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亜子さん

初めまして。こんにちは。人の文章を読むことが好きです。よろしくお願いします。たくさんの名文と出会いたいと思います。気軽にコメント下さい。

性別 女性
将来の夢 いろんな人によい本との出会いを提供すること。プロフェッショナルとしての誇りある司書になること。人生を耕す芸術や学問の助け手になること。そして人の人生を豊かにし、変えること。良い方向のものを人に教えることのできる指導力を持つこと。
座右の銘 静粛の二文字

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秘密の涙

14/10/11 コンテスト(テーマ):第六十七回 時空モノガタリ文学賞【 秘密 】  コメント:3件 亜子 閲覧数:924

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「これ、わたしの宝物。特別に見せてあげるね。」そういってピンクの小箱を幼なじみの窈ちゃんに差し出した。窈ちゃんはたいして興味もなさそうにその箱を眺めている。
「それ、お前の宝物なの。」興味もなさそうに呟いた。わたしは少し残念に思いながら小箱の中身を教えてあげることにした。
「うん、これね、中には大切なものが入ってるの。」「ふーん。」
 しかし、窈ちゃんはやっぱり興味がない様子で機嫌が悪い。「これはね、中に」
「いいよ」言葉を紡ぎたくても、言わせてもらえなかった。「いいよ、教えてくれなくて。」「そんな...」泣き出したくなったわたしは、途方に暮れて相手のことを見た。「知りたくないの?」「別に。」
 わたしは急に冷たくなった窈ちゃんの態度が気に食わないながらも、歩き始めた彼の後を追った。
「窈ちゃん、どうしたの」「ついてくるなよ。」
 泣きそうな気持ちをこらえて、早足になっていく彼の後をついていく。
「窈...」わたしは歩く足をとめ、その場に立ち尽くす。
 それでも、振り返らない背中に向かって叫んだ。「待って、待ってよ。」
 小箱のことも、わたしのことも窈ちゃんに取ってはどうでもよいことなんだ。今まで一緒に遊んでくれていた幼馴染みの心の中にあるものは、幼い私には到底理解できない。
 置いてけぼりをしてとおざかっていくかつての親友をわたしは、涙をこらえて見送っていた。

「どうして?どうして置いていっちゃうの、窈ちゃん」...そして、わたしはようやく涙をこぼして泣き始めた。
 ピンクの小箱は両手に抱きしめて。その夏から、二人の距離は変わり始めていった。どこかよそよそしく、他人行儀なものへ。


 それから私達は大人になり、親しく会話を交わすようになった。
  二人の大人の男女が部屋で語らっていた。もうすっかり年を重ね、大人のふたりである。ふたりとも特に付き合っているという訳ではなかったが、こうして会話するのが快く思えるので仕事や家族の間の悩みなどを相談し合うのが常だった。

 いつもはマニュキアの塗られている綺麗な彼女の爪をふと見ると、整えられて形が美しいのはそのままなのに、カラーの鮮やかなマニュキアは塗られていなかった。薄淡い色の指先がなんだか新鮮に思えた男性は、しばらく会話を止めてその白く美しい指先に魅入っていた。

 語らい笑いながら女性が尋ねる。男性は言葉を返すのが遅れた。「今日は何も爪に着けていないんだね。」
あら、と意外そうにこちらを見て「おかしかった?」とその女性は返す。いつもはしっとりとした魅力的で上品な女性から可愛らしさを見つけてしまった。

 「いや、いつもなら身綺麗に色鮮やかなネイルをしてるからさ。」
 そう言いながらもやはり新鮮な手元から意識を戻せないでいる彼は、やがて思い出すのだった。いつか、遠い昔に彼女を泣かせてしまったことがあったような。おぼろげな記憶が。

 「だったらいつもけばけばしいネイルをしているわ。あなたの目を飽きさせないように。」
 「ちがう。そう言う訳じゃないんだよ。」

 けれど本当に怒っている訳ではないことは女性が微笑んでいることからも分かった。
 今までを振り返ってみると、こんな風に語らい合う仲になるなんて思わなかった。しかし、悲しいときも辛いときもいつも彼女が支えていてくれたことだけははっきりと分かる。家族は別々だが、「この人とは気が合う」と感じていた。
 しかし、彼女はどう思っているのだろう。彼は尋ねてみることにした。

 彼女の見せた涙はあたたかかった。

 小箱には指輪が収められ、そして美しく輝いている。
 記憶の中のピンクの小さな小箱の中には女性から男性への愛情が詰まっていた。
 長い年月を経て、ふたりはその中身をようやく交換した。

 薔薇色の小箱。二人の永遠の秘密。


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このストーリーに関するコメント

14/10/24 亜子

すみません。マニキュアでした!!

14/11/15 亜子

なんと言うか、マニュキアでもマニキュアでもなく、ポリッシュだそうです。正しくはどちらも間違いなんだそうで。まあどっちも使用されている言葉ですし、許容ではないでしょうか?
ちなみにマヌス・キュア「手の手入れ」から由来がくる言葉なのだそうで。当てはめて定義することはナンセンスのようです。

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