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そらの珊瑚さん

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性別 女性
将来の夢 星座になること
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上州異伝【妻恋記】

12/06/28 コンテスト(テーマ):第九回 時空モノガタリ文学賞【 群馬 】 コメント:6件 そらの珊瑚 閲覧数:2986

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 赤城姫は寝台に身を横たえながら、赤子に乳を与えている。
「あの人ったら今夜もまた午前様だわ。絶対どこかで浮気しているに違いない。そうであったら私にも考えがあるんだから」
 いつの時代にも、亭主にとって妻の眼を盗んでする浮気ほど楽しいものはないのだ。そしてそのことが夫婦の火種になることも世の常。それは神々の間においても変わらないことなのだ。
 赤城姫の夫は浅間ノ尊(アサマノミコト)という。そのすっきりとした目鼻立ちは山神の中でも1,2を争うイケメンであり、赤城姫の一目惚れであった。あの手この手で押しまくる。要は赤城姫は無類の面食いだったのだ。
 夫である浅間の尊は、そんな赤城姫の積極的なアプローチに押し切られ、結婚を承諾した。結果、情熱的な妻との間には、鈴が岳を筆頭に、駒が岳、長七郎山と、あれよあれよという間に七人の子が出来る。
 そして子育てに髪振り乱している妻に、次第に魅力を感じなくなっていく。
 そこへ現れたのが、見目麗しい若い女だった。いつも物静かに微笑をたたえているその女のもとへ、最近ではせっせと通い詰めている。しかし女の眼の奥が時折怪しく光り、赤い舌の先がふたつに割れているのを、のんきな浅間の尊は気づくはずもなかった。
 今日はどんな言い訳をしたものかと浅間ノ尊は妻の元へ帰っていった。
 己の気配を消すようにそっと帰ったにもかかわらず、妻は地獄耳でそれを察知し、浅間の尊の前にたちはだかる。
「今夜という今夜はちゃんと説明していただきますよ」
「いや、その、どうしても抜けられない仕事があって」
「仕事? こんな時間まで?」
「お、男神にはつきあいってものもあるんだ」
「あらっ開き直りですか?」
 そこで浅間の尊は、帰り際に愛人から渡された箱のことを思い出す。
『奥様がうるさいことをおっしゃられるようでしたら、これをお渡しになって』
 と言ってたっけ。
「そうだ、君にお土産があるんだ。これでなんとか機嫌直してくれよ」
「ふふん、お土産なんかでごまかそうとしたって……」
 そう言いながらも箱を受け取る赤城姫。包みを破り、蓋を開ける。すると待ち構えていたように、その中からいきなり白い毒蛇が鎌首をもたげて飛び出してきた。
「うわっ」
 が、意外と敏捷な赤城姫は、すんでのところで蛇の牙から逃れる。
「キエェェ──ィ」
 赤城姫は武道の達人。奇声を発し、すかさず傍にあった山薙の剣(ヤマナギノツルギ)を手にすると、一刀両断、スッパリと蛇の首を切り落とす。
 ピュウゥゥゥ……。
 
 ──そこから吹き出した血がたまり、大沼、小沼ができたのである。
 
 夫に問い詰め、事の顛末を聞かされた赤城姫は激怒した。
「おのれ、我が命を亡きものにして夫を取ろうという魂胆か。許せん」
 そう言い放ち、もぎたての桃をガブリガブリと平らげ、その種をぎゅっと握り締めて女のもとへ走っていった。
 哀れ、女は怒りの桃の種を赤城姫から投げつけられて、一瞬で老婆になってしまった。
 
 ──老神温泉の由来である。
 
 それでもまだ怒りの収まらない赤城姫であったが、それから急に倒れ込み、三日三晚苦しんだのち赤子を産み落とした。赤子は黒檜山と名付けられた。
 しかしその赤子は雷神(ハタタガミ)との間に出来た子であった。不義の子である。
 そうとは知らない浅間ノ尊はそれからは改心して善き夫、善き父となったという。
 「ピカッゴロゴロゴロ」
 時々浮気の虫が動き出すと、不思議と雷が落ちてきて目が覚めるのだった。その度に
『いけない、いけない。私は妻一筋に生きるのだ』と思い直す。

 ──その決心を忘れないように「妻恋」という地まで作ってしまったという。
  
 


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このストーリーに関するコメント

12/06/28 ドーナツ

妻恋の地名の由来には そういういきさつがあったんだ。いや、それにしても、男と女,色恋沙汰は今も昔も変わらないというのが、面白いです。

特に,浮気の言い訳
「男には付き合いがあるんだ」

現代にも充分通じますよね。

12/06/28 かめかめ

あ、あれ!?
姫、不義密通!?
そんな!じゃあ、怒る権利ないよ!?あれれ!?

12/06/29 泡沫恋歌

拝読しました。

実に面白かった。
神話をテーマに書くなんて、なんて知識が深いんでしょう。

いつの時代も男は妻以外の女に興味を持っちゃうんですね。
これは男の性でしょうか?(笑)

そういう謂れで「妻恋」という地が出来たことは勉強になりました。

12/06/29 そらの珊瑚

ドーナツさん
ありがとうございました。

すいません、さも本当のように書きましたが
全てわたしの創作なんです。
なんちゃって神話として、軽い気持ちで読んでくださいね。

12/06/29 そらの珊瑚

かめかめさん
ありがとうございました。

人間社会でしたら、そうなのですが
神話の世界(結構なんでもアリ)なので、お許しを。

12/06/29 そらの珊瑚

恋歌さん
ありがとうございました。

またまたすみません。
知識ゼロの私の頭の中だけの妄想神話なんです。
(注釈をつければ良かった…)
ばち、あたりそう。

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