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yoshikiさん

面白い作品を知り、自分でも書いて見たくなって何年も経ちました。よろしくお願いします。 2010年 小説現代S&Sコーナーに初めて送った作品が掲載されました。作品名『幽霊の見える眼鏡』 とにかく面白いものが書いていけるといいなと思っています。 イラストはエアブラシと面相筆で昔描いたものです。

性別 男性
将来の夢 楽隠居
座右の銘 不可思議はつねに美しい、どのような不可思議も美しい、それどころか不可思議のほかに美しいものはない。アンドレブルトン

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宇宙人にされた男 2

14/10/14 コンテスト(テーマ):第四十二回【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 yoshiki 閲覧数:1033

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「心配しなさんな。任務が済んだら君を元の人間に戻すわ。君の身体の情報は全てコンピュータにバックアップしてあるのよ」
「任務ってなんでしたっけ?」
 俺はとぼけた顔をしたかったが、宇宙人にとぼけた顔はなかった。
「おやおや。しっかりしてくださいな。飯塚君さあ」
 前田博士が困った顔をした。俺はなんとなくボケをかました。たぶん悔しくて怖くてボケてみたかったんだと思う。テレパシーをつかってボケたのは俺が最初かもしれない。俺は医者達に注射をされた。なんでも栄養注射だと言う。本当のところ宇宙人が何を食べるのかわからないみたいだ。そこで栄養注射というわけらしい。人間ならさしずめ葡萄糖の点滴といったところだろうか。
 でも無償に気になる事がある。俺ってなに食べるの?俺は博士に再確認されるように任務を復唱した。いや任務としてはさほど難しい任務ではないと思う。敵の星に行き、絶えずその星の情報を地球に送る装置をセッティングすればよいのだ。敵を殲滅させるわけでも、捕虜にして捕まえるわけでもない。
「さて、紹介しましょうかねえ」
 博士がテレパシーでそう言った。俺には人が普通にしゃべってくれても、しゃべらずに心で思ってくれても、どちらとも同じように心に伝わってきた。心のスピーカーに相手の声が鳴り響くのだ。
「紹介?」
 俺がそう思ったとき、俺たちのいる大きな手術室のドアがスッと開いた。入ってきたのは、上背のあるがっしりとした体格の男だった。半袖の黒いティーシャツに上腕二等筋・三等筋あたりが隆起していて胸板が厚かった。下半身は戦闘服のズボンを穿いていてわからなかったが、とにかく逞しい男だ。歳は三十前後だと思う。
「広瀬陸曹長ですよ」
 博士が言った。

