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Closedさん

LOVE Green,Chemical,Electro,Traditional and lady.

性別 男性
将来の夢 no future
座右の銘 too late

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神田駅ガード下の女神

14/09/30 コンテスト(テーマ):第六十六回 時空モノガタリ文学賞【 舞い降りたものは 】 コメント:0件 Closed 閲覧数:1127

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「めんどくせぇから割りまくった。途中からはYシャツの袖が赤紫色に染まってくのが気持ちよくなって、はい、そっから全く覚えてないっす」
悪びれる様子もなく私の後ろで動く何かを目で追いかけてるところを見ると、こいつは全く反省してない。口から発してるのは言葉とは言えないマネキンだ。この青年、というかクソガキの頭にワインを叩きつけるのは確定させるとして、とりあえず、だ。

また面接で人を見抜けなかった。という自己嫌悪に陥らざるをえない。

私は神田駅の北口から少し歩いたところの地下にあるBarを経営して6年になる。これまで15人以上の男女問わないバイトを雇用してきたが、店の洒落た雰囲気に惹かれるのか、荒ぶった若者が決まって働きたがるのだった。中小企業の集まる街に似つかわしくない店のコンセプトかとは頭をかすめたが、自分のやりたいようにやっちまえばいいか、と軽い気持ちで店を始めた。金は消費者金融から同時にカードを作り、限度額まで一気に借りてそのキャッシュを見せ金にして、銀行融資を借りて、借金を泥のように被って工面した。

失敗したらネパールにいる養鶏場を経営する友人の所に逃げちまえばいい。と思っていたから気分はラクなものだった。気軽に始めれば意外とうまくいく、というかあっけなく繁盛した。私はラクをしたかったから優秀な人材を雇用する為に少しだけ時給を高くして、待った。いや実際はそう、待つこともなく面接志望の若者たちがチラホラと訪れるようになった。彼らはいつだって最初、まじめで真摯で紳士だ。
「はい、人生経験を積みたいんです」
「コミュ障を直したいんです」
「いつか自分の店をもちたいんです」
「秋葉原でアイドルをやってます」
言葉には嘘が交じることくらい私だって分かる。

問題はその頻度だ。100%だ。これまで雇った100%の人間が暴力沙汰を起こしている。悪そうな男だけじゃない、華奢な女の子ですら、だ。

自分の面接スキルを激しく呪う。面接はだいたい2人に1人は落としている。一度、自分が不採用にした面接者が近所のローソンで爽やかに働いていたことがあった。悔しいなんてもんじゃない。その時はレジで銘柄の違うタバコを一度に買いまくって、ついでに「おでん」と「肉まん」を同時に頼んでレジを混乱させてやった。そいつはうろたえることなく、軽やかに商品をさばいていた。悔しさが増しただけだった。

「はっ」と気付いたのは、日付の変わりかけた深夜、神田駅西口のガード下を歩いていた時だった。「いつからだ?これ」目の前が物凄いスピードで分裂している。記憶を振り絞るが思い出せない。考え出したら急に吐き気がしてきた。目の前が歪みだす。立つことすら叶わなくなった私はすがりつくようにガード下の鉄の橋脚にしがみついたまま動けなくなって倒れこんでしまった。呼吸もままならない。何者かが近寄ってくるが目が霞んでぼんやりとしかみえない。何か私に話しかけているようだ。が、耳鳴りが激しくて良く聞こえない。目の前の何者かが舞い降りて私に触れた。「頼む、助けてくれ」と言いかけ、力尽きた。



貧乏くじを引いてしまった。泥酔した男だから私に押しつけられたに違いない。
「客は客で間違いないし、寝かしておいて後でお金を余分に貰えばいいわ」
そう言い残した先輩の言葉を信じて軽く考えていたけれど、この男、酔っ払ってるわけじゃない。何かがおかしい、というか心当たりがある。この感じ、ひどく恐ろしくて懐かしい。考えてみれば、まともな男が相手なら先輩が受けるはずだし不安になってきた。このまま男が死んでしまったら、私はどうなるのだろう。でもその心配は杞憂だった程なくして、男が突如声を発した。
「ここはどこだ」
「あなたは買春したまま寝てしまったのよ、覚えていないの?」
男が嘘を言っているようには見えなかった。でもそんなことより、聞かなくてはならないことがある。
「あなた、ヘロインを常習しているわね」確信を持っていた。私の父と同じ症状だ。
「そんなわけないだろ、私はそんなもので人生を終わらせるつもりはない」意外な反応が返ってきて驚いたが、私は確信しているのでひるまない。
「でも絶対そうよ。誰かに無理やり飲まされてるのかしら。常備薬か常食にしてるもの、ない?」
私は、そんな馬鹿な事があるか、と言葉にしかけたが、開店祝いに水を浄化しミネラル分を補てんするという鉱石フィルターを取り付けてくれた遠藤ってのがいた。遠藤はアーティスト崩れのマリファナ栽培者だ。ありえないこともあいつならやりかねない。

「俺達は店員も客も全員ちょっとずつヤク中になってったのか」
そんな場合じゃないってのは分かっていたが、自分の見る目がないわけじゃないって気づいて嬉しくなった。風俗嬢が駅のガード下に女神となって舞い降りて忠告してくれるとはね。


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