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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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舞い降りる光と共に 

14/10/06 コンテスト(テーマ):第六十六回 時空モノガタリ文学賞【 舞い降りたものは 】 コメント:8件 草愛やし美 閲覧数:1644

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 クリスタルの透明な面に陽光が舞い降りる。
「僕、光の妖精甲斐だよ」
 そう言って私の閉ざされた瞳の奥に僅かでも光を届けようとおどけて話してくれた人はここにいない。あれから、忘れてしまうほど時間が経ってしまった。見えない目は、全ての世界から、物の形と色を奪った。混濁した世界、怖い、きっと、どこまで行っても漆黒の暗闇でしかなくなる日がやってくるに違いない。
 無味な世界、白黒ははっきり白を認識できるから黒を認められる。だけど、全ての色彩が混ざってしまえば、白を白と認めることは不可能になる。そこにある世界の本当の色は何色なのだろう? 目を瞑っているからではない。たぶん、脳裏が色というものを感じ取れなくなっていっているということに違いない。
 円錐角膜と診断され私の瞳は視力を失った。診断された初めの頃は、色や形をまだ感じ取ることができた。そんな時に、甲斐が贈ってくれたものが、サンキャッチャーだった。彼の手から受け取ったそれはコロンとした丸いもので紐がついている。紐を結び天井や窓辺にぶら下げれば、どんな僅かな光もキャッチして光を感じとれるという代物、きっと透明で美しい輝きをしているのだろう。だけど、私の視界は何も感じない。
「凄いだろう、水晶でできているんだって、ほらね、光をいっぱい集めて光っているだろう」
「うん、凄いね」
 頷きながら答えた私だったが、ほとんどその光の広がりを感じていなかった。次第に甲斐の顔も医者の顔も識別できなくなり、人がそこにいることさえわからなくなっていった。気配と物音で感じとれるので、ごまかしてはいたが、事実は残酷な世界だった。灰色の空に泥水を流し込んだような混濁した視野のなか、それでも甲斐を確認しようとしたが、甲斐の顔も思い出せなくなっていく。人は、見たものを確認し、新たに記憶を刻むことにより鮮明なものの形を認識している生き物なのかもしれない。見えなくなっていくに連れ、物であろうと人であろうと、イメージが描き難くなっていく。どんな顔だったの、ぼんやりとした輪郭しか映せなくなった瞳を凝らしても記憶はどんどん薄れていくばかりだった。
 コンタクトレンズで歪んだ角膜を強制することにより僅かな視力を保っていたが、歪んだ眼球にコンタクト自体、負荷が大きく、傷ついた眼球に激痛が走るようになった。時に目の保護のため一切の光の遮断を余儀なくされた。真っ暗な部屋に何日も閉じ籠る日々が続くと、気持ちが萎えどんどん暗くなる。医師から角膜移植を勧められたが、希望の灯に思える話が、気の遠くなるような移植待ちの時間を知ることにより更なる苦しみの途に変わった。光を取り戻すことは、誰かの命と引き換えなのだから、当たり前のことなのに心の奥でその事実から背を向け、待てない葛藤に私の心はぼろぼろになっていった。ついに、励ましてくれる甲斐に気持ちをぶつけてしまった。
「サンキャッチャーなんて何の役に立つのよ! 私には未来も夢も何もないの、全て諦めなくてはならない私と甲斐とは、住む世界が違うの、もう駄目耐えられない。全てを持てる人なんかに私の気持ちなんてわかるわけはない、出て行って」 
 きつい口調の前に言葉を失い静かに出て行った甲斐。その時から距離ができ気まずくなった私達は自然と疎遠になっていった。その後、私は可能性が高いというアメリカでの移植に踏み切り渡米した。移植できないのではないかという不安に駆られたが、移植の話は思いのほか早く手術は無事成功した。

 「見える、見えるわ」 抜糸後、世界に色彩が戻ってきたその瞬間を私は生涯忘れないだろう。その夜、星を見上げ再び見えるという感謝に、万感の思いになった。その美しさを表したいのに、星は日本もアメリカも同じなんだとつまらない言葉しか出てこなかった。
 風水で幸せを運ぶと甲斐に教えられたサンキャッチャー、捨てることができず、渡米の荷物に入れてきていた。その透明なクリスタルから溢れんばかりの光が舞い降りる。私のここにもそこにも……、跳ね返った光のかけらは、全ての世界が光に満ち溢れたものだと教えてくれる美しさだった。初めて、甲斐の深い想いを知った気がした。

 ◇

 今、新しい私が日本へ戻ろうとしている。あえて、昔のことを過去と捨て去ったつもりでいたが、故国に近づくにつれ切なさがこみあげてくる。なぜあの時あんなことを言ってしまったのだろう、自分を嫌いになりそうな気持を抑え、誰かの命と引き換えに頂いた人生、大切に過ごさなければと考えながら、空港出口へと向かう。そこに、おかえりと叫び手を振る人の姿が見えた。
「甲斐……何も知らせていなかったのに、どうして……」
 笑顔の甲斐の顔、思い出そうとしても思い出せなかった笑顔の顔がそこに佇んでいる。サンキャッチャーから舞い降りた世界中の光を集めたような笑顔が……。


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このストーリーに関するコメント

14/10/07 夏日 純希

拝読いたしました。

文章の、そこかしこから、キラキラした何かを感じました。
草藍さん、最近キレキレですね。あ、いや、前からなんでしょうけど(汗
最近特に磨きがかかっているように思います、はい。

サンキャッチャーって知りませんでした。
いいですね。存在自体がなんかロマンチックです。

今回も、目の付け所が草藍さんでした。
キラキラした素敵な作品をありがとうございました。

14/10/07 泡沫恋歌

草藍 様、拝読しました。

私もサンキャッチャーって知らなかったので、検索して調べました。
そういえば、窓辺にこういうのを吊るしているご家庭を見たことあります。

光を失う絶望感は健康な者には計り切れないと思います。
少しくらい八つ当たりしたって許される範囲でしょう。
再び、光を取り戻し、甲斐も待っていてくれて良かったです。

光がキラキラするお話は読後感も爽やかでした♪

14/10/07 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

何も見えなくなったら、と想像しただけで怖しいです。
誰かの命と引き換えにしたという事実に胸は痛むと思いますが
新しい瞳で未来をしっかりと見て生きていってほしいなと思いました。

14/10/09 シンオカ

お話を拝読しました。
自分もサンキャッチャーというものをこの作品で初めて知りました。
視力を失っていくこととサンキャッチャー、このふたつが上手く組まれていて、作者さんの発想すげえと思いました。
光の持つ印象を使った、爽やかできれいなお話でした。
乱文失礼致しました。

14/10/14 鮎風 遊

サンキャッチャーってあるのですね。
なにかこの世の幸福な光を集めてくれるような。
主人公、手術が成功し。光を得て良かったです。
やっぱり笑顔が一番ですね。
良かった、良かった。

14/10/28 草愛やし美

>夏日純希さん、お読みいただきありがとうございます。

嬉しいお褒めの言葉に恐縮しています。サンキャッチャーは私もついこの間ネットのクーポン販売サイトで知ったばかりです。綺麗だなあと思いました。風水でも縁起が良い水晶、でも、吊るす場所もない我が家ではと、買うのはやめました。その思いを(苦笑)、作品にしてみました。コメント嬉しかったです、ありがとうございました。

>泡沫恋歌さん、いつもお寄りいただき嬉しいです。コメント励みになります。

角膜移植のために、臓器提供が問われるようになるもっとずっと昔にアイバンクに登録しました。でも、もう年ですので、たぶん、臓器はどれも使えないものになってしまったのではないかと思います。
光を失うなんてとても考えられないことです。人間五感揃ってこそ、楽しい人生を過ごせているのだと思うと感謝せずにはいられません。コメントありがとうございました。

>そらの珊瑚さん、お読みいただきコメントありがとうございます。

私もそう思います。かなりの近眼で、網膜剥離の危険性ありと診断されたことがあります。今も、飛蚊症で大きな黒いものが見えています。それでも、見えることはありがたいなあと思います。パソコンを開く時や、TVを前にしたときなど、時々思い感謝しています。

>OHIMEさん、お仕事お忙しい中、お読みいただき嬉しいです。コメント感謝しています。

甲斐さん、素敵ですよねえ、この年ですがこういう恋に憧れています。苦笑 こういう気持ち忘れないで、生きていければと願っている私です。すっかり、乙女チックですになっています。(///∇//)テレテレ

>シンオカコウさん、わお! こんなにお褒めいただき舞い上がってしまいそうです。コメント凄く嬉しいです、ありがとうございます。

舞い降りるものとはと考えて光から思い起こした作品ですが、このテーマは自分にとって大変難しかったです。お褒めいただき励みになりました。コメントから、これからも創作を頑張れる意欲貰えました、ありがとうございました。

>朱音さん、お祝いのお言葉ありがとうございます。

お読みいただき大変嬉しいです、コメントありがとうございます。今回は恋を描いてみました。年齢的にもはや遠いものとなった恋の話。そのうえ、人間が粗雑なもので、かなり苦手な分野なのですが、頑張ってみました。ロマンティストに少しは近づければいいなあと願っています。

>鮎風游さん、お読みくださって感謝しています。

光を集めて、舞い降りるかのようにキラキラ輝くそうです。昔のディスコか、ダンスホールにあったミラーボールに似ていますが、機械的な電気の光より、自然光を集めるこれは、光が穏やかなものではないかと思います。
初めて知った時、素敵な恋がぴったりのものだなあと感じました。その思いで描いてみました。コメント励みにして頑張りたいです、ありがとうございました。



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