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リアルコバさん

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消えた春

12/06/30 コンテスト(テーマ):第八回 時空モノガタリ文学賞【 大分 】 コメント:4件 リアルコバ 閲覧数:2267

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「キェーッ」気合いと共に放たれた一撃は、友成の喉元でピタリと時間を止めた。一筋の汗が顎から落ちた時、両者は木刀を引き頭を下げた。
「腕を上げたな安二郎」手拭いを使いながら「まだまだです」友成の2つ年下の安次郎は、はにかむように笑った。
 一刀流塙道場の三人の高弟のうち一人が欠けてか7年が経っていた。「ところで安よ、考えは変わらんか」笑顔が消えうんざりとした顔になった安次郎が汗を拭った体に袖を通しながら言った。「政さんが帰る迄は、例え隠れと言われても・・・」唇を噛むように言葉を切った。

 昨夜の事「塙先生 殿はどの様なご決断で」木内友成は豊後の小藩の切れ者として今や将来を期待される若衆である。「幕府方は本気の様じゃ、既に周防は切支丹狩りで悲惨な様じゃ。もう容認はできんじゃろ」
 フランシスコ・ザビエルの上陸以来、殿自らが切支丹へと改宗した事をきっかけに、藩内には多くの切支丹信者が生まれて10年、徳川による禁止令は徹底を極め、切支丹狩りはとうとう九州に迫っていた。
「では政隆はどういたします」「もう何年になる、おそらくは・・・いや帰らぬ方が良いかもしれぬ」

小栗政隆が葡萄牙に渡ったのが7年前の秋だった。
『なぁに2・3年もすれば帰れるらしい』藩における日本人修道者育成の為、文武両道容姿端麗の政隆が指名されたのである。許嫁である友成の妹《きよ》との祝言は帰国後に伴天連式で行うと殿からもお許しを得ての渡航であった。 
「安二郎もう忘れろ、おきよはお前の嫁だ、誰に咎められる事もない。7年じゃ、生きてはおるまい」 道場の庭の柏の木の長い影と其を包む橙色の夕日が二人を染めていた。



 その年の冬、静まりかえった部屋の中で顔を突き合わせた義兄弟二人の密やかな声がさざめいている。
「安二郎お前まだ届け出してないのか」「えぇ」「年明けには幕府の役人も来ると云う噂だ」「・・・」「城内は既に反切支丹で纏まりつつある。塙先生も時機に失脚すると云う噂だ。」「塙先生が・・・」

 安二郎が塙道場の免許皆伝者である塙忠孝の秘剣を一度見せてもらったのは、きよとの祝言が終わった翌朝の事だった。『今の技目に焼き付けたか』『はい』『よし、後は思い出して磨け、天下太平の世じゃ秘剣など役にもたたぬ。幕府も仏教とて同じじゃ、伴天連はいいぞ、わしがもう少し若ければ政隆の代わりに葡萄牙へ行けたのじゃがハハハ、政隆は必ず帰って来る、それまでお前達は隠れても切支丹でいてやれ』『はい』自分が葡萄牙へ差し向けた政隆と、時を待てずに祝言を上げた きよ と安二郎とを精一杯気遣っての言葉と思われた。


 年が明け春の訪れが見え隠れした頃、それらはほぼ同時にやって来た。 幕府からの切支丹狩の検閲部隊と葡萄牙からの商用船、沖合の大型船から出た小舟の舳先には、髷を落とし髭を伸ばした洋装の日本人、小栗政隆が大きく手を振っていた。港の衆は慌てふためきその知らせは城内城下に直ぐに届いた。政隆は上陸と同時に隠されるように城内に上げられた。

 城内にて捕らわれ、事情と藩の状況を聴かされて愕然とする政隆に、筆頭家老大内孝之助は残酷な笑顔を見せた。「お前は藩命に従っただけのこと幕府部隊には事情を話してやる、改宗せい、その証拠に藩中の切支丹共の斬首をして見せよ。さればお主一族の改宗と認めよう」
 次に木内友成が声をかけた。「政隆久しぶりだな 伴天連はどうだった」その後幕府による切支丹禁止令、藩内の対応さらに幕府からの切支丹狩り部隊が既に城内に潜入している事を聞かされた。
「お前の母上も、きよも安二郎も今この城の牢に捕らわれている。な、お前が棄宗すれば母上も安二郎達もきっと従うだろう」 混乱する頭を沈めようと首から下げた十字架をそっと握りしめそして考え抜いた。

「踏み絵を拒む者はその場で斬り捨てよ」大内孝之助の残忍な声が響き、縄で繋がれたある者は眼を閉じて足を乗せある者は眼を見開いて拒絶し絶命していった。
「変われ」白鉢巻の幕府部隊に囲まれた中、政隆は刀を抜いた。(頼む皆踏んでくれ)ひとり二人と目を閉じて通過したが「安・・・」動きの止まった先で安二郎の虚ろな目が政隆に語りかけていた。
「斬れ」大内の声に反応した剣は八艘の構えから唸りを上げた。しかしその剣は縄を断ち、地上近くで踵を返し介錯役の役人の喉元を突いていた。「すすき返し・・・」「安も先生から授けられたか、行くぞ」一撃で絶命した役人の刀を安二郎に渡し二人は幕府部隊に切り込んだ。


 それは記録にも残らない小さな反乱であった。神を信じ神に仕えようと、友を信じ友に仕えようとしたただそれだけの二人の反乱。「馬鹿が・・・」木内友成が目をそらした時いくつもの剣が二人をめがけて振り下ろされて行った。

 政隆26歳安二郎24歳の春が消えた。


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このストーリーに関するコメント

12/07/05 かめかめ

おもしろかたです。時代小説読みませんが、面白かった。

12/07/14 リアルコバ

長月五郎さん

申し訳ない 勉強いたします
コメントありがとうございました

12/07/14 リアルコバ

かめかめさん

ありがとうございます
難しいですね・・・

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