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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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刻み込まれた悪夢

14/10/20 コンテスト(テーマ):第六十九回 時空モノガタリ文学賞【 無題 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1844

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 ドナが市内をパトロールしているとき、艇内にナビの声がひひきわたった。
「千手ガニ出現」
 画面上に、千手ガニをあらわすイガイカの輪郭がA地区の東にあらわれたのをみたドナは、すかさずA地区めざしてパトロール艇を飛ばした。
 ほとんど一瞬に移動した艇の前方に、不気味な紫色をした巨大な千手ガニが認められた。
 収縮と拡大を繰り返す千手ガニのその、無数の触手には、からめとられ、身動きもできない人間たちの、苦痛に歪む顔が見えた
「ドナ………」
 消え入りそうな声で彼の名を呼ぶものがあった。
 不吉な予感にうながされてドナは、千手ガニに捕えられた一人に目をやった。
「ルキィ」
 千手ガニの肢に半ば遮られながらも、その黒長の髪、切れ長の目はまちがいなくルキィだった。
 ルキィは、ドナとおなじ守備隊に所属する職員で、彼女の担当はこの世界の謎の解明だった。千手ガニがなぜ突然地上に出現し、人々に襲いかかるのか、答えはだれにもわかっていなかった。
 現れれば、攻撃する。しかしいくら攻撃しても、千手ガニはいっこう減少しないどころか、むしろいっそう数を増す傾向にあった。まえにルキィがこんなことをいったことを彼はおもいだした。
「虎穴に入らずんば虎児を得ずよ」
 そのときのドナは、彼女がいったいなにをいおうとしているのか、よくわからなかった。
 しかしいま、カニにとらわれた彼女をまのあたりにして、その意味がようやくわかったような気がした。ルキィは、千手ガニの正体を見極めるために、みずから怪物に接近し、そして、囚われてしまった模様だった。
「ルキィ、いま助けるからな」
 ドナは、光線銃のメモリをマックスにあわせると、千手ガニにむかって撃った。ほとんど同時にカニの触手が数本、まばゆい炎をあげて燃え上がった。
 ドナがさらに攻撃をしかけようするのを、遮るようにルキィがいった。
「むだよ。千手ガニは死んでも、またよみがえる」
「しかし、きみをこのまま見殺しにはできない」
 ルキィの答えは、おもいもよらないものだった。
「わたしもまたよみがえるわ」
「なにをいってるんだ」
「私たちは、無限に継続しつづける存在なのよ。あなたも、私も、ほかのすべての人々も」
「いっている意味がわからない」
「それがわかるためには、あなたも、千手ガニに身を投げ出すことよ」
「なんだって」
「この命が、もう助からないとわかったとき、私の中にひらめくものがあったの。それは、口では説明できないもので、あなた自身が自分をすてて、ここにとびこんできてはじめて、わかるものなの」
 ききながらドナは、あるいは彼女は、すでに千手ガニの一部と化して、こちらをたらしこむつもりで、あんなことをいっているのではという疑惑にとらわれた。
「さあ、はやく、こちらにいらっしゃい」
 ルキィの誘いに、心を奪われながらもドナは、懸命にその気持ちと戦った。まだマックスのままの銃を握りしめる手が、はげしくふるえだした。
「それで撃っても、解決にはならない」
 ドナにも、それはわかっていた。ここで千手ガニを殺したところで、すぐまたあらわれる。それに、これまで多くの犠牲者がでたにもかかわらず、人間の数は減少していない。もしかしたら、人間もまた、すぐまたあらわれるのではないだろうか。ルキィはいった。無限に継続しつづける存在だと。それはいったい、どういう意味なのだ。我々はどこからきたのか。我々はいったいなにか。我々はどこに行くのか………永遠の疑問が彼の頭の中で空回りをはじめた。
 気がついたらドナは、じぶんのこめかみに銃をつきつけていた。
 彼は本気だった。このままわからないでいくよりは、死という、これだけははっきりした決着を、自分の自由意志で選びたかった。
 そのとき、なんだか無数の螺旋状を描くものが、どこまでも、どこまでも続いている光景が、彼の意識の中に浮かびあがった。さっきルキィがいった、無限に継続しつづける存在としかいいようのないものが、突然彼の感覚にひびいてきた。

 膨大な遺伝子情報を積載した宇宙船はいま、恒星間を移動中だった。
 目的地はアルファケンタウリにあるひとつの惑星。生物の生息に必要な条件は確認されている。
 故郷の惑星はすでに滅びてない。人々の狂気が、高度に築きあげた文明を握りつぶしてしまった。残ったわずかな正気が、他の天体への遺伝子移動計画を立て、実行した。人体の移動は、こと恒星間においては不可能だった。
 何万年にもおよぶ旅も、ようやく終わりをむかえようとしていた。
 あらたな惑星の上で、あらたな生命の歴史を刻みはじめることの、期待と歓びははかりしれなかった。
 遺伝子たちは、夢が終わりをむかえるのを、無意識にこころまちにしていた。
 遺伝子に刻みこまれた、ながいながい悪夢が覚めるそのときを。




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このストーリーに関するコメント

14/10/20 クナリ

はたしてこの絵から、どんなインスピレーションを得られたのか…と思いながら読んでおりましたが、展開にぶいんぶいん振り回された感じです(^^;)。
それにしても、宇宙船という密閉空間は、なにげにホラーに向いた素材だな…という発見がありました。

14/10/21 W・アーム・スープレックス

テーマのイラストから、生命の基本情報をストックしたDNAを思い描いたのですが、できたものはB級ホラーに毛がはえたような作品になってしまいました。私はだいたい案に詰まると、宇宙に飛び出すくせがあるのですが、今回はイラストの世界にわりとすなおにはいれて、すんなり書けました。
コメントありがとうございました。

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