 5

 確かに俺にとっては広瀬陸曹長は頼もしい補佐役かもしれないが、しかしなにか一抹の不安が俺の胸を過ぎった。
 その様子を内田陸将以下、自衛隊の幹部達が透明スクリーン越しに見ていた。博士がドアを開けると内田陸将が入ってきた。俺を奇跡を見たような顔で見つめていた。
「飯塚。しっかりやれよ。必ず帰って来いよ」
 内田陸将の言葉が俺の心に何度も響き渡った。俺の手を陸将が強く握った。もしかしたら俺は涙ぐんでいたかもしれない。家族の顔が脳裏に浮かんできた。母さん、父さん、恋人の亜紀子、それに妹の梓の顔が心のスクリーンに投影されていた。俺はテレパシーを家族と亜紀子の心に飛ばした。距離的に届かないかも知れないが、どうしても俺はそうしたかった。これまでありがとうのメッセージだった。
「さあ、宇宙船に行こう。準備万端よ」
 前田博士が言った。俺はその部屋を出て歩き始めた。広瀬陸曹長ももちろん一緒だ。博士が先頭に立っている。関係者が数人後に続いた。通路の天井は高く廊下のタイルはつるつるした光沢を放っていた。かなり歩くと左右の壁の左側に鋼鉄製のドアというか扉があった。カードをスライドさせて博士がその中に入った。なんと螺旋階段がそのドアから下に続いていた。そこは広い空間だった。なんというか学校の講堂ぐらいの大きさは楽にあった。
 その中央に宇宙船はあった。鉄骨で組んだ脚の上にその宇宙船は寝ていたのだ。直径6メーター以上、長さは20メーター近い。薄い緑色をしていた。
 流線型であった。俺たちは宇宙船の中に入った。色々な機材やらコンピュータみたいな物が整然として並んでいた。濃いモノトーンの色調が船内を覆っていた。更に船内の奥に進むとコックピットらしいものがあった。
「宇宙船の操縦はどうするんです?」
 俺は博士にテレパシーを飛ばした。
「広瀬軍曹がやる。宇宙船はだいぶ破損していて酷い状態だったが何とか我々の科学チーム修理したのよ。操縦法は宇宙人がまだ生きていた頃、なんとか聞きだしたのよ」
「宇宙人がよく操縦法を教えましたね」
「広瀬軍曹は拷問が得意なの」
「やあ、ご苦労です。自分は広瀬と申します。よろしくお願いします」
 その男はいかにも自衛隊員らしい太い声でそう言った。テレパシーでも声の質は微妙にわかるのだ。広瀬陸曹長は頭はスポーツ刈りで色黒で眼が鋭かった。
「広瀬君は格闘技の達人でな。カンフー、空手、テコンドウ、柔道、キックボクシング。何でも出来る」
 俺にはどうにも仲のよくなれそうタイプの人間ではなかった。
「彼は何ですか?」
 俺は博士に訊いた。
「今回の任務の大事な一員なのよ」
「はっ?」
「広瀬君は君と同行して敵の星に行く。宇宙船に君と乗り込むんだよ。君を補佐するのが広瀬君の役目さ」
 俺はなんか、嫌な感じもしたが、一人ではないと思うと心強い気もしてきた……。
「でも、宇宙人に見つかったらやばいんじゃないんですか?」
 俺は訊いた。
「そうならないようにして欲しいのよ。でももしそんな事になったら君が彼をかばってね。君が彼を助けるのよ。宇宙船に隠れて君の手助けをするのが広瀬の任務だから。すべては君を無事に帰還させるためなのよ」
「……」
 俺はたまげた。広瀬軍曹は一見好男子なんだが、拷問したと聞いて寒気さえしてきた。俺はこのとき広瀬軍曹には逆らわず従順な宇宙人でいようと決めた。
「さあ、心に準備はいいかね。あと一時間三十二分でこの宇宙船は無限の大宇宙に飛び立つのよ」
「敵の星にはいつ頃着くんですは?」
「いい質問だが。正確にはわからないの」
「えーっ」
 俺は絶句した。随分と間抜けな話だと思った。
「そんなばかな」
「そのコックピットに設置されているナビみたいな機械を「自星に戻る」とセットすれば星につくのよ」
「……」
「約5ジェットンだわさ」
「はっ?」
 俺はきき返した。
「宇宙人の時間の単位で5ジェットンなのよ、しかし我々にはその単位が正確に把握できないの。だから5分なのか、50分なのか、或いは5年なのか、残念だがわからない」
「そ、そんなめちゃくちゃな話ってありますか」
 俺はテレパシーをバシバシ前田博士に飛ばしていた。
「5と言う数字も我々の十進法の5ではないかもしれないので、実のところ全くもって不明と言っていい」
「もし、それが50年だったらどうするのです? 自分は年寄りになっちゃうし、帰る前に寿命が尽きています」
「大丈夫さね。念のために人口冬眠するから」
「人口冬眠ですって」
「そうよ。たとえ一世紀だって君は眠っていられるのね」
「まさにSFの世界ですね」
「そうだねえ。昔のSFは今の現実なのよ」
 そうと聞いて俺は内心もの凄いショックを受けていた。あまりにも杜撰な計画じゃないか……。ほとんど行き当たりばったりに近い。
「心配しなさんな。君が地球に帰るときまでに1ジェットンが地球上で何時間に当たるのか解明しておくわさ」
 意味ねえじゃ……。俺はそう思った。それにしても不安だった。俺は恋人の亜紀子にもう一度生きて会えるのだろうか? 逃げようかと思った。だが今となっては俺はどこにも逃げるところなんてないんだ。もうどうしようもない。腹をくくってこの任務をやり遂げる以外ないんだ。俺はそう自分に言い聞かせていた。
「さあそろそろ我々は宇宙船を出る。広瀬君。頼んだよいいね」
 前田博士は実に真剣な顔で広瀬曹長を見つめた。
「はいっ!」
 と凛々しく言って広瀬軍曹が敬礼した……。


