W・アーム・スープレックスさん

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将来の夢
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適応

14/10/27 コンテスト(テーマ):第四十三回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1613

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 肉体はすでに、適応するための改造をおえていた。
 ギオンは、鏡にうつしだされた、みなれないわが身に、最初はとまどいがかくせなかった。
 一言でいえば、きわめて薄気味のわるい体といえた。
 なにより、ずっと固定しているというのが、ギオンには未経験だった。
 これまでの、柔軟で、伸び縮み自在の肉体のすばらしさが、しばらくは忘れがたかったのもそのためだ。
 こんな体の生き物でひしめいている星―――それこそが我々のあらたな世界となる惑星だった―――を、想像するといつも、ある種の不快感に気持ちがゆらぐのをギオンはどうすることもできなかった。
「ギオン」
 声をかけてきたのは、彼同様、数日まえに肉体改造をすませたヤーサカだった。
 ふいだったせいか、ギオンはおもわずぎょっと目をみはった。
「ふふふ、なれるまでが大変ね」
 ヤーサカは彼のとなりの椅子に腰をおろした。
「まったくだ。きみは、なんともないのか」
「とんでもない。わたしだって、最初のあいだは、頭がおかしくなりそうだった」
「それをきいて、安心したよ」
「ギオン、これもいまだけの話よ」
 ヤーサカはそういうと、通路のさきの扉に目をやった。
 その部屋の、分厚いスチール合金でおおわれた扉をギオンもまたみつめた。
「肉体改造のつぎは、精神の改造か………」
「しかたがないわ、それをしないことには、あの惑星で生きることは、到底できないんだもの」
 ギオンはだまってうなずいた。
 ふるさとの星は崩壊していまはない。遠大な計画の下、都市型宇宙船で次なる生息地をもとめて宇宙にとびたった我々カモガワン星人が、気の遠くなるような時間をついやして、恒星間を旅したはてに、ようやく新天地の惑星をみいだした。
 これまでなんども期待してはそのつど、失意とともにあきらめた星々はかぞえきれない。こんどこそというおもいが、ギオンをはじめ搭乗員全員の胸にやどっているのはまちがいなかった。
 しかし、乗り越えるべきハードルは高かった。
 綿密な調査の結果、大気やその他の生息条件は完全にみたされていることが判明した。 ただ、そこで生きてゆくためには、これまでの肉体ではあまりにやわすぎた。
 だがそれは、想定内のことだった。
 かりにも我々は、恒星間を移動するという高度な科学力を有した種族なのだ。肉体の不一致ぐらいでみすみす、移住可能とわかった惑星を、どうしてみすてることができるだろう。
 わずかな期間で、カモガワン星人の肉体は、根底から改造された。
 いまギオンが、またヤーサカがまのあたりにしている肉体がそれだった。
 いまはまだ不快をもよおすその外見も、これから生きていくうえには、必要不可欠のボディだった。
 惑星でいきてゆくために必要な言語や知識、法律、社会のルール等も肉体の改造時にすべて頭に刻みこまれていた。
 あとは―――
「精神の改造………」
 つぶやくヤーサカをみてギオンは、彼女もまた、じぶんとおなじ問題に直面していることをしった。
 肉体の改造だけなら、適応のために必要なのだと納得もいく。しかしそれだけでは、こんどの惑星では、生存できないという。
「ぼくたちは、侵略するんじゃない。そりゃ、惑星の先住民たちとのあいだに、争いはあるだろうけど、できるだけかれらのやりかたにのっとって、権利を勝ち取り、我々の主張を相手にみとめさせるために全力を尽くさなければならない」
 とギオンは、これまでいやというほど指導者からきかされてきた移住のための条件を、いままたじぶんにいいきかせるつもりもかねて、ヤーサカにむかってくりかえした。
「それはわかってるんだけど、そのために、わたしたちの人格が根こそぎかえられてしまうのだとおもうと、なんだか………」
 そのまま言葉をとぎらせるヤーサカに、ギオンは同感とばかり、大きくうなすいた。そしてなにかをいいけたそのとき、
「ギオン」
 通路のマイクに、じぶんの名をよばれて彼は、たちあがった。
「ヤーサカ………」
 こうしてよびかけるのも、これが最後かもしれないという予感にギオンは、こころから親しみをこめて彼女の名を口にした。
 きゅうに、どうしたのといった目でヤーサカは、彼をみかえした。がすぐ、彼女にも彼の気持ちが理解できたとみえ、なれない顔のうえに、本来のやさしい微笑をうかべてみせた。
 ギオンもそれに笑顔でこたえてから、精神改造室にむかってあるきだした。彼がちかづいてくるのをまちうけるように、分厚い扉がおもおもしげにひらくのを、通路のこちら側からヤーサカはみた。
 彼の次は自分だ。
 不安の下から、なにかえたいのしれない恐怖がうかびあがってくるのを、揺れ動くきもちでヤーサカは意識した。

 その日のうちに、ギオンとヤーサカの精神は改造された。 
 
 精神改造をへた連中はみな、当分の間は、隔離室にいれられた。そうでもしないことには、お互い同士で殺傷しあう危険が多分にあった。
 とくに改造室から出てまだ日の浅いあいだは、要注意だった。
 隔離ののち、感情面に不安定なかれらは、ちょっとしたことで興奮したり、激情的になったりして、いろんなところでトラブルをおこした。
 いちばんの変化は、精神改造するまえのかれらには想像もつかないほど、おそろしく闘争的になったところだろう。
 おもいやりぶかく、弱者には手をさしのべ、なにより平穏を好んだカモガワン星人の性格はみじんもなくなり、改造後はじぶんの利益のためには平気で他者をけおとすようなエゴイストにさまがわりしていた。
 ギオンとヤーサカにしてもそれはおなじで、いまの二人にはきわだって排他的な敵意がみなぎり、必要なこと以外のやりとりはいっさいなく、それどころかすきあらばといった油断のなさがつねにその身にみられるようになっていた。
 惑星におりたつ日までに、その性格も少しは抑制がきくようになるものの、なにかのはずみでいつ、狡猾で凶暴な感情に気持ちが煽られるかはだれにもわからなかった。
 ただ、そのぐらいの気持ちがなければ到底、惑星上で生きていくことは不可能なので、先住民たちと今後、どのような関わり合いをするかは実際、いちかばちかの賭けにもひとしかった。
 

 ギオンは、母船からはなれてひとり、カプセル型宇宙艇で惑星にむかっていた。
 周囲にもおびただしい数の艇の姿があった。その中には、ヤーサカもふくまれているだろう。
 地上におりたったら、艇は自然消滅し、もはや二度と母船にかえることはできなかった。あとは自力でやっていかなければならない。この体と、この精神を武器にして………。
 

 ギオンはかたく唇をかみしめた。
 

 周囲をとりかこむ透明の窓から、あと数時間後におりたつ惑星の全貌がながめられた。
 艇の窓の、ほぼ一面にひろがる惑星の、その青々と輝く、あまりにも美しい姿をみているとギオンのなかに、精神を改造するまえの名残ともいえる、冷静で沈着なものの見方がふとよみがえってきた。
 ―――いまみえる、あの惑星の住民を相手にするのに、わざわざ体を改造し、あまつさえ心までとげとげした、残忍で酷薄なものにほんとうに、変える必要があったのだろうか………。
 あの魅惑的な惑星の上に、凶暴で、殺戮をこのむ種族がすんでいるなんて、とても信じられなかった。
 彼がその疑問をふりきれないあいだも、青々とした水にかこまれたなかに浮かぶ、弓なりにそったような形の島にむかって、片道切符の艇は、着々と速度をましつつあった。


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