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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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ピンポン小僧

14/10/24 コンテスト(テーマ):第六十八回 時空モノガタリ文学賞【猛スピードで】 コメント:22件 泡沫恋歌 閲覧数:4980

時空モノガタリからの選評

これは「猛スピード」というにふさわしい作品ですね。典型的な中間管理職サラリーマンの姿がどこか滑稽でありながらも悲壮感はなく、逞しささえ感じます。また家庭や会社のエピソードに説得力があり、物語の軸がしっかりしていると感じました。人々を煙に巻く「俺」の姿は、肩書きや世間体に囚われた人々を嘲笑しているかのようで痛快です。

時空モノガタリK

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 この一瞬のスリルに俺は全てを賭ける。
 各家のチャイムを押して回ると、誰にも見つからない内に、疾風の如くに逃げ去るのだ。単純なイタズラだけに面白くて止められない!

 希望退職を募っていたので、このまま働き続けても出世も昇給も望めそうもない俺は退職金20%上乗せという言葉に思い切って決めた。自分一人の判断ギリギリまで家族には黙っていた。
 まだ五十五歳、次の仕事はすぐに見つかると高を括っていた。
 下請会社の社長が酒の席で、『うちの会社に貴方みたいな人材が来てくれたらね。退職したら働いてください』と言われていたので、その会社に再就職のつもりだった。いざ、退職が決まって就職を頼みにいったら……今は人が余っているので要らないと素っ気なく断わられた。これは宛てが外れた、酒の席でのオベンチャラを真に受けた俺が馬鹿だった。
 勝手に会社を辞めたので、妻の機嫌は最悪だ。
 口を利かなくなった。飯は作らない。小遣いも減らされ、俺が購読していた新聞まで止めやがった!
「まだ定年でもないのに家に居られたら世間体が悪いわ。近所には病気で休職中って言ってるけど、早く仕事みつけてよ!」
 怖い顔で妻に言われたが、すぐに仕事はみつからない。
 ハローワークに何度も足を運んだが、中高年の事務職求人は極端に少ないのだ。この歳で肉体労働は嫌だし……退職金もあるのだから、少しのんびりしたかった。 
 早期退職をしたからといって、なぜ責められなければならないのだ。前の会社で三十年間働いたではないか。家のローンも完済したし、息子二人も大学を卒業して就職をしている。
 長い間の中間管理職で心身ともに消耗していた自分を楽させてやりたかっただけなのに……。ここまで家族に冷遇されるとは思ってもみなかった。
 無職の夫と一緒にいると、イライラしてストレスが溜まると不機嫌な妻は、やれカラオケだ、やれ同窓会だ、元ママ友の女子会だと外出が多くなった。

 それに比べて、この俺は会社を辞めて無職になった途端、友達付き合いもなくなった。
 家に居ても退屈だし、運動不足なので犬を連れて散歩するが、近所の人に見られないように気を使いながら……。
 そんな時に見たのが、小学生の男の子が各家のチャイムを押して回っていた。
 そして猛スピードで逃げていったら、チャイムを鳴らされた家から人が次々出てきて、門の前でキョロキョロ、誰もいないことが判ると、みんな狐につままれたような顔して引っ込むのだ。――その姿が滑稽で思わず笑いこけてしまった。
 憂さ晴らしにピンポンダッシュやってみようかと思った。いい運動になるぞ、昔から逃げ足は速いと言われてきた俺だ。
 いきなり猛ダッシュで走っても足がもつれないようにストレッチは欠かせない。アキレス腱を切ったらお終いだ。毎朝、ラジオ体操にも参加している。
 そうやって体調を整えて、家から少し離れた古い家が立ち並ぶ一角で、チャイムを鳴らして回った。なぜ、古い家かというと最近のインターフォンはカメラが付いてるし、中にはメモリー機能もあって、何時にチャイムを鳴らしたか画像を残すからだ。俺はシンプルな呼び鈴しか付いてない家を狙った。
 そして週に何度か犬の散歩に行く振りをして、公園に犬を繋いだまま、物色した古い家ばかりを狙ってチャイムを鳴らして回った。『ピンポン小僧参上!』そんな名刺まで作ってポストに投げ入れた。
 ある日、昼飯を買うのにスーパーに行くと、主婦が立ち話をしていた。
「チャイムが鳴って出たら誰もいないのよ」
「あらっ? お宅も。うちも先日あったわ」
「ピンポン小僧参上とか紙が入ってて、ホント気味が悪い」
 巷で俺のことが噂になっている。いよいよ面白くなってきたぞ。

 その日も俺はマスクを付け、サングラスをかけ、帽子を深く被ると家々のチャイムを鳴らして回った。人々が出てくるのを電信柱に隠れて笑っていたら、いきなり背後から肩を掴まれた。振り向いたら警察官が立っていた。
「不審者がうろついていると通報があった」
「えっ!」
 俺のことか?
「氏名、年齢、住所、それから職業は?」
 いきなり職務質問されたが、俺は無職だ。どうしよう、無職というのは印象が悪すぎる。無職の男が少女にイタズラとか、無職の父親が幼児を虐待とか……無職は最悪だ!
「お、俺はピンポン小僧だ」
「はあ〜?」
 呆れ顔の警察官、その制服の胸ボタンを押した。
「ピンポ―――ン!!」
 そう叫ぶと、猛ダッシュで駆け出した。
「おい止まれ! 止まるんだぁ―――!!」
 警察官の制止を振り切って、俺は猛スピードで走り続けた。俺は無職じゃないぞ、ピンポン小僧だ! 
 その時、前方から疾走してくる自転車が見えた。目前に迫る自転車、背後から警察官が追ってくる、逃げ切れるか、この俺!?


 ピンポ―――ン!!


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このストーリーに関するコメント

14/10/24 泡沫恋歌

写真は自撮したものを加工しました。

こういうチャイムは最近見かけなくなった。

14/10/25 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、拝読しました。

会社辞めたらただのおじさん。おじさんは辛いよ、ですね。
そんなストレスがピンポンダッシュに彼をのめりこませたのでしょうか。
早くまっとうな社会人に戻られることをお祈りします(笑)

14/10/26 夏日 純希

職業ピンポン小僧ですね。えぇ、わかります。
・・・って、苦しいでしょそれ(笑)

ピンポンダッシュとか昔やりましたねぇ。今思えばなんて迷惑なことしてたんでしょうね・・・。懐かしくて楽しかったです。

14/10/26 草愛やし美

泡沫恋歌さん、拝読しました。

世の中、全ての人に優しいとは限りません。人生の全てが楽しい幸せな時ばかりでもありません。ダメよダメダメと呟きながら読み終えました。苦笑

就職先が玄関口?だったんですか、きっと彼は、学生時代、ランナーとして、ブイブイならした人だったのでしょう、そう思います。
私の子供時代にピンポンなんて洒落たものなかったので、やったことないですが、スリルがあってやめられないのかもですね。家、決してやりたかったなんて言ってませんよ。((ヽ(゚〇゚;)オロオロ(;゚〇゚)ノ))苦笑

14/10/26 クナリ

子供の話かと思って読み出したら、次いで出て来る「早期退職」の言葉にカウンターをいただきました…!
この作品の見どころは、主人公が最後に陥ってしまう状況やオチの面白味ではなく、むしろ主人公が
ピンポン小僧と化してしまうまでの描写にあると思います。
仕事を辞めたら友人関係が無くなるとか、すぐに再就職できるつもりだったのに叶わないとか、やたらと
リアリティがあり、彼のいたずらへの過程がわかりやすく。
実際、初めて離職して、職業訓練などに通われる五十代前後の男性の再就職への見当は、大変甘いと
聞きますしね…おっと、話が暗くなってしまいました(^^;)。
コメディタッチで描かれていますが、リタイア後の人生というものについて、生きがいとか社会への
関わり方とか、実はかなり現実的なところを突いている話ですよね。

14/11/01 鮎風 遊

スリル満点、逃げ切れるか。
ここまで熱中できるその熱意、
他に使い道はないのかな?

ないのだろうなあ。

最後のピンポ―――ン!!  が哀愁漂い、と良かったです。
明日からピンポンオヤジになろうかな。

14/11/01 鮎風 遊

スリル満点、逃げ切れるか。
ここまで熱中できるその熱意、
他に使い道はないのかな?

ないのだろうなあ。

最後のピンポ―――ン!!  が哀愁漂い、と良かったです。
明日からピンポンオヤジになろうかな。

14/11/01 鮎風 遊

スリル満点、逃げ切れるか。
ここまで熱中できるその熱意、
他に使い道はないのかな?

ないのだろうなあ。

最後のピンポ―――ン!!  が哀愁漂い、と良かったです。
明日からピンポンオヤジになろうかな。

14/11/01 鮎風 遊

すいません。
繋がりが悪く、何回もクリックしたら、
上の3つもの投稿になってしまいました。
ゴメン。

14/11/04 たま

恋歌さま、拝読しました♪
いいですね、恋歌さんの持ち味というか、この目線は戦う武器になります。職を手離した50男の悲哀がすごくリアルで、思わず引いてしまいます。もちろん、ぼくが男だからです^^
それを女性が描くのは相当な力です。ふしぎな人です。恋歌さんって。

14/11/05 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、コメントありがとうございます。

会社人間の男性から仕事を奪ったら屍同然ですよ。
女と違って、順応性がないから新しい楽しみを見つけられない人も多いようです。


夏日 純希 様、コメントありがとうございます。

職業を無くして、無職になった主人公は新たな生きがいとして、
ピンポン小僧という職業を創ったのです(`・ω・´)ハイ!


草藍 様、コメントありがとうございます。

「就職先が玄関口?」この突っ込みに笑ってしまった。
((ヾ(≧▽≦)ノ゙))ギャハハ☆((*`m´))ツ彡☆バンバン♪
たしかに、家々の玄関のチャイムを鳴らして走って逃げるという迷惑な職業です。

14/11/05 泡沫恋歌

クナリ 様、コメントありがとうございます。

実際、無職のおじさんたちの日常をかいま見ることがあります。
女性は年取っても溌剌としてる人が多いのに、男性はリタイヤ後は急に無気力になって
引き籠ってる人も多い。
就職したいけれど、プライドが邪魔してブルーカラーは嫌だという元管理職の方も多いようです。


鮎風 遊 様、コメントありがとうございます。

ピンポ―――ン!!  ピンポ―――ン!!  ピンポ―――ン!!  

鮎風さん、ピンポン押し過ぎですよ(*≧m≦*)ププッ
すでに「ピンポン小僧」化しちゃってますよ( VェV)σアンタ


志水孝敏 様、コメントありがとうございます。

こんなことを生き甲斐にしてもいいかどうか?
迷惑なおじさんですが、これでも必死に生きてるのでしょう。

14/11/05 泡沫恋歌

たま 様、コメントありがとうございます。

どういう訳か、おじさんとか、おばさんとか・・・
実も華もないキャラクターを描くと、やたらリアリティーが出てて共感できるといわれます。

若い時から、今も働いてますが・・・社会と関わってきたお陰で、そういう人たちの
よく気持ちが分かって、文章にしやすいのは確かです。
もしかして私自身が、おじさん化してる証拠でしょうか?

14/11/07 黒糖ロール

ピンポンおっさんとは愉快ですね。
放火とかじゃなく、比較的無害なものでよかった(笑)
ただ、いたずらもほどほどにと思ってしまいましたw

14/11/08 坂井K

読中は苦笑いして、読後には哀愁感じ目が潤む。――そういう感じでした。

14/11/12 泡沫恋歌

黒糖ロール 様、コメントありがとうございます。

しょせん、小心者の男なので「ピンポン小僧」が精いっぱいの
反社会的行動だったと思いますよ。
最後に主人公が逃げきれたかどうか心配ではあります。


坂井K 様、コメントありがとうございます。

この主人公は現代の中高年の抱える問題、就職難やら家庭に於ける存在感やらを
自分なりに描いたつもりです。
仕事柄、ご家庭に訪問したりするので、お父さん方の日常も目にすることが多いです。
そう言う所から参考にして、この作品に仕上げました。

14/11/19 ドーナツ

拝読しました。

仕事にありつけないオヤジの哀れさがひしひし伝わってきます。

ピンポンダッシュしてるオヤジさん ものすごく 絵になる光景です。コメディの中に悲哀色がどっぷり。この作品からただようふんいき凄く好きです。

人生、思い通りに言ったらいいけど、中々そんな風にはいかないし。
でも、このおじさん、玄関でピンポンダッシュしてるうちに 其の道のすごいプロになっちゃたりして(^^  

はやく良い仕事が見つかりますように。こういう叔父さん凄く親近感覚えてしまう。って自分も子供の時やったんで。





14/11/19 泡沫恋歌

ドーナツ 様、コメントありがとうございます。

仕事を無くして無職になった、おじさんの悲哀がヒシヒシと伝わったようで良かったです。
男の人って、肩書をなくしちゃうと何だか無気力になってしまうのかも知れませんね。
せめて「ピンポン小僧」という肩書だけでもあげたい気分ですよ(笑)

14/12/02 泡沫恋歌

時空モノガタリK 様

この度は時空モノガタリ賞、ありがとうございます。

早期退職したがために、家族から冷遇されていた主人公が新たな生きがいとして「ピンポン小僧」へと変化していく過程を面白く描くことができたと思います。

おじさんの悲哀を描くと何故か筆が走る泡沫恋歌です。

これからもどうぞ宜しくお願いしますO┓ペコリ

15/01/03 泡沫恋歌

猿川西瓜 様、コメントありがとうございます。

どうも、初めまして♪o( _ _ )o
中高年の事務職の求人が少ないと聞いていたので、管理職だったおじさんたちは
再就職がなかなか難しいというのが現実みたいですよ。

どっち道、若者も派遣の仕事ばかりで厳しい現実です。
早く、昭和の頃のように「終身雇用」という夢のようなことになるように
祈るばかりです。

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