 6

 富士の中腹にぽっかりと穴が開いた。穴が開いたように見えたが巨大な岩盤がせり上がって空洞になったのだ。そのなかから宇宙船の先頭の部分が現れた。中にはもちろん宇宙人になった俺と広瀬曹長が乗っていた。あたりの冷気を切り裂くような轟音が響いた。
 ――ついに宇宙船は地球を飛び立ったのだ。
 宇宙船はすぐに大気圏を出た。そして軌道修正を何度も繰り返して、暗黒の宇宙に浮かんでいた。俺は心細そくて仕方なかった。そして丸い覗き窓からただ青い地球を眺めていた。実に美しい眺めであった。広瀬曹長はただ黙って計器類のチェックをしていた。
「もうすぐ冬眠装置に入るぞ」
 広瀬曹長がそう言った。もう? と俺は思ったが
「はい」
 と素直に答えていた。
「しかし前田博士は天才だ。おまえを本物そっくりの宇宙人に改造しちまったし、この宇宙船の操作方法まで俺に教えてくれた。博士によるとこの宇宙船は空間の亀裂に入り込んで宇宙を縫うように走るらしいんだ。この飛行法で宇宙人は別宇宙の彼方からやってきたらしい」
「別宇宙ってなんですか?」
「別宇宙って別の宇宙だよ」
「意味がわかりにくいんですが……」
「俺にだってそれ以上わからん」
 曹長がやや不機嫌そうに答えたので、俺もそれ以上追求しなかった。
「しかし、お前はほんと気持ちが悪いなあ」
 曹長が俺をしみじみと見てそう言った。――ほっといてくれ。
「同感です」
 俺はまるで独り言のような調子でそう答えた。
「しかし、宇宙人は本当に地球を征服する気なんですかねえ」
「それを確かめるのも我々の仕事さ」
「でも……」
「でもなにもないよ。やることをやって地球に帰ればそれでいい」
 広瀬曹長がはっきりそう言った。俺たちは人工冬眠装置の中に静かに入った。透明のカプセルの中に入ると催眠ガスみたいな気体が噴射され、俺たちはあっという間に眠りについた……。
 眼を開けると緑色の天体が俺の目玉に映っていた。なんともそれは夢のような光景であった。どれくらい眠ったのか見当もつかなかった。しかし俺の心持ちは眠る前と大きく違っていた。確かに飯塚健二という人間が俺であるのに違いないのに、妙な違和感があってひょっとすると俺は元々宇宙人で、悪夢を見ていて、もとは人間ではなかったような気がした。飯田健二なんて人間は俺の妄想で、俺は宇宙人だったのかも知れないという変な考えに取り付かれたのだ。
 地球から積んだ計器には時計もあり、それを覗き込むとあれから、四万三千時間以上経過していた。あれからなんと五年が過ぎたらしいのだ。頭がくらっとした。まるできのう眠りについたようにしか思えない。いつもの朝とさほど変わりはしない。しかし、状況は月とすっぽん程違っていた。

