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夏日 純希さん

名前は「なつのひ じゅんき」と読みます。誰かに届くなら、それはとても嬉しいことだから、何かを書こうと思います。 イメージ画像は豆 千代様に描いていただきました(私自身より数億倍、さわやかで、かっこよく仕上げていただきました。感謝感激) Twitter(https://twitter.com/NatsunohiJunki) 豆 千代様 HP:MAME CAGE(http://mamechiyo555.tumblr.com/?pagill )

性別 男性
将来の夢 みんなが好きなことをできる優しい世界を作ること。 でもまずは、自分の周りの人を幸せにすること。
座右の銘 良くも悪くも、世界は僕に興味がない。(人の目を気にし過ぎてるなってときに唱えると、一歩踏み出せる不思議な言葉)

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月と星だけに

14/10/20 コンテスト(テーマ):第六十七回 時空モノガタリ文学賞【 秘密 】  コメント:8件 夏日 純希 閲覧数:1086

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今ケイコが欲しいものは――だ。
こんな風に、ヘキルには好きな人の欲しいものがはっきりとわかった。ただ、それは便利だけど万能でもなかった。
チョコレートが、ひと時の幸せを運べても、虫歯を治せないのと同じように。

 ◇

「いってきまーす」

ヘキルは扉を閉めて外へ飛び出すと、秋をまとった朝の寒さが足元から上ってきた。「寒いし走ろっかな」思考と行動がリンクしてすぐに通学カバンを片手に駆け出した。向かうは幼馴染のケイコの家だ。

ケイコの家はそびえ立つとも形容できそうな位の豪邸だ。上品に備え付けられたインターフォンをへキルは押して、控えめにカメラを覗きこんで反応を待った。ケイコは今日も寝坊助だろうか? 昨日のことで聞きたいことがたくさんある。ヘキルは、はやる気持ちを抑えきれないでいた。

「ごめん、今日は学校休む……」

インターフォンから聞こえてきたケイコの声は、明らかにしおれていた。しかも、病気というわけでもなさそうだ。ヘキルは口まで出かけた言葉を飲み込み「わかった。じゃあまた明日」という言葉だけを残して学校へと向かった。

ケイコが今欲しいのは一人の時間だ。いつものようにヘキルにはそれが分かった。

 ◇

一昨日の土曜日、ヘキルはケイコと買い物に来ていた。次の日はケイコの彼氏の誕生日で、プレゼントを決めかねたケイコのアドバイザーがヘキルの役割だった。幼なじみの特権でこうして一緒に買い物には出かけられる。これは幸運だろうか?

でも、どうしてケイコの彼氏を喜ぶものを一緒に選ばなければならないのだろう?

……。

ケイコの幸せを願うからに決まっている。ヘキルは、苦い薬を流し込むように、気持ちを胸の中に押し込んだ。

小規模な若者向けの百貨店で、秋物のカーディガンでも買うのが無難そうなので、物色を続けていたが、ケイコが手に取るものの値段に“身分”の違いをいちいち痛感させられる。普通の高校生のプレゼントと桁が一つ違う。

ケイコの彼氏も同じような経済水準だというから、これくらいのものは必要なのだろう。が、ヘキルからすれば商品に触れるのさえ躊躇われるほどだった。

「これだったら喜んでくれるかな?」

声を弾ませながら、あれやこれやとケイコは尋ねてくるが、さっぱりわからなかった。へキルにわかるのはあくまでもケイコの欲しいものだけだ。苦笑いもほどほどに、プレゼント選びは基本的にケイコに任せることにした。

へキルはトイレだと嘘をついて店を抜け出し、近くの別の店でブラウンのシンプルなバレッタを手早く購入した。先ほど通りかかった時にケイコが欲しいと思ったものだ。それは決して高価なものではなかった。

その日の別れ際、バレッタを手渡すとケイコは小さく跳ねて喜んでくれた。
へキルの胸に喜びが咲いて、そして、すぐに悲しみ色が交じる。

ケイコが望むものなら、なんだってあげる。
そう、あげられるものならなんだってあげるのに……
どうしてこんなにも、あげられないものばかりなのだろう?

 ◇

ケイコが学校を休んだ日の晩、ヘキルはケイコに呼び出されて近所の公園に向かった。ケイコは儚げにブランコに揺られていた。その後ろ姿は、今にもしぼんで消えてしまいそうだった。へキルは一つ深呼吸をしてから、ケイコに歩み寄って声をかけ、正面にまわって話に耳を傾けた。

「私はもういらないんだって。ひどいよね」

へキルが欲しくて仕方のないものを、ケイコの彼氏は捨てるという。感情のタガが一瞬外れる。そんなことなら自分がケイコを……ケイコを?

ケイコにこれ以上何が出来るというのだろう?

