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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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嘘から出た……?

14/10/05 コンテスト(テーマ):第六十六回 時空モノガタリ文学賞【 舞い降りたものは 】 コメント:10件 光石七 閲覧数:1712

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 とあるマンションの一室。部屋には香が焚かれ、厳かな音楽が流れている。十人ほどが集まり、それぞれ床に座って瞑想していた。
「アジブ神様のお導きの時間です」
古嶋が告げると、彼らは姿勢を正した。ほどなく、ゆったりした白い長衣に身を包んだ御子柴が部屋に入ってくる。御子柴は柔和な笑顔で会釈し、部屋の奥に設けられた上段に登った。目を閉じ、奇妙な言葉で祈り始める。
「セコヨネーカ、ダモカラエマーオ、ノモカーロオ……」
やがて御子柴がカッと目を見開いた。鋭い眼差しに威厳ある雰囲気、先ほどとは別人のようだ。
「教祖様のお体にアジブ神様が降臨されました。加納さん、こちらへ」
古嶋が言うと、三十過ぎほどの女が御子柴の前に進み出て跪いた。
「アジブ神様、どうかお導きを。夫が一向に浮気を止めないのです。懸命に徳積みの修業に励んでいるはずなのですが」
目を潤ませる女に御子柴は低い荘厳な声で言った。
「焦ってはならぬ。汝の夫は前世での悪行ゆえに徳の蓄積が極端に足りぬ。少ない徳では守護の力が弱く、守護の力が弱ければ悪鬼に唆されて然るべき。代わりの徳積みは容易ではないと申したはず」
「はい……私が愚かでした、申し訳ありません」
女はひれ伏した。
「徳を早く大きく積みたいならば、自らを犠牲にして捧げ物をせよ。汝の宝を差し出す覚悟はあるか?」
「はい。では、この指輪も捧げさせていただきます」
女は指輪を外し、上段の脇に置かれた白い箱に向かった。紙幣と一緒に指輪を箱に入れる。それを皮切りに、他の者たちも箱に現金を入れていく。
「汝らの覚悟、しかと受け取った。今後も精進せよ。我が共にあることを忘れるな」
言い終わると御子柴はその場に崩れ落ちた。

「今日の収穫はこれだけか」
古嶋が呟いた。皆が帰った後、古嶋と御子柴は箱の中身を取り出す。
「そろそろ新しいカモが欲しいな。今いる奴ら、もうデカくは出せねえだろ?」
御子柴が長衣を着たまま煙草に火をつけた。
「おい、神の御座で……」
「誰も見てねえんだ、構わねえだろ」
素に戻った御子柴に古嶋は苦笑した。
「全く、大した役者だよ。どこが世俗の欲を完全に断ち切った教祖様だ。苦行の末に神と交わる力を得たなんて、お前の本性見ればデタラメだってわかるのに」
「あいつら本気でアジブ神が乗り移ってると信じてるからな。我ながらすげえ演技力だわ」
御子柴がふーっと煙を吐いた。
 二人が起ち上げた小さな教団『アジブの光』。御子柴は教祖、古嶋は幹部という肩書きだ。教祖を媒介として古代イーラ族の神アジブの言葉を聞き、悩みの解決や来世のために徳を積もうという教えだが、実態は金集めのためのインチキ教団だった。
「お前の教祖っぷりは大いに認めるけど、伊庭さんも結構貢献したかもな」
「あの勘違い霊感ババアな。『こげん光、今ずい見たこつ無か。まこて神様が降りっくる場所じゃ』って方言丸出しで興奮して。確かにあれで他の奴らも『霊的にすごいトコなんだ』って余計に信じ込んで。……ババア最近見ねえけど、死んだか?」
御子柴は金づるが減ることを心配した。
「体調崩して入院中だと。年だしね」
「へえ。死ぬ前に一発ドカンと献金して欲しいわ」
御子柴は金を金庫に入れた。
「指輪の方、頼むな。米粒みてえなダイヤだから、大した金にはならねえと思うけど」
「了解」
古嶋は指輪を小箱に納めた。

 古嶋たちが伊庭夫人の訃報を知ったのは、彼女の身内が葬儀を済ませた後だった。
「伊庭さん、変なことばかり口走るばあさんって認識されてたみたいだな。『アジブの光』のこともちらっと話したっぽいけど、いつもの妄言だと思われたらしい」
「横ヤリが入らず助かったな。徳は陰で積んでこそだって口止めしたのに、やっぱあのババアしゃべったか」
御子柴はため息を吐いた。
「ははっ、ちょっとヤバかったかも。それにしても、葬式のこともちょっと考えなきゃな。うちは徳積みメインで葬式や墓はお好きにどうぞってつもりだったけど、教祖様にお願いしたいって奴も出てくるかもしれない」
「面倒くせえなあ……」
「やりようによってはガッポリ儲かるさ。――教祖様、そろそろ準備を」
 一時間後、信者たちが集まり導きの時間が始まった。
「セコヨネーカ、ダモカラエマーオ、ノモカーロオ……」
御子柴はいつものようにアジブ神降臨のための呪文を唱える。ところが、彼が目を開いた瞬間――
「やっぱいココが一番落ち着っ」
御子柴の口から飛び出したしゃがれ声と方言。信者たちは戸惑い、古嶋も対応に焦る。
「ア、アジブ神様……?」
「古嶋さん、あたいじゃっど。伊庭ヰレノ。やっぱいココは特別じゃった。じゃっどんアジブ神様は忙しかで、あたいが代わりを頼まれもした」
御子柴……に憑依した伊庭夫人は胸を張る。古嶋は言うべき言葉を失った。


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このストーリーに関するコメント

14/10/05 光石七

一つお断りを。
作者は宗教を否定したりけなしたりするつもりはありません。もし不快に思われた方がいらっしゃれば、申し訳ありません。


それから、作中の方言台詞の標準語訳をここに記しておきます。
本文だけでも大意はわかるように書いたつもりですが、他県の方によく外国語と称される方言なもので……

★「こげん光、今ずい見たこつ無か。まこて神様が降りっくる場所じゃ」
  →こんな光、今まで見たことない。本当に神様が下りてくる場所だ

★「やっぱいココが一番落ち着っ」
  →やっぱりココが一番落ち着く

★「古嶋さん、あたいじゃっど。伊庭ヰレノ。やっぱいココは特別じゃった。じゃっどんアジブ神様は忙しかで、あたいが代わりを頼まれもした」
  →古嶋さん、私です。伊庭ヰレノ。やっぱりココは特別でした。でもアジブ神様は忙しいので、私が代わりを頼まれました

……なんか、標準語にするとニュアンスが違ってくる気が……。
方言の味わい深さを改めて感じます。

14/10/06 夏日 純希

『トリック』みたいで面白かったです。
翻訳なくてもわかる範囲だと思いますよ。
呪文をどうやって考えたのかが少し気になりました(笑)

14/10/06 草愛やし美

(* ̄m ̄)プッ 光石七さん、思わず吹き出すラストのオチですね。

悪行は長続きしませんから、って、伊庭夫人が憑依してもっと流行ったりして……。こんな宗教団体、教祖様おりそうです、騙す者に天罰が舞い降りますように、( * ̄)m 〔神〕面白かったです。
呪文、ばれなかったのは文章に書かれていないからかもですね、それとも、御子柴の演技力の賜物かしら。( ̄-  ̄ ) ンー

14/10/07 光石七

>夏日 純希さん
コメントありがとうございます。
そういえば『トリック』にもインチキ教団のお話がありましたね。
呪文は反対から読んでいただければわかるかと。こいつら、人を舐めてます(苦笑)
ちなみにほとんどのネーミングは“嘘”を意味する外国語をいじってます。霊媒、巫女からの思いつきで付けたものもあります。

>草藍さん
コメントありがとうございます。
オチを決めないまま書いていたのですが、急に伊庭のおばあちゃんがしゃしゃり出てきまして(苦笑)
「なんだ、このオチ?」と自分で思っていましたが、吹き出していただけてホッとしました。
伊庭のおばあちゃん、案外教団を正しい方向に導いてくれるかもしれませんよ。
呪文の意味、気付かれましたか。私も「普通、信者の一人くらい気付くよなー」と思いながらも、考えるのが面倒で。 ←おい
信者のみなさんは素直なんですよ、きっと。

14/10/07 滝沢朱音

七さん、こんばんは。
読ませていただきました。

セコヨネーカ(((( ´,,_ゝ`)))) ププッ
宗教と称する中には、インチキなものも多いでしょうが、
伊庭さんこそホンモノだった?
これからはヰレノ神様ご降臨☆

14/10/07 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

最後まで読んでタイトルの意味がわかりました。
現実にこういう詐欺まがいのことあるのでしょうね。
どうせだったら伊庭さんが呪文を反対読みして、カモさんたちの目を覚ましてくれたらよいのに。
面白かったです。
 

14/10/08 光石七

>朱音さん
コメントありがとうございます。
笑っていただけてよかったです^^
アジブ神は御子柴たちのねつ造だったはずなのですが、ヰレノおばあちゃん、魂が肉体から抜けた後に実際に出会っちゃったんでしょうかね……(他人事みたいに、スミマセン)
彼女なら私利私欲なく純粋に教え導いてくれそうな気もしますね。ただ、彼女は勘違いで突っ走る部分もあるので……
これからヰレノおばあちゃんが御子柴の体に降臨することは間違いなさそうです、ハイ。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
詐欺まがいのところも確かにあるでしょうが、多くは純粋に信仰しておられるのだと信じたいです。
舞い降りた伊庭のおばあちゃんは信者たちの救いとなるのか? 実は作者も先が読めません(苦笑)
楽しんでいただけてうれしいです。

14/10/09 シンオカコウ

お話を拝読しました。
序盤の祈祷の言葉の逆読みにウケました。
とんとんとテンポのいいコメディで、安心して読めた作品でした。
この後の教団はどうなっていくのかと思いつつ、乱文失礼致しました。

14/10/10 光石七

>OHIMEさん
コメントありがとうございます。
ええ、OHIMEさんならもっと方言をきつくしてもお分かりいただけるかと。ええ。
皆さん、お仕置きを望まれるんですね。そっちのほうがよかったのかなあ? 嘘・でまかせ・演技だったはずなのに近いものが変な形で降りてきたら面白いかな、と思ったのですが。……いえ、実際はそう理論的(?)に考える前に、伊庭のおばあちゃんが暴走したんですけどね(苦笑)
楽しんでいただけたならうれしいです。

>シンオカコウさん
コメントありがとうございます。
ウケてくださいましたか。よかったです。
お褒めの言葉、恐縮です。
教団の今後は……作者もよくわかりません(苦笑)

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