「おはよう。飯塚」
 広瀬曹長がそう言った。やっぱり俺は元々人間だったんだと思った。そして夢のような出来事が現実なのだと俺は思い知らされた。
「おはようございます」
 俺はテレパシーでそう返した。宇宙船の窓から見えるその天体に俺たちの眼は釘づけになっていた。大きさは地球より一回り大きい感じだった。目の前に見える緑色の惑星に俺は感動した。妙な懐かしさを俺は感じた。その理由はきっと俺の血がすでに宇宙人の血であり、その血に流れる記憶がそう感じさせるに違いなかった。鳥肌、いや宇宙人肌? が立った。
「帰ってきた」
 俺は心の中でそう呟いていた。心の中に歓喜と悪寒とが合わさったような波紋が広がった。
「よし。コンタクトをとって降りるんだ」
 広瀬軍曹が通信機みたいなものを操作しだした。
「軍曹はどうなされるんですか」
「俺はこの宇宙船にしばらく隠れている」
 どこにどう隠れるかは俺にはわからなかった。まあ俺はそこまで関知しないでいいのだろから深く考えなかった。
 俺達はその星との交信に成功し、ついにその惑星に降り立った。(三人の… 三匹の… 三体の? 宇宙人ってなんて数えんの? まあこの際、三人にしておく)
 三人の宇宙人が俺を出迎えた。やっぱりきもい。三人は特に俺にテレパシーを送らなかった。『よく帰ったなあ』ぐらいのことを言ってもよさそうなものだ。宇宙人はかなり薄情なのかもしれない。感動的な再開なのか、初めて会うのか俺にはさっぱりわからなかった。
 お辞儀をするわけでも、握手をするわけでもなかった。まああたりまえだろう。心臓はもちろんドキドキものだったが、俺の正体にどうやら彼らは感づかなかったらしい。
 ――実に変な星だった。
 まず俺の眼を惹いたのは大きな広場の中央にある巨大な建造物だった。最初はなにかのモニュメントかオブジェかと思っていたが、違っていた。全体が肌色でそそり立つ塔のようなものだ。
 すごく通俗的な解説をさせてもらう。塔に上から、ばあさんの乳房みたいなものが長く伸びている。何本あるのか数が計り知れない。そしてその先に宇宙人たちがせみの管状の口でそれに吸い付いている。異常というか、異様というか、なんかグロで嫌だ。

(腹が減っているだろう。ちょっと入れていくか?)宇宙人のテレパシーが俺の頭の中でそう言った。ついに俺は宇宙人と喋ったのだ。ちょっと興奮した。しかし会話は日本語であった。たぶん俺の脳が無意識に言語の変換を行ったのだろう。
 最初もの凄い違和感があって俺はゾッとして返答に困った。しかし宇宙人が勧めるので俺は仕方なくばあさんの乳首に管を伸ばした。眼を閉じていたが、すげえ美味いのでびっくりして夢中でちゅうちゅう吸ってしまった。はしたない。
 俺の身が宇宙人として生理的な反応をしたのだろう。俺としたらこの星での記述は避けたい心境だ。とにかく変な事ばかりでついていくのに困った。まず俺は雄らしい。なぜなら俺が三人に連れられて宇宙人の基地みたいな建物に連れて行かれる時に、他のちょっと小さくてピンク色の宇宙人に擦れ違ったのだが、その際宇宙人は俺にこう言った。
『たまらねえ、いい尻してるぜ。後でもつけて押し倒しちまおうか』
 俺はまた返答に困った。仕方なく俺はこう返した。
『そうだな。今すぐにでも押し倒したい心境だぜ』
 どうやらテレパシーは聞かれて都合の悪い相手には聞こえないらしい。会話の相手を選べるのだ。これは新発見だった。
『おまえ、相変わらずだな。ところで地球の人間を何人ぐらい殺した? 奴らは軟弱で下劣な生き物なんだろう?』
『そうさ、奴らは最低さ、まとめて百人ぐらいぶっ殺したよ』
『そうか。そいつは大したもんだ。エルザークにもきっと褒められるぜ』
 空恐ろしい会話だった。俺の身体は細かく震えていたかもしれない……。
 エルザークっていったい誰?
 ――俺は言い知れぬ不安を抱えたまま、彼らと共にへんてこりんではあるが巨大な建物に入っていった。


