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リアルコバさん

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昭和の男

14/11/01 コンテスト(テーマ):第六十八回 時空モノガタリ文学賞【猛スピードで】 コメント:1件 リアルコバ 閲覧数:915

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 窓際から見える皇居の景色は変わらない。春は桜、新緑の緑が鬱蒼としたかと思うとゆっくりと赤や黄色に色づいた。この窓から眺める景色は依然として時を四季として感じさせてくれる。

「宮さん何ボケっとしてんだよ、グラフできたのか?」
 若い営業統括本部長様は、別に私を蔑んでいるわけでもない。唯フレンドリーなだけである。方眼紙に定規を当て各課の成績を棒グラフにしていく。昔は壁一面にデカデカと貼られた個人別棒グラフ、頂きに花を付けられた者が月間優秀者賞の証だった。今週末行われる四半期に一度の部内イベントで張り出すと言うので、その作成を買って出たのだ。
 今となっては昭和の風景はイベントの飾り物。私の常識など化石としか思えないのであろう。
(化石か・・・)
 紅葉の下の石垣にはどれだけの人夫の汗と技が染み込んでいるのだろうか。澱んだ堀にはその忠義がもう化石と化しているのだろうか・・・辞めて久しい上司や同僚が築いたこの会社の石垣も・・・分厚いガラスを境に猛スピードで時が歪んで行く。
(額に汗して作ったものは額に汗して売らねばならぬ 涙を流して作ったものは涙を流して売らねばならぬ)
 新人研修の養成所で覚えた歌が口をついた。四半世紀をとうに過ぎた今尚歌えるということは、洗脳以外の何物でもないのかもしれないが・・・
 
 総務から人手不足で営業に回されたのは入社3年目だった。
『何してんだ、今日は絶対1件取ってこい、取れるまで帰ってくるな』
 一応定刻に日報だけでも書こうと帰社すると、即座に当時の課長は言い放った。
『基本を忘れるなよ、困ったときは足元だ、何度断られても需要がないわけじゃないぞ』
 営業ベタの私に割り振ってくれた課長の顧客先へ行けということだろうか、昨日も断られた場所に向かうのは気が進まないが、かと言って今更新規開拓は出来そうにない。
 釣瓶落としの秋の夕暮れを駅まで走るように歩た。
『そうだよ宮田君、断られても何度でも来る。その位の根性じゃなきゃウチも付き合えねぇよ』
 以外にも歓迎されたようで商談は纏まった。
《ピピーピピー》
 社に戻る道は既に酔客が家路に着く時間だった。ポケベルを鳴らす課長は(もう帰るぞ)とでも言うつもりだろうか。
『もしもし・・・えぇ取れました、今から戻ります』
『よし、良くやった、戻らなくていいから先月行った駅前の小料理屋で待ってろ』
 成績の上がらぬ私を見かねて顧客先を密かに渡してくれたのがその店だった。
『おぅ、やれば出来るじゃないか、まぁ飲め、ほれ、ビールは酌をし合うためにある。だからそこには持ち方ひとつにも礼儀があるんだ。覚えといて損はないぞ』
(目下のものからはラベルを上にして右手は下側底の方、左手を注ぎ口近くに添えるように・・・か)
 生ビールやサワーになったのはそんなことが面倒になったからに違いない。

 そう云えばこの窓際の席に来て荷物を解いていたとき、若い社員たちが展示物でも見るように集まってきた。
『へぇこれがポケベルっすか』
 辞めていった者は会社に返したのだろうが、残ってしまった私の引き出しは、博物館のように遺物が残っていたもんだ。
『うわっこれTVで見たことある、スゲー』
 肩掛け式の初期型携帯電話の取扱説明書は古文書というところか。彼らが物心付いた頃はもう世の中に存在しなかった代物だが、たった30年前の事である。

 あの頃からやたらと時は早く動くようになった。ポケベルが鳴れば公衆電話を探し周り、携帯電話は日常にまで普及して、いつでもどこでも何時でも指示が飛び交い、極めつけはインターネットとメールにより会社には人間らしい会話や時間がなくなっていった。いや、会話や時間だけでなく《営業》と云う職種自体が必要なくなっていったのだ。
 一人欠け二人欠け、課長も部下も辞めていった。グローバルな世の中にはそんな会社を喜んで吸収するという外資系企業まで素早く育て上げていた。
 気がついたら役員の顔も変わり、昭和の男は私だけになっているようだ。

 西の空の茜色が紫に変わる。皇居は建物の輪郭だけを残して色を消している。
(あの日もこんな風景の中、課長は私の来訪を伝え『是が非でも契約してやってくれ』と顧客に電話していたのだろう)
 今はそんな人情など入り込む余地のない。ダイレクトに受発注が電波を介して繰り返される。例え無人の夜中であってもだ。
「お疲れ様っした」
 PCを閉じる電子音が各デスクから聞こえ始めた。私も定時退社を示すチェックを入れてPCを閉じた。
(さて、グラフを作りましょうかね)
 方眼紙の升を数えて定規を当てた。我が部各課は概ね順調な成績のようだ。楽になったように見えるが、今の連中も案外大変な仕事とプライベートに追われたりしているのかもしれない。



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このストーリーに関するコメント

14/11/01 光石七

拝読しました。
主人公の回想に昭和のノスタルジーを感じます。
便利な道具が普及して会社も営業もスタイルが変わり、世の中も変わり……
しかし、どんなに文明が進んでも変わらないもの、なくしてはいけないものもあるのではないか?
そんなことを思いました。
温かみのある主人公に好感が持てました。

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