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えのまりやさん

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ペングィンズ・ドクトリン

14/10/26 コンテスト(テーマ):第六十八回 時空モノガタリ文学賞【猛スピードで】 コメント:3件 えのまりや 閲覧数:1654

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 父さんは氷の崖から海に飛び下り自殺した。僕の一族は何故かペンギンのなかでも特別寒がりだ。皮下脂肪が少なく、地表からの寒さを逃れるため、足の関節を伸ばせるようになり、異様に長い足をしている。でも、僕と違い、父さんは皆とうまくやれていた。だから、不思議だ。

 友だちのちっちゃなペンギンと遊んでいると、親が来てその子を呼んだ。あの子と遊んではいけない、そう注意しているのが聞こえる。奇妙な見た目、寒がり、だから潜水時間も短い。僕がのけ者にされる理由には十分だ。
「違うというのは、特別、ということなんだ」
 ありのままを誇りなさい、オオオットセイがそう教えてくれた。確かに僕は特別かもしれない。それに、周りと同じように群れて、周りと同じような行動をとる彼らを見ていると恐怖感を覚える。どうして同じである事に平気でいられるんだって。でも、僕は彼らよりも弱く、醜い、これは本当の事だ。

 僕は皆の食事を離れたところで見ていた。海に飛び込んだり、海から飛び上がったり、たくさんのペンギンが行ったり来たりしている。そこで僕は違和感を覚えた。遠くの海面に黒い模様が波打っている。僕は足を延ばし、さらに何度もジャンプした。胸が凍り付いた、あれはシャチだ。
「シャチだ、シャチが来る」
 僕は叫んだ。何匹かが首を伸ばし海に目をやる。シャチを発見できず、僕が嘘をついていると嘲った。しかし大半のペンギンは、シャチ、という言葉そのものに反応し、パニックのように氷の上に避難した。数匹はその様子を笑いながら見ていた。突然の波しぶき、海が揺れ、小山のようなシャチが現れ、二匹がその牙に捉われた。冷たい水の中に引きずり込まれ、じんわりと、煙る霧のように血が浮かんできた。
 怯えたペンギンたちが皆、僕を見ていた。

 いつものようにみんなが食事をしている。僕の前にはオキアミが数匹。この間のお礼に、皆がとってきてくれたのだ。ありのままを誇りなさい、その言葉を思い出す。僕の奇妙な体が役に立つことがわかり、あの日以来僕は監視役を務めていた。少しだけ皆から受け入れられるようになった。
 ふと僕は睨まれている事に気付いた。友達のお父さんだ。未だ認められていないのだと悲しくなる。僕は思わず顔をそらした。海に目をやり監視を続ける。その時、遠くにシャチの影を見つけた。僕はまた叫んだ。まだ遠い、間に合いそうだ。皆が僕の声に氷の上へと飛び上がった。安心していると、さっきのお父さんが、羽をばたつかせて海を覗き込んでいる。聞いてみると、まだ子供が上がってこないというのだ。シャチはすぐそばまで来ている。目を凝らすと、ようやく見つけた、僕の友達がシャチの鼻先を、何とか逃げ回っている、今にも追いつかれそうだ。僕は全身の羽が震えた。恐怖と共に、興奮があった。これなんだ、このためだったんだ、そう思った。僕は迷わず海に飛び込んだ。どんな生き物よりも速く、星が流れるみたいにシャチの視界に飛び込んだ。シャチはとっさに、近くの僕に顔を向けた、僕はシャチの周りを素早く泳ぎ回る。速さと細かな動きに、シャチはついて来られない。冷たい水は苦手だけれど、僕の体は誰よりも速く泳ぐ事に適していた。友達が氷に上がるのを確かめて、僕もシャチから離れ水面を飛び出した。氷に上がっても興奮はおさまらなかった。ふと顔を上げると、友達とそのお父さんがいた。僕にお礼と謝罪を、何度も繰り返した。僕は驚きと共に、ぼんやりとその様子を見ていた。

 僕は皆から受け入れられた。今でも寒さは苦手だけれど、その弱さがそれほど苦痛じゃない。特別っていうのは痛みを伴うもので、でももし特別なまま生きられるのなら、それはとてもすごいことなんだと、そう気づいた。僕は誰とも違う、誰とも似ていない、だからこそ、僕は唯一の存在なんだ。
 皆の顔を思い出しながらのんびりしていると、久々に父さんの友達だったワタリドリが遊びに来た。僕は父さんがいなくなった日以来の近況を話した。そして少しだけ、自分の弱さをこけおろした。今ではそれが、堂々とできた。ワタリドリはそんな僕を励ましてくれた。
「気にするなよ。俺は世界中廻ってるが、寒がりのペンギンなんてよそでは珍しくもない。親父さんにも言ったが、体が細くて寒さが苦手、なんてのはいくらでもありふれてるんだ。気にするなよ、元気出せ」
「はは」
 僕は笑うことしかできなかった。それからワタリドリを残して歩き出した。僕は僕自身の弱さにまつわる堪え難かった苦痛や、受け入れられた時の痺れるような喜びを思い出していた。
 そうだったんだ。なぜ父さんが飛び降りたのか今やっとわかった。
 僕は崖へと向かった。


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このストーリーに関するコメント

14/10/29 草愛やし美

初めまして、えのまりやさん、拝読しました。

仲間と違っていることが有利になり、仲間を救う、役立つものになった。きっと、見る方角を変えるとなんでもそういうものかもしれませんね。不得意なことや、違っていることも誇れるものだったりして、生きて行くことって、偏っている場合あります。でも、きっと、凸と凹が組み合わさって、四角いものを形成できるように、全てがそういうものなのかもしれませんね。とても良い話で面白かったです。

どんなペンギンさんなのかなあと興味持ちながら読み終えました。笑顔

14/10/29 えのまりや

 あまり知られていませんが、ペンギンは足首から上の関節を脂肪の下で屈折しており、そのまま固定されている、のだそうです。
 コメントありがとうございます。

14/10/31 黒糖ロール

拝読しました。
前作も読ませていただきましたが、どちらも素晴らしいと思いました。
濃厚な文学の香りがします(笑) 面白かったです。

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