 7

 ドームのような建物の中は薄暗かった。天井に細かい明かりがチカチカ光っていた。地球で言ったら高級クラブの廊下みたいだ。(へんな比喩でごめん)曲がりくねった長い通路を俺たち四人は黙って進んだ。俺はこの時すでに腹をくくっていた。
 そりゃあ怖くて怖くて身体の震えは止まらなかったけれど、俺は開き直っていた。こうなったら悪辣な宇宙人を演じるほか今は無いのだ。
 三人が立ち止まった。すると通路にあるドアが音もなく開いた。その途端テレパシーが飛んできた。
『やあ、アプラック。元気そうじゃないか』
 俺はすぐに察した。俺の名はアプラック… らしい。まるで保険屋じゃないか。
『お前手ぶらで帰ったのか? 捕虜はどうした』
 俺の前に現れた宇宙人は身の丈二メートルは超えていた。残虐そうな顔つきで眼からは爬虫類のような光を放っていた。
『あなた、エルザークさんでしたっけ?』
 俺はテレパシーでそう答えた。
『……』
『おまえ何言ってんだ、旅行ぼけか? エルザークを忘れたのか』
 隣の宇宙人が俺だけにそう言った。やばいと思った。迂闊な発言は控えなければならない。間違えば命取りになる。
『捕虜はみんな殺して宇宙に放っぽり出しました』
『なぜだ? 貴重な研究材料じゃないか』
 不穏な空気が一瞬その場に流れた。緊張の糸がその場にピーンと張ったのだ。
『なぜって俺は人間が大嫌いなんですよ。反吐が出る』
『……』
 エルザークが眼が俺をじっと睨んでいた。俺は心臓が止まりそうになった。このまま、とぼけおおせるのか。俺は押し黙ったきりただ立っていた。
『お前って奴は…… 仕方のない弟だな』
 弟? げげ、俺はこいつの弟なのか、この化け物の……。+o+

『たぶん、そんなところだと思ったぜ。まあいい。どっみち皆殺しにする相手だ』
 とりあえず俺はほっと胸を撫で下ろした。俺たちは宇宙人用の椅子に座った。四人で話すうちにエルザークはこの星の官僚の一人である事がわかった。そして俺たちは兄弟で俺もまた官僚なのだった。地球で言えば差し詰め防衛省と言ったところだろう。他の三人もまた役人であった。
『ところでアブラック。面白い土産話でもないのか?』
 だいぶくつろいだ感じになってエルザークがそう言った。俺は脳みそをフル回転させる羽目になった。そして出まかせみたいな話をでっち上げた。
『地球では映画と言うものがあります。簡単に言うと映像の観賞です。劇場もありますし、個人宅にも映像装置が普及しています』
『ほう、それで』
『その映画のなかに我々に良く似た異星人が出てくるものが存在します。題名はプ○○ターといいます。彼らは戦士で誇り高い異星人です』
『面白そうだな、もっと詳しくきかせてくれ』
 エルザークが予想外の反応を示した。興味深々らしい。俺の話を聞くエルザークは頭を振ったり、両手を伸ばしたり、低く唸ったり、実に奇妙は反応を示した。
 俺はとても彼らには付いていけないと心ならずも考えていた……。 とにかく俺はこの星に長居出来ないと思った。このままこの星にいたらストレスと恐怖で頭がおかしくなっちまうだろうし、俺は一刻も早くこの星から逃げ出しかった。
 しかし俺はこの星に観光で来たのではない。任務がある。早いところ任務を済ませ、地球に帰還するのだ。それには宇宙船に帰り、広瀬曹長と協力して装置をこの星に仕掛けなければならない。だが俺は報告書を書かなければならない羽目になっていた。
 地球の記録を作成し、それを元に人間の弱点を整理して、早めにエルザークの属する組織の長官に提出しなければならないのだ。
 更に厄介な事に三日後に式典があるという。その式典に出席せねばならず、この星の総統ズライクに正式に紹介され、地球総攻撃の意志を示さねばならないらしい。なんとエルザークと俺は地球征服の指導者に選ばれると言うのだ。とんでもない話だった。その事をエルザークが俺に得々と語ったのだ。
 俺にはそんな報告書が書けるわけも無かったし、書く気もなかった。それに式典なんてまっぴらだった。だいたい俺は文化祭とか卒業式だとか、そういう面倒くさいものが大嫌いなのだ。
 とにかく俺は一人になりたかった。でないと何も出来ないじゃないか。俺は疲れたと言った。そして少し一人になりたいという旨をエルザークに伝えると、エルザークは俺に家に帰ってよく休めと言った。
 これは余談だが俺には妻が十人と子供が八十人ほどいるらしいのだ。ほんとうにたまげて心臓麻痺でも起こしそうだった。
 ――そんな連中に取り囲まれたら俺はたぶん死ぬ。
 俺は黄色い光線の中を一人で歩いていた。たぶん今はこの星の夕暮れなのだろう。空を見上げると赤い月みたいな星が三個も浮かんでいる。路は地球の高速道路を細くした様な形状でくねくねと曲がりくねっていた。もちろん俺の家が何処なのかもわからない。最初から俺には家になんか帰る気はない。
 宇宙船に戻って広瀬曹長に会うんだ。そして今夜中に装置を仕掛けこの星とはおさらばだ。そして家族と恋人の亜紀子の待つあの懐かしい地球に帰るんだ。

 俺は心の底からそう思っていた……。

 8

 どこをどう通って宇宙船に帰り着いたのかわからない。とにかく俺は何度も路に迷いながらもやっとの事で船に戻った。ゲートには立ち入り禁止めいた赤いテープが何本も張り巡らされていたが、そんなのに構っていられない。
 俺はそのテープを引きちぎって船内に進入した。我ながら凄い力だった。やはり広瀬曹長の事が気になって仕方がなかった。彼がいなければ地球に帰れない。船内は真っ暗だったのでとにかく明かりのともりそうなスイッチ類を探した。宇宙人の俺も暗闇ではさすがに目が見えない。しかし滅茶苦茶にスイッチを入れるのは危険だ。
 俺は航行時の記憶を懸命に辿りながら、照明を付けた。誰もいないので四方にテレパシーを飛ばした。すると声が返ってきた。
『よう、飯塚やっと戻ったか……』
 その言葉が妙に懐かしかった。俺はなんだか嬉しくなった。その声の方向に移動すると、上から広瀬曹長が降ってきた。船の天上部にある通風孔のような管の中に隠れていたらしいのだ。彼の忍耐力には驚ろかされた。降り立った広瀬曹長はそそくさと船の床下にある装置を取り出した。それはちょうどスーツケースぐらいの大きさで金属性の丸い円筒形の代物だった。
「さあ、早いとここいつを地下に埋め込んでとっとと地球に帰ろう」
 その声を聞いて多少明るい気持ちになれた。一連の出来事で俺は気が滅入っていたのだ。広瀬曹長がその装置を担いで俺たちは宇宙船を出た。誰かに感づかれたらおしまいだから、慎重に行動しなければならない。二人は地球感覚で十五分ぐらい路を歩いた。そこで曹長が立ち止まった。下は砂のような地面だった。
「ここでいい。あんまり遠くまで行くと危険だ」
 曹長がそう言った。
「こいつをセットすれば一時間後にはドカーンさ」
「ド、ドカーンって?」
 俺は意味もわからずそう訊いた。
「おまえ、知らなかったのか?」
 何の話かと思った。まったく聞いていない話だった。
「これは爆弾だよ。あの前田博士が発明した極めて高性能な爆弾さ。原爆の数千倍の破壊力を持つんだ。この星諸共破壊する」
「爆弾! 星ごと爆破」
 俺は驚いて心の中で震え慄いていた。
「そうか、お前は事情を知らないんだな。地球のお偉方の間で宇宙人は極めて危険な生命で、友好や協調は望めないとして、先手を打つ事が閣議で決定したんだ」
「先手を打つって」
「宇宙人は解剖され調べつくされた。奴らは怪物だ。良心のひとかけらも持ち合わせていない」
「だからって星ごとなんて、ひどい話だ。彼らの他にだってこの星に生き物はいるはずだ」
「そうかもしれん。しかしこれは命令だ。我々に私情を挟む余地はないんだ」
「こんな事だと知っていたら自分はここに来ません。辞退していました」
 俺はけっこう感情的になっていた。感情的にならない方がおかしかったかもしれない。
「今となっちゃ、どうにもならないさ。これを埋めて帰るんだ。こいつはスイッチを入れると筒の先端から掘削カッターが出て、装置が勝手に地中に沈むんだ」
「このまま何もせず帰りましょう広瀬曹長。失敗したと言えばいい」
 俺は真剣な口調でそう言った。
「ばか言え。こいつらを生かしといたら、人間が危ないぞ」
 曹長の語気が強まった。

 
                       つづく



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