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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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ハーレーダヴィットソンに乗った亀

14/10/06 コンテスト(テーマ):第六十八回 時空モノガタリ文学賞【猛スピードで】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1155

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 亀の名は、万吉といった。外来種が氾濫するなかで、れっきとした日本産のイシ亀だった。 
 万之助という飼い主がおり、庭につくったちっぽけな池に万吉を入れて飼っていた。髭面の、巨漢で、亀の怪物が暴れまくる怪獣映画のファンで、川で釣りの最中にみつけた万吉をもちかえったのも、そんな趣味が影響しているのかもしれない。
 朝に万吉に餌をあたえたのち、なにやら家の外で空気をつんざくような爆音をけたてて、どこかへでかけてゆく。やっぱり爆音をたてながら帰宅するのは夜で、なによりもすぐに餌をあたえてくれるのは万吉にとってありがたいことだった。食事は表でとってくるものとみえ、家にはいってからは、部屋中央にいすわって、ウィスキーをちびちびやりながら、ヘッドホンからきこえる音楽に耳を傾けるというのがいつもの彼の過ごしかただった。
 庭に面した部屋の窓は開け放ってあり、その間万吉は、池に置かれた岩のうえにのって、じっとしているのがつねだった。
 ふいに、万之助が声をかけてきた。
「おまえもそんな窮屈なところにばかりいちゃ、ストレスもたまるだろう。あしたはひとつ、バイクにのってツーリングといこう。ハーレーダヴィットソンに乗れる亀なんて、おまえぐらいじゃないのか」
 ハーレーダヴィットソンというのが、毎朝家のそとで騒々しい音をたてているものだということはぴんときた万吉だったが、なにせまだ実物を一度もおがんだことがないので、それがどんなものだということまではわからなかった。乗せてやるというのなら、乗ってやろう。たいして期待もないまま万吉は、夜空にむかっておおきくあくびをした。
 翌朝、休日にしてはいつになくはやくおきた万之助は、まず万吉に餌をあたえてから、
さっそくハーレーダヴィットソンをガレージからもちだしてきた。
 万吉を池からだして、よくそのからだを拭いてやってから、フューエルタンクの上にガムテープで張り付けたあと彼は、じぶんもバイクにまたがった。
 おもいもよらなかったことだけに、さすがにめんくらった万吉が、手足をばたつかせているとき、突然ものすごい音がひびいたとおもうと、全身を激しい振動が包み込んだ。
「さあ、いくぜ」
 いうなり万之助は、アクセルをふかした。
 いつもブロック塀ごしに、いわばフィルターを通してきいていたときとちがい、そのエンジン音は万吉の腹の底まで染みわたってきた。その一瞬後、周囲のなにもかもを後方にふきとばして発進するバイクの上で万吉は、さっきは呪ったガムテープに、こんどはできるだけしっかり張り付いていてくれと懇願するはめになった。
 ハーレーダヴィットソンは路上を、疾走した。
 バイクのタンクの上にテーピングされた万吉にとって、その経験は、想像を絶した、理解をはるかに超越したできごとだったことはまちがいない。いやそれは、亀という生き物全体にとっても、その遺伝子のどこをさがしても決してあるはずのない、空前絶後のできごとだったことだろう。
 じっさいに亀吉が、そんなややこしいことを考えたかどうかはさだかではない。理解不能のできごとをまのあたりにした人が、ぼんやりと麻痺したようにその場にたちつくすのに似て、万吉もまた、ほとんど意識を喪失した状態で、そのうえ絶え間なくつたわってくる振動にゆさぶられて、いつしかもうろうとした気持になってきて、そのうちうとうとまどろみはじめた。
 万吉は夢をみた。じぶんがうさぎとかけっこをしていて、途中で居眠りをはじめるというものだった。
 それをみたうさぎが、亀さん、それでは話がちがう、居眠りするのは私のほうで、あんたはのろくても歩きつづけて、さきにゴールにたどりつき、足がはやいといって慢心するうさぎの鼻をへし折らないといけない。もともと歩みののろい亀が、途中でなまけて眠ってしまっては、のちのちの世に、いったいどんな教訓をのこせるというのだ。
 すると亀は、そんなうさぎを見返していった。うさぎさん、どちらがさきにゴールインしようが、それがどうしたというのかね。我々のむかっているゴールが、もしかして断崖絶壁の剣ヶ峰でないと、だれがいえるんだ。それなら途中でのんびり眠って、たのしい夢でもみているほうが、よほど有意義というもんじゃないかい。
 うさぎは、なにかいいかえそうとしたものの、言葉がででこないもようで、いたずらに耳をこすりあわせるばかりだった。
 ―――いきなり起こったすさまじい警笛音に、万吉は目をさました。前方をみると、蛇行したトラックがいま、中央分離帯にのりあげ、車体が道路をさえぎるかたちで急停止したところだった。
「ちくしょう」
 万之助の絶叫とともに、亀を張り付けたままハーレーダヴィットソンは、もはや制御をまったく欠いた状態で、トラック後部に向かって猛然と突進していった。





 


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このストーリーに関するコメント

14/10/25 四島トイ

拝読しました。
面白かったです。爆音や激しい振動にどこかウトウトしてしまう感覚、わかります。ガムテープで固定されて風を切る亀と、『さあ、いくぜ』とハーレーに跨る髭面の巨漢。キャラクター性の光る秀作でした。個人的な要望としては、最後のトラックは少し腑に落ちない、というか……せっかく、ウサギとカメの話が出たので、むしろ必死で走るウサギを寝ているカメがハーレーダヴィッドソンで軽々追い抜く様子が見たかったです。
以上、拙い感想で失礼しました。

14/10/26 W・アーム・スープレックス

四島トイさん、コメントありがとうございます。

なるほど、そういうラストもありましたか。猛スピードにすこし、意識がいきすぎていたのかもしれません。張り付けにされた上に、衝突では、亀にとっては迷惑千万な話でした。せめて居眠りのあいだに、たのしい夢をみてくれたことが、救いになればいいのですが。

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