ、すっかり影がうすくなって、この私にだって手もなくおさえつけることができるほどだ」
「それをいわれると、おれも辛い………」
 目に見えて落ちこむ相手に、彼はじぶんのいいすぎを悔いた。
「ま、きみだって、いいおもいはいっぱいしている。若い、ぴちぴちした女の子を、いったい何人裸にした? 小麦色に日焼けした若者たちを、あれほどよろこばしたんだから」
「そんなことも、あったかな………」
 まんざらでもないといった表情で、相手は遠くをみるような顔つきになった。
「きみの、もっとも盛んだったときの勇姿ほど、みごたえのあるものはないよ―――」
 いってから、彼はしまったと口をつぐんだ。
 あんのじょう、せっかく機嫌をとりもどしかけていた相手の顔が、ふたたび鎮痛そうにゆがんだ。
「―――それがこの体たらくだ。しょぼいおれにはもう、あのころにもどるだけの気力も体力も、ありはしないんだ」
「完全燃焼したとおもえば、いいじゃないか」
 彼は、なんとかとりつくろうとして、いった。
「完全燃焼か………おまえはほんとに、いいやつだな」
「ありがとう。きみも、すばらしい友だったよ」
「いまふと、おもいだした」
「なにを」
「おれも、あの女と別れたときは、本当にこたえたよ」
「あの女………ああ、彼女のことか。噂でしかしらないが、一度は私も、この目で拝みたいものだ」
 それをきくと相手は、おかしそうに笑った。
「それは無理というもんだ」
 たしかにそうだった。彼もおもわず、つられて笑いだした。
 ふたりはしばらく、腹の底から笑いあった。
「きみが経験した別れの辛さを、いまの私が味わっているということを、どうかわかってくれたまえ。これが我々のさだめなんだ」
 それをきいてようやく、相手も気持ちの切り替えができた様子だった。
「みんな、おなじように、かなしい別れを体験しているんだ」
「そうだよ。なにもきみだけじゃない」
 相手は一歩、後退した。
 が、ふとまたあゆみよると、彼の手をがっちりと握りしめた。
「いろいろ、駄々をこねて、わるかった。だけどもう、なにもいわない。おれは去る。これがさいごの握手だ」
 無垢なまでのまなざしをむけられて、さすがに彼も、胸に迫ってくるものがあったとみえ、しばらくは言葉もなく相手の手をにぎり返していた。
「さよなら、友よ。きみがつけてくれた道を、あとはぼくが突きすすんでゆく」
「頼んだぜ」
 言葉みじかくいったきり、相手は手を離した。
 そして意外にあっさり、こちらに背をむけ、立ち去って行くのをみた彼は、ぎゃくに未練がわいてきて、おもわず相手に追いすがろうとしかける自分を、やっきになっておもいとどまらせた。
 

 そのようにして、夏は去り、地上に秋がおとずれた。
 季節の終わりとはじめが交わりあい、そして両者は別れるさだめにあった。

 秋は、なおしばらく、去りゆく夏の後ろ姿をみおくっていた。
 彼はそして、あの姿はいずれまちうけている、冬と別れるときの私自身の姿なのだと、じぶんにいいきかせた。
 そのときがきたら、いまの夏のように、決然としてたち去ることができるだろうかと、いまから心は揺れ動いていた。

 


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このストーリーに関するコメント

14/11/29 光石七

拝読しました。
この二人は何者なんだろうと興味津々で読み進め、最後納得しました。
確かにこれも一つの別れですね。
面白かったです。

14/11/30 W・アーム・スープレックス

光石七さん、こんにちは。

惑星でも、季節でもなんでも、人間におきかえると、物語になる―――というよりむりやり、物語にしてしまうのですが、たいていは人間臭い話になりがちです。やっぱり、なんであり、主役は人間なのでしょうね。
コメント、ありがとうございました。

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