ケイコと結ばれたいなんて決して望んではいけない。世間体とかしきたりとか、古い考えで凝り固まったこの国で、自分がケイコと結ばれることなど許されるはずがないのだから。もしそれが叶ったとしても、それはケイコを不幸にするだけだ。

ケイコにだってそんなつもりはないだろう。気持ちを知られることすら許されない、舞台にさえ上がれない自分には……ケイコを救うことなどできやしない。

今、ケイコが一番欲しがっているのは、友人としての優しい抱擁だった。
けれど、ケイコの体の後ろに回りかけたへキルの手は、軌道を変えてケイコの頭の上にポンとおさまった。

この震えた手でうまく元気づけられるだろうか?

「大丈夫、泣き終わるまで、一緒にいてあげるから」
へキルがあげられるのは軽い痛み止めだけだ。ひとときで消えてしまう偽物の癒し。
それでも、しばらくするとケイコの気持ちは少しだけ持ち直したようだった。

「へキルは優しいね。ヘキルが男の子だったらよかったのに」
ケイコは冗談っぽく言った。

「……そんなの、私もずっと前からそう思ってるよ」
ヘキルは夜空を見上げ、月と星だけに聞こえるようにささやいた。


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このストーリーに関するコメント

14/10/20 泡沫恋歌

夏日 純希 様、拝読しました。

友達の彼氏のプレゼント買うのに付き合って・・・自分も経験あるけど、ええ加減にせえーと言いたくなる。
それって相手がお人よし過ぎて可哀想やで・・・。

ちょっとしょっぱい青春模様だけど、この二人が友情から先へ進むのは難しそうですね。

月と星に願いを込めて、ハッピーエンドになりますように♪

14/10/21 滝沢朱音

夏日さんこんばんは。読ませていただきました☆

「どうしてこんなにも、あげられないものばかりなのだろう?」
…すごくいいですね、好きです、この一文。切なくて。

秘密。
そっか、女の子だったのかー
ヘキルって名前、いいですね。うっかり最後までやられちゃいましたw

14/10/21 草愛やし美

夏日純希さん、拝読しました。

ラストでようやく事情がわかりました。友達以上も未満も、ない世界ならと何度も思われたことでしょう。
ほんと、心というものはやっかいなものです。特に人を愛する、恋焦がれる心は簡単に割り切れるものではないでしょう。
それでも、傍にいられるだけでも、何かできることがあるというなら、それでも良いほうなのかもしれません。存在も消さなければいけない事態にならないように、切ないでしょうが、友情を大切にと思います。

14/10/21 夏日 純希

泡沫恋歌さん

泡沫恋歌さんは普通に読み終わっていただけたのかな? と思います。
そういう風に読んでくれて、しょっぱく感じてくれる方が
半分弱くらいいればなぁと思っていたので、少しほっとしました。
恋愛鈍感はほんと残酷ですよね。ありがとうございました。


滝沢 朱音さん

滝沢さん、ボンソワール!(←多分こんばんはという意味です)
わかっても、あげられなきゃ余計つらいだけだよなぁ・・・と思いつき、
あと、性別トリックも一度はやってみたかったんですが、
普通にやって読後に作者のどや顔が連想されるのは避けたくて、
性別トリックだけが引き立てられるストーリーが必要だなぁ
と思って考えたらこんな形になりました。

トリックは、うまく引き立て役に徹していてくれることを祈りつつ、
もちろん引っかかったのを楽しんでいただくのも一興なので、
やっぱりバランスが難しいなと感じつつ(笑)

結局のところ、何はともあれ楽しんでいただければ、嬉しいです。
コメントどうもありがとうございました。


草藍さん

草藍さんのコメントの後で自分の作品を見直すと、
あら不思議、なんだかもっと奥の方が見えてくるんですよねぇ・・・。
魔法のコメントです。

ほんとは同性でも自由に恋愛できたらいいんですけど、
日本はこういうとこ、すごく遅れてますよね。
まぁ割り切るのが難しいのもわかりますし、
自分が全く偏見ないかと言われると、正直、自信はないんですが・・・。

人間の感情って、ほんと複雑怪奇ですね。
コメントありがとうございました。

14/10/22 そらの珊瑚

夏日 純希さん、拝読しました。

思春期の女の子のデリケートな恋心、それが女同士だというだけで
秘密にしなければいけないって、切ないですね。
この恋は実らなそうな気がしますが、いつか振り返って
いい思い出になっていたらいいなあって思いました。

14/10/23 夏日 純希

そらの珊瑚さん

コメントいただきありがとうございます。
切なさがうまく出せていると嬉しいです。
多数決の世の中で、少数派って幸せになれませんよね。
みんなそれぞれ幸せになる権利があるのに・・・ほんと難しいですね。

14/10/25 黒糖ロール

うぉぉ。切ない百合とチョコレートの香りが素敵ですね。
男なので純粋に楽しんでしまいました(笑)

14/10/26 夏日 純希

黒糖ロールさん

コメントありがとうございます。
楽しんでいただけたようで、とても嬉しいです。
百合って男が楽しむもんなんですか(笑)?

チョコレートってほんといいですよねぇ。
比喩に使うとなんかすごく生きるような気